今回お話を伺った平田さん(写真左)、山本さん(写真中央)、古賀さん(写真右)。

地方自治体の“声を聞く”ため全国に拠点

シフトプラスは2006年に大阪で創業したシステム開発会社だ。ふるさと納税市場への参入で大きく飛躍し、全国の寄附金の約半分を同社のシステムで管理するまでに至っている。なぜ自治体からこれほど厚い支持を得ているのだろうか。

——事業内容についてお聞かせください。

山本さん(以下、敬称略):ふるさと納税に特化した管理システムや業務受託サービスを自治体に向け提供しています。ふるさと納税は2008年にスタートした制度ですが、当初は多くの自治体がエクセルで管理しており、効率的な運営ができていませんでした。そこで当社が2014年にふるさと納税管理システム「LedgHOME®」を開発しました。

 

自治体様のさまざまな要望に応えていった結果、効率的な仕組みをつくることができ、その評判が全国に口コミで広まって、現在では430を超える自治体でLedgHOME®(レジホーム)を活用いただいています。

このように多くの自治体様とお取り引きするなかで、「関連業務も手伝ってくれないか」との相談を受けるようになりました。というのも、ふるさと納税は寄附を受けて返礼品を送れば終わりではないからです。電話やメールによる問い合わせへの対応、返礼品の写真撮影や紹介文の作成、「楽天」や「ふるなび」といったポータルサイトの更新、返礼品を提供する事業者とのやり取りなど、さまざまな業務があります。

当社はこうした自治体様のニーズに対応するかたちで業務を拡大し、コールセンター業務、返礼品を紹介するための撮影やデザイン、ワンストップ特例申請の受け付けなどを受託しています。近年は、さらに寄附金額を向上させるためのふるさと納税コンサルティングも始めました。また、ふるさと納税に限らず自治体の業務を効率化するための総合行政プラットフォーム「LGSTA(レジスタ)」なども手掛けています。

——多くの自治体から信頼を獲得されている秘訣は何でしょうか。

古賀さん(以下、敬称略):お客様の要望に「ノー」と言わないことかもしれません。自治体ごとに業務プロセスは異なりますし、システム導入後も現場から細かい要望が出てきます。エンジニアとして全体を見渡すと、利益や納期の関係からすべての要求をのむことは難しいものですが、ときには採算度外視で取り組み、もしどうしてもできない場合も代替案を出すようにしています。お客様目線に立って、実現したいことが可能になるように、「できない」で終わらせないというのが当社のスタンスです。

山本:「ノー」と言わないことで、事業領域が広がってきたとも言えます。手一杯な自治体の困りごとを解決するため、例えば「返礼品の写真がうまく撮れない」という自治体担当者の話をきっかけに、カメラマンによる魅力的な写真の撮影、デザイナーによる加工、ライターによる紹介文の作成ができる体制を社内で整え、ポータルサイトの更新までを一気通貫で請け負うようになりました。

 

また、2022年8月にはふるさと納税における「ワンストップ特例申請」がスマホで完結するアプリ「IAM™(アイアム)」をリリースしました。それまでの紙に書いて発送してという手間をなくすもので、マイナンバーカードの公的個人認証サービスを活用した民間のアプリの中では最多ダウンロード数のアプリとなっています。

今後、公的個人認証サービスに対応した自治体サービスが増えていけば、このアプリを通したさまざまな展開が考えられます。このように当社では、現場のニーズに応じて新たなシステムを開発し、それを横展開することで成長を続けてきました。

——営業所も年々増えていますね。

山本:北は北海道から、南は鹿児島まで全国22カ所に営業拠点を設けています。総務経理などの本社機能が大阪本社にあるほかは、LedgHOME®の開発や導入を中心とする事業所、ふるさと納税の受託業務を中心とする事業所、コンサルティング業務を手掛ける事業所など、それぞれ得意分野が異なります。

自治体職員の方が「地域を良くしたい」との思いで当社に加わり、その地で営業所を開設したケースもありました。各営業所で、得意分野のある人を中心に専門部署が立ち上がり、適性を持ったメンバーが集まっていますので、営業所ごとに異なった雰囲気やカルチャーが育まれています。

名刺の裏面には社員の「ふるさと」が記されており社員自身で好きな色を選ぶことができる

——リモートで仕事ができる時代に、逆に拠点を増やしているというのは興味深いです。

古賀:当社は自治体様の細かな要望にも100%自社開発でお応えしています。エンジニアという職種柄、リモートワークが中心と思われることも多いですが、プログラミングをすることだけが仕事ではありません。お客様とメールやお電話、オンラインでお話しして要望を聞き取り、即座に対応することこそが満足度の高いシステムにつながります。

また社内においては、メールやリモート会議ではなく、必要があれば他営業所の社内担当者に会いに行って、直接コミュニケーションをとることに大きな意味があると考えています。

山本:会社に集まったり、各地に出かけて人との交流を重視しているという社風も関係していると思います。リモートワークで一人もくもくと仕事をするよりも、いろんな業種の人、異なる個性をもつ人と一緒に仕事をして意見を出し合ったほうが、より良いサービスの提供につながると考えています。

平田さん(以下、敬称略):各地域の拠点開設によって地域に根付いた事業展開も行っており、その土地で雇用を生み出していくことで、地域と共に成長していくことを目指しています。

——どのような方が活躍されていますか。

平田:自分から「こういうことをしたい!そうすれば皆のためになる」というやる気と情熱のある人が活躍している印象です。また、どの職種の方もですが、最終的には自分の行動が地域や人のためになると思って働いています。

たとえ知識や技術が一流でも、心が伴わないと人はついてきません。採用の際には「心を磨ける人」を求める人物像とし、スキルだけではなく意欲や人柄も重視しています。

執務室のデジタルサイネージには社内の取り組みなどが投影されている

人が集まるオフィスにリニューアル

シフトプラスは福岡営業所を2023年2月に移転リニューアルした。2016年の開設から7年を迎え、さらなる人員増加を見込んで、より便利な立地に拡大移転を行った。

——新しい福岡営業所のオフィスは、どのようなコンセプトでリニューアルされたのですか。

山本:福岡営業所には毎週、他の営業所のスタッフが来て仕事をしています。フレキシブルオフィスのように、立ち寄った人がすぐに仕事を始められ、また歩き回れて声がかけやすいような「人が集う場所」をコンセプトにしました。

平田:デスクは4~6人の島を縦と横に交互に置き、会話が生まれやすい配置に工夫しています。自席はありますが、そこにずっと座って仕事をする必要はなく、自由にどこでも作業ができるよう開放感のある空間にしています。

古賀:ちょっとした打ち合わせがしたいときに、会議室の他にボックス席やワークブースなどが利用できるところが便利ですね。エンジニアとしては、椅子の座り心地がいいことも助かっています。社長をはじめ、営業所の所長数名が集まって、実際に座り比べてみて選んだもので、他の営業所でも採用されています。

——福岡営業所ならではの特徴はありますか。

山本:福岡営業所はメンバーの出身地が多彩で、在籍する28人のうち福岡県出身者は6人のみです。また福岡は空港も近くアクセスがよいので、いろんな人が行き来する「ハブ」のような営業所となっています。そうした背景もあって、会議室には交通をテーマにした名前を付けています。

エントランスを入ってすぐの会議室は、「福岡空港」「博多駅」「天神ターミナル」と名付け、社内の会議室は「海の中道」、ワークブースを「能古島(のこのしま)」としています。

古賀:リフレッシュスペースの壁には、取引先の自治体様の特産品をモチーフに当社が手掛けたアートワークを飾り、会話のきっかけにできればと考えています。

——2023年3月には宮崎県都城市に、最大規模となる新社屋も完成されました。

山本:宮崎県都城市は、ふるさと納税で全国トップクラスの寄附額を集める自治体です。都城営業所では、現在30以上の自治体業務を担い、約130人の従業員が働いています。さらなるサービス充実のためにオープンした新社屋では、最大320人が働ける環境を整えました。料理ができるキッチンや写真撮影が行えるスタジオを備え、ふるさと納税の返礼品専用の部屋も設置しています。

都城市さんとは包括連携協定を締結しており、ふるさと納税の他にも、行政向けの新たなサービスを始めるときには、実証実験をさせていただいています。都城市コミュニティセンターという公民館の運営も受託しており、イベント開催を企画するなど地域に根付いた取り組みをしています。

働きがいにつながる制度や社会貢献活動

—スキルアップの支援などはされていますか。

平田:資格取得支援制度があり、例えばAWS(Amazon Web Services)認定など業務に生かせる資格の取得については、受験費用や交通費を支給しています。セミナー等の参加も歓迎しており、自社でも社内研修会を実施して、各拠点の横のつながりを強化しています。

拠点が増えていることから横のつながりを増やすことも大切にしており、全営業所から150人ほどのスタッフが集まる懇親会も開催しています。職種柄あまり出張がなく、他の営業所のメンバーと交流する機会の少ないスタッフも、情報交換ができる場になっています。

—有給休暇の取得状況はいかがでしょうか。

平田:繁忙期でなければ有給休暇はそれぞれ好きなタイミングで自由に取得しています。ふるさと納税という事業柄か、旅行好きなメンバーも多いので、ゴールデンウィークと有給休暇をあわせて9連休をとって海外旅行に行くといったことも珍しくありません。

——社会貢献となるような活動はされていますか。

山本:地域のイベントで子ども向けのプログラミング教室やデザイン講座を開いたり、高齢者へのスマホ教室を行ったりしています。また、地域スポーツ協賛として、各地でサッカーチームのスポンサーを務めています。そのほか、企業版ふるさと納税を活用した自治体への寄附なども行っており、さまざまなかたちで地域に役立つ取り組みをしています。

地域とともに成長し、日本を元気に

ふるさと納税の市場拡大とともに成長を続けるシフトプラス。一点集中の事業戦略にもみえるが、どのような未来を見据えているのだろうか。

——今後の展望についてお聞かせください。

山本:ふるさと納税は制度も年々かわり競争も激しくなっています。柔軟な対応を求められる自治体側でもPR方法・業務のデジタル化(効率化)など求められる内容が日々変化しています。

そのときに、日本で最も使用されている民間の公的個人認証アプリとなった「IAM™」など、新しいサービス展開が新たな柱になると考えています。今後も、かたちは変わるかもしれませんが、自治体様の課題解決のサポートを通して地域に、そして日本に貢献していきたいと思います。

——最後に、どのような方と一緒に働きたいですか。

山本:自身の考えをしっかりもったうえで周囲と連携がうまくとれる方、話していて楽しい方と一緒に働きたいですね。福岡営業所はオフィスも新しくなり、連携先も増えています。いろんな個性をもった方に来ていただきたいです。

古賀:自分で問題解決していく自走力のある方をお待ちしています。また、私たちがしていないような経験をされてきた、個性ある方とぜひ一緒に働きたいです

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取材のウラ側

すでにあるものに人を合わせるのではなく、使う人に合わせてサービスをつくり、働く人に合わせて会社を変化させていく。「人中心」のカルチャーが同社の一番の魅力であり、顧客を増やし、従業員を増やしている要因であると感じた。同社が掲げる「あなたの力は、日本の力だ。」というブランドプロミスの通り、自治体の住民サービス向上に貢献することは、地域から日本を力づけることになる。シフトプラスがつくる新しい官民共創のかたちに注目したい。