インタビューにお応えいただいた近藤圭子さん

広告の枠を超え、ここに住む幸せを創造する

名古屋を拠点に約60年にわたり広告業を手掛けてきた電通名鉄コミュニケーションズ。「名鉄(めいてつ)」の呼び名で地域から愛される名古屋鉄道株式会社と連携する同社は、東海エリアのことを最もよく知る広告会社だ。

―事業内容を教えてください。

当社は社名の通り、株式会社電通グループの一員であり、名古屋鉄道のグループでもある総合広告会社です。電通グループで唯一、名古屋に本社をおく企業として、名古屋エリアの企業を中心に、ビジネスをともに動かすパートナーになることを目指しています。

「地域とともに」の想いを反映し、来客スペースには愛知の伝統工芸の紋様をデザインしたパーテーションが配置されている

広告コミュニケーションにおいては、テレビやデジタル、新聞といった一般的なメディアに加え、名古屋鉄道の交通広告を販売・管理(メディアレップ)していることもひとつの特徴です。また官公庁の仕事も多く、国体や植樹祭など天皇・皇后がご一緒に外出をされる行幸啓の対応をさせていただいています。

また、一級建築士が在籍しており、空間プロデュースや実際の構造物までお手伝いさせていただけるところも、他の広告会社にはあまりない特徴といえます。

移転によりさらにオープンかつフラットなコミュニケーション、多様な働き方を実現

―「名鉄」と聞いて、真っ先に思い浮かぶのが「ナナちゃん人形」です。

まさにそのナナちゃん人形のメディア管理を当社が担っています。有り難いことに、ナナちゃんにはファンがついてくださっていて、SNSでも話題になります。昨年は、ナナちゃん人形のリニューアルでナナちゃんがいなくなったこと、ナナちゃんの妹ミナちゃんも話題になりました。話題になりました。名駅のシンボル「ナナちゃん」で、街の活性化をお手伝いしています。

名古屋駅に設置されているナナちゃん(右)と妹のミナちゃん(左)

―名鉄グループとの連携で、エリア全体に波及する広告が展開できるところは大きな強みですね。

おっしゃる通りです。広告コミュニケーションにとどまらず、名鉄グループさんと一緒に何か新しいことをこのエリアに仕掛けていきたいという思いをもっています。このエリアに暮らす方々の幸せを創造していきたい、そのために私達は広告会社の枠を超えて何ができるだろうかということを常に考えています。

様々な広告物において、多くの受賞歴がある同社

本当の課題を見つけ、想定を超えていく

―企業の広告コミュニケーション活動を行う際には、どのようなことを大切にされていますか。

日々心に留めているのは、クライアントの課題にしっかりとコミットするということです。例えば、クライアントからは多くの場合、「こういう課題があるから、このようにしたい」という要望をいただきます。それを立ち止まって俯瞰して考える。言い換えれば、ポジティブに疑ってみるということをするようにしています。

クライアントの提示した要望が、競合を含めた環境において、あるいは時代のその先を見据えたときに「本当にそうなのだろうか」ということをよく考えてみるのです。そして「本当の課題」を見つけ、そこに向き合ってプラスアルファの提案をすることを大切にしています。

 

 

―広告を通した「課題解決」という視点が重要なのですね。

時代の変化のスピードは加速しています。そのなかでクライアントがさらに進化を遂げていくためには、広告コミュニケーションだけでは十分ではありません。クライアントの事業そのものの課題解決を担い、ビジネスに並走させていただくパートナーでありたいと考えています。

特に、愛知県は「ものづくり王国」ともいわれ、中小企業はもちろん、ニッチな産業で実はシェア90%を獲得しているというような隠れた優良企業も数多くあります。近年は、そうした地域を支える企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)化に対応していくために、基礎から高度なレベルまでご提案していくという機会も増えています。

共通項は、楽しんでいること、考えるのが好きなこと

―今までにないものを創ったり、提案していく、クリエイティブなお仕事だと思いますが、どのような方が活躍されていますか。

クリエイティブ部門では、日々、自分自身がワクワクすることを大切にしている社員が多いですね。仕事でみせるA面以外に、情熱を傾けるB面を持っていて、「実は私、〇〇オタクなんです」というように、何かにハマっている社員が多いです。

個人作業に集中できるようにワークプレイスの角や奥に一人用デスクを配置している

そしてそれを仕事に結びつけてしまったという人も中にはいます。もちろんクライアントの課題解決に向けた価値創造であることが前提ですが、自分自身も楽しんでいるなと感じることがありますね(笑)。

あとは、とにかく「考えることが好き」という社員が多いので、放っておけばずっと考えています。年齢にかかわらず、楽しさの本質を追求していて、考えることに情熱を注げる人。また、考えたことを行動に移せる人が多いのではないかと思います。

 

 

―「年齢にかかわらず」というのも、ひとつのポイントでしょうか。

そうですね。年齢にかかわらず、発案した内容に対して認められる風土があると思います。NOとは言わず、とにかくチャレンジしてみるということを応援しています。

特に今は、日本の広告市場においてデジタル広告がテレビ広告を抜き、SNS起点の行動マーケティングの時代にシフトしており、若手の感度や感性が求められます。最近では若手を中心とした「部署横断プロジェクト」も始動しました。案件があって集まるのではなく、自発的に新たな視点でビジネスを起こしていくための取り組みです。

 

 

一方で当社では、ウェブ解析士の資格を約60%の社員が取得しています。ベテランの社員がデジタルの最先端の内容を提案するということも日常的にありますので、年齢の垣根は本当に低いと思います。

―フラットに対話ができる環境なのですね。

社長室もガラス張りの部屋になっていますし、役員や上司と距離が近いというのも特長かもしれません。現社長は6年目になりますが、毎月、誕生月の社員を集めて誕生会ランチを開催しています。何か希望があれば、その時に直接伝えれば叶う可能性もありますよ(笑)。

ガラス張りの社長室はオープンさ、フラットさという企業文化を表す象徴的な場所だ

―キャリア形成の支援などもされていますか。

電通グループの研修プログラムを活用しており、例えば、デジタル領域の基礎から、解析レベルの高度なものまで、オンラインで学ぶことができます。また、コンプライアンスやアンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)など、組織において、また広告クリエイティブにおいて必要な意識の醸成にも役立つコンテンツが充実しています。また、セミナー受講や資格などの費用負担を援助する「キャリア支援制度」も独自に導入しています。

個室ブースは機密性の高い会話やWeb会議をする際によく活用されている。

アイデアが生まれるオフィスにリニューアル

電通名鉄コミュニケーションズは、支社のオフィスから段階的にリニューアルを進め、2022年3月に本社の移転リニューアルを完了した。新たなオフィスにはどのような思いを込めたのだろうか。

―オフィスも開放的でオープンな雰囲気を感じますが、どのようなコンセプトでリニューアルされたのですか。

斬新なアイデアが生まれ、イノベーションが加速するようなオフィスにしたいという思いから、「万華鏡ーカレイドスコープ」をコンセプトにしました。色とりどりの宝石が反射し、刻々と姿かたちを変える万華鏡のように、多様な個性がくっついては離れ、常に新たな化学反応が起こる空間をイメージしています。

同社の源泉であるクリエーティブやイノベーションを補完する快適性、機能性、創造性の要素が随所に盛り込まれている

具体的には、「交流」「活発」「集中」「機密」という4つのエリアを設けました。そのなかから一人ひとりが、その日取り組む業務に合わせて、仕事をする場所を選びます。私自身、出社するとまず、「どこに座ろうかな」と考えるのが楽しみになっています。また、たまたま隣り合った、それまで接点のなかった人と会話が生まれ、新たな発見が生まれるといった機会も生まれています。

入り口付近には個性的な社員たちが交流できるようなミニカンファレンスエリアがある

―多様なワークスペースが用意されていますが、人気の場所はどこですか。

先ほどお伝えした通り、考えることが好きな社員が多いので、集中ブースは人気ですね。新オフィスには随所に防音壁を用いたり、サウンドマスキングシステムを採用したりと、集中を邪魔しない音への配慮がなされています。外の景色を楽しめる窓際のファミレスブースも、数名での打ち合わせがしやすいと人気です。

個人作業だけでなく共同作業にも適した自然光が入るファミレスブース
防音壁に囲われた半個室の集中ブースも社員に人気だ

変わる名古屋。その改革をリードする存在に

名古屋は2027年(予定)にリニア中央新幹線の開通を控えており、そこへ向けた名古屋駅周辺の再開発も進められている。この大変革のときに、電通名鉄コミュニケーションズは何を打ち出そうとしているのか。

社会や自然環境への貢献のためにも、海洋ゴミ等のプラスチックを集成して作られたプレシャスプラスチックタイルのアートを入口付近に採用している。

―リニア中央新幹線が開通すると、名古屋は大きく変わりますね。

人の流れが大きく変わると見込んでいます。新幹線では東京ー名古屋間が1時間40分かかっていましたが、リニア中央新幹線では品川ー名古屋間が40分に短縮します。名古屋エリアに住んで、東京で働くということも十分可能になると考えられます。

名古屋は、すべてが程よい距離の中で完結できて、本当に住みやすいところです。東京ほど電車が混んでいませんし、車を少し走らせれば海や山にも行くことができます。リニアの開通により、名古屋の人口が一気に増えるということも、あり得ない話ではないと思っています。

―変化のさなかにある名古屋で今後、どのような展開をお考えですか。

リニアの開通により人の流れが変わることで、物流や商流が変化し、マーケット規模は確実に変化します。これにともない、統合プランニングの視点をもち、デジタルADやデータマイニングなどDX領域まで幅広く対応していきたいと考えています。これからもクライアントの商機につなげていけるよう、当社がもつあらゆるツールとノウハウを使ったご提案をしてまいります。

また、名鉄グループと共に、名古屋駅周辺の再開発を牽引していくことも当社のミッションです。総合広告会社として、また一級建築士が在籍する空間プロデュースへの強みも活かして、このエリアの発展のために力を尽くしたいと思っています。

水と空気以外はすべて広告にできる……。極端かもしれませんが、新しいメディアの開発や、この空間をこう活かしていこうというアイデアの提案など、今までなかったところに価値を創造し、地域を活性化する広告会社でありたいと考えています。

※なお、DMCはこの度第35回日経ニューオフィス賞「中部ニューオフィス奨励賞」を受賞しました。

https://www.dm-c.co.jp/news/entry-121.html

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取材のウラ側

地域に根ざし愛着をもちながら、課題を冷静に見つめ、成長につなげる。これを存在意義としてきた同社のお話からは、先端をいく広告会社でありながら温かみが感じられた。楽しんでいる人、考えることが好きな人がフラットに意見を出しあっている職場は、想像するだけで素敵だ。新たな局面を迎える名古屋が、同社と名古屋鉄道との連携でどのように変わっていくのか楽しみである。