整いすぎたオフィスが、組織を蝕んでいた

——2023年5月に東京本社オフィスを移転しました。その背景にあった課題を教えてください。

藤本: 組織が大きくなるにつれて、社員の中に無意識のうちに「受動的で安定した働き方」が定着してしまっているのではないか、という強い危惧がありました。かつてのJINSには、正解がない中で自ら場を切り拓いていく「ベンチャー魂」がありましたが、組織が成熟するにつれ、いつの間にか「整えられた仕組み」によって安定志向になり、新しい価値づくりへの挑戦が減っていました。

 

当社で約17年働いている私自身、その空気の変化を肌で感じていました。以前の飯田橋オフィスは非常に洗練された高層ビルの中にあり、誰もが羨むような素晴らしい環境でした。しかし、その「あまりに完成されすぎた空間」に身を置くことで、無意識のうちにハングリー精神が削がれ、社員が自分たちを「大企業の一員」という枠に収めてしまっていたのではないか——。そんな空気が、オフィスの雰囲気からも漂っていました。

グローバル人事戦略本部の藤本早織さん

——オフィスを移転することで、その問題を解決しようとしたわけですね。

藤本:はい。今回の移転にあたってCEOの田中仁からは「大企業病にかかった社員に、もう一度ベンチャー魂を取り戻させたい」という強い想いを聞いていました。便利で快適な環境に甘んじるのではなく、自分たちで試行錯誤し、新しい価値を創造しようとする「泥臭いエネルギー」を呼び起こす。そのためには、これまでの成功体験や「当たり前」を一度壊すような変化が必要だと示されたのだと受け止めています。

 

そうして誕生した新本社は、使う人がクリエイティブに工夫しながら働くことができる空間を目指し、築45年のビルを「壊しながら、つくる」という非常にユニークな手法がとられました。すべてがお膳立てされた受動的な環境ではなく、“壊した”ことで生まれた余白、いわば「隙」をあえて残す。使う側である私たち社員が「どう活用するか」を自ら工夫し模索することで、新しい働き方創りにも挑戦するオフィスになっています。こうした環境が、JINSが本来持っていた能動的な姿勢を、自然と引き出す仕掛けになっているのだと感じています。

入り口を入るとすぐに「ONCA COFFEE 神田店」があり、近所の人たちや社員の方たちの憩いの場となっている

——今、話にあった「壊しながら、つくる」は、新オフィスのコンセプトだそうですが、もう少し詳しく教えていただけますか?

藤本:このオフィスは、あえて天井の梁を露出させるなど、徹底した「引き算のデザイン」がなされています。美しく整いすぎた場所ではなく、あえて「隙」を残した空間にすることで、使う側の創意工夫を引き出す狙いがあります。

 

また、組織が拡大する中で「面積を半分に絞る」という決断も大きな特徴です。物理的な距離をあえて縮めることで、部署の垣根を越えた偶発的な交流を生む仕掛けになっています。

 

実際に働いてみると、面積以上の広がりを感じますね。執務フロア(5階~8階)を繋ぐ吹き抜け「Open Art Tube」によって視線が上下に抜けるので、他部署の動きが自然と伝わってくるんです。この「縦のつながり」があるからこそ、窮屈さは全くなく、むしろ組織としての密度がぐっと高まった実感があります。

吹き抜けの手すり部分に特殊な「プリズムシート」が貼られており、光が屈折・反射することで、オフィス内に虹色の輝きが映し出される仕組みになっている/Ⓒphoto Takumi Ota 
Ⓒphoto Takumi Ota

——実際に新オフィスで働いてみて、当初の想定と違った点はありましたか?

藤本:正直、年月が経つにつれてコロナ禍時代と比較してオフィスを利用する社員も増え、窮屈さは出てきています。ただ、それが逆に社員の工夫を促しているとも感じています。

例えば、2階フロア「原っぱ」は、社員が自由な発想で活用でき、みんなが集まれる場所として、これまで研修や会議などで大人数での利用を中心に使ってきました。一方で、出社率が高まるにつれ、執務スペースを増やせないか模索していたところ、総務部が主体になり「原っぱ」の活用を推進することになりました。今は「原っぱ」の利用状況をみて、執務スペースとしても解放されています。「こういう使い方ができるかも」という発想が社員から自然に湧き出るオフィスになりました。

2階フロア「原っぱ」の床下には、種ベンチ(約200脚の折り畳み式ベンチ)を収納/Ⓒphoto Takumi Ota
Ⓒphoto Takumi Ota

社内サウナの効能とは?

——吹き抜け階段などによって縦の空間や一体感を作っているとのことですが、具体的にどのような変化がありましたか?

藤本:以前のワンフロアオフィスは、全員の顔がすぐに視界に入るという安心感がありました。しかし新本社は9階建てで、執務フロアは5階から8階にまたがっています。フロアの移動が増えたことで、様々なメリットがありました。

 

人事は各部署の状態を把握するのも役割の一つですが、今は内階段を上下に行き来することで「あの部署は活気があるな」「今は集中モードだな」といった空気感が自然と伝わってきます。階段でのすれ違いも、意図しない挨拶や雑談を生む大切な機会になっています。

 

また、吹き抜けを設けることで本来はフロアが分断されていた空間に一体感が生まれました。それによって心理的にもフロアの移動がしやすくなることで、社員同士のコミュニケーションが生まれているように感じます。

 

自身の部署に限らず、他の部署の社員とも積極的にコミュニケーションが生まれる仕掛けによって、JINSが大切にしている主体性やクリエイティビティを呼び起こすきっかけになっています。

Ⓒphoto Takumi Ota
Ⓒphoto Takumi Ota
Ⓒphoto Takumi Ota

——興味深い点でいうと、オフィス内にサウナを設置されたと聞きました。かなり思い切った決断ですね。

藤本:9階の「ARNE SAUNA(アーネ サウナ)」は、まさにこのオフィスで目指した、創造的な働き方を象徴する場所の一つです。

 

導入のきっかけは、CEOの田中仁がサウナによる「脳のリフレッシュ効果」に着目したことでした。単なる福利厚生ではなく、煮詰まった思考をリセットし、自由な発想を生むための「クリエイティブなツール」として導入しています。

 

設計にあたっては、日本サウナ学会代表理事の加藤容崇先生に監修いただきました。外気浴スペースにホワイトボードを置いたり、サウナ室内を対面形式にしたりと、自然な対話が生まれる工夫を凝らしています。

 

1名用のソロとグループ用の2パターンを運用しており、実際にサウナでミーティングを行うチームもあります。オフサイトのような開放的な空間で、役職や部署の垣根を超えたフラットな対話が行われることで、JINSらしい新しいアイデアの発散を目指しています。

対面式の座席配置で、役職に関係なくフランクに会話ができるグループサウナ/Ⓒphoto Takumi Ota
外気浴スペースには、リラックス中に浮かんだアイデアをすぐに書き留められるよう、ホワイトボードを設置

——実際の効果はいかがでしょうか?

藤本:物理的に距離が縮まるというのは、言葉の上では分かっていたことですが、実際に体感してみると想像以上です。一緒にお風呂に入るような感覚に近い。それだけで信頼関係が自然と深まります。

 

上田:私は昨年10月に入社したばかりですが、入社1カ月以内に人事戦略部のメンバーとグループサウナに入る機会がありました。距離感の縮まり方のスピードに驚きました。また、普段は仕事で接点がない他部署のメンバーとでも一度こうした場で交流すると、その後の雑談や相談がしやすくなるのです。中途入社の社員が早期に組織に馴染むためのツールとしても有効だと実感しています。

グローバル人事戦略本部の上田晃世さん

藤本:JINSにはサウナ部もあって、社外のサウナ部と合同で活動しているようです。「オフィスにサウナがある会社」として、他社から一目置かれる存在にもなっているみたいですよ(笑)。

一人で瞑想し、思考を整理するためのプライベートな空間としてソロサウナも設置/Ⓒphoto Takumi Ota
業務時間内の利用が認められているため、リフレッシュして生産性を高めることが可能/Ⓒphoto Takumi Ota
採用情報はこちらから

自然とアートを感じられるオフィス環境

——オフィス内にはアート作品も多数配置されているとのことですが、その狙いは何でしょうか?

藤本:社員のクリエイティビティを刺激するためです。新しい価値を生むこと、何かに挑戦するには、スタッフ一人ひとりが問題を発見する力や想像力が必要になってきます。こうした創造的な働き方を促すため、アートから社員の感性を高めようという狙いがあります。

 

例えば、アートは、国際的に活躍するキュレーターである長谷川祐子氏に監修いただいています。3階フロアのギャラリースペースのアートを入れ替えるタイミングには、実際にそのアートを制作されたアーティストをお招きしてイベントを開催しています。もともとアートに関心のなかった社員も、そうした場を通じて少しずつクリエイティブへの感覚が磨かれてきていると感じています。

Ⓒphoto Takumi Ota

——創業の地である群馬・前橋には「JINS PARK」があります。こちらの役割についても聞かせてください。

藤本:JINSには「地域共生事業部」という名称の部署が存在しますが、実はそうした組織ができるずっと前から、私たちは地域に根ざした店舗設計やデザインを当たり前のように大切にしてきました。JINS PARKは単なる店舗ではなく、地域コミュニティーのハブとして機能することを目指しています。地元の方々が自由に使える広場を設けるなど、前橋という街に根ざした施設として設計されています。

 

こうした姿勢は、ここ神田の新本社でも一貫しています。オフィスを「社員だけの閉じた場所」にするのではなく、1階には誰でもふらっと立ち寄れるカフェ「ONCA COFFEE神田店」を併設し、コンサートなどのイベントを通じて街に開放しています。

 

また、形としての施設だけでなく、社員一人ひとりが「街の一員」として活動することも大切にしています。神田明神のお祭りや地域の綱引き大会に全力で参加するなど、この街の熱量に直接触れる機会を大切にしています。自分たちのブランドを一方的に押し付けるのではなく、その土地の歴史や文化をリスペクトし、地域の方たちと一緒に成長していきたい。そうした「余白」のある関わり方こそが、JINSらしい地域共生のあり方だと考えています。

「ONCA COFFEE 神田店」では美味しいコーヒーやフィナンシェ、クッキーなどの焼き菓子が楽しめる/Ⓒphoto Takumi Ota
Ⓒphoto Takumi Ota
Ⓒphoto Takumi Ota

「努力は、夢中に勝てない」

——オフィスの話を聞くに、非常にクリエイティビティに富んだ社員が多い印象です。実際、JINSではどのような人が活躍していますか?

上田:ビジョン「Magnify Life」に共感し、主体的に動ける方です。東証プライム上場企業としての盤石な基盤は持ちつつも、私たちはあえて『挑戦者である』ベンチャー魂を大切にしています。事業も組織も作り続けていくフェーズだからこそ、出来上がった仕組みに乗るのではなく、自分たちで仕組みそのものを創り上げていく面白さや、挑戦の舞台が数多く用意されています。仕組みそのものを自分たちで作っていく姿勢を持っている方が活躍しています。

 

藤本:田中(CEO)がよく口にするのが、「努力は夢中に勝てない」という言葉です。スキルや経験を積むための努力も大切ですが、何よりも「好きだから」「やりたいから」と、我を忘れて没頭している人のエネルギーには誰も敵わないという意味です。

 

逆に言えば、もし今の仕事に夢中になれないのであれば、無理にJINSに留まらなくていい——。採用や面談の場でもそう率直に伝えるほど、私たちは一人ひとりの「内側から湧き出る情熱」を重視しています。

 

実際に活躍しているメンバーに共通しているのは、完成された仕組みを求めるのではなく、自ら課題を見つけて「仕組みそのものを作る」ことに夢中になれる主体性です。この「未完」のオフィスを実験場のように楽しみ、変化さえも面白がれる。そんな「夢中な人」たちが、JINSの新しい価値を創り出しています。

 

上田:キャリアチャレンジ制度もその表れです。入社年数や経験を問わず、店舗スタッフでも本社機能の未経験部署に挑戦できる制度があります。社歴や年齢の枠にとらわれない大抜擢も珍しくありませんが、聞けば「本人がやりたいと手を挙げていて、なおかつ今の仕事できっちり結果を出していたからお任せした」という答えが返ってくる。それがJINSの風土です。

 

藤本: 加えて、挑戦に伴うリスクを恐れず、「まずは打席に立ってみる」ことを大切にしています。もちろん会社として致命的な事態にならないようフォローはしますが、本人の成長に繋がるのであれば、あえて難しい局面も自らの力で乗り越えてもらう。

 

大切なのは、結果がどうあれ、そこから「何を学んだか」を振り返り、組織全体の糧にすることです。私自身、これまで多くの試行錯誤を繰り返してきましたが、そのたびに周囲が私の得意・不得意を見極め、強みを伸ばせる環境を整えてくれました。そうした「挑戦を支える寛容さ」があるからこそ、みんな夢中で走り続けられるのだと思います。

Ⓒphoto Takumi Ota
Ⓒphoto Takumi Ota

——藤本さんは17年間JINSに在籍されています。長く働き続けられている理由は何でしょうか?

藤本:一言で言えば、やはり「人の魅力」に尽きますね。人事が言うとポジショントークに聞こえるかもしれませんが(笑)、これは17年間働き続けてきた私の偽らざる本心です。

 

JINSには、画一的な正解を求めるのではなく、互いの個性を尊重し合える土壌があります。それぞれの強みはもちろん、弱みさえも「人間味」として受け入れ、補完し合える仲間が揃っている。そんな心理的な距離の近さと、互いをリスペクトする姿勢が、JINSならではの人の魅力だと感じています。

 

上田:確かに、同意します。私は前職で転職エージェントをしており、数多くの求職者の方と面談を重ねてきたのですが、退職理由を深掘りしていくと、最終的には「人間関係」に行き着くケースが非常に多いと実感していました。JINSに入社してさほど経っていませんが、そういった悩みは今のところ一切ありません。

 

藤本:その背景には、単に「仲が良い」だけでなく、「全員が同じ方向を向くための仕組み」があるからだと思います。 例えば本部では、月に一度、全社員が参加する「月度朝礼」を行い、経営層から最新の戦略を直接共有しています。全員がタイムリーに同じ情報を得ることで、組織としての「一体感」と「スピード感」を維持しているんです。

 

こうした連帯感は、グローバル展開を加速させる今のJINSにとって大きな武器です。私たちは今、アジアや北米など世界中に「日本発のアイウェア文化」を広める第二創業期にあります。世界中のお客様に新しい価値を届けるべく、組織そのものも世界基準へとアップデートし続けている真っ最中です。

 

店舗でも本部でも、一人ひとりがビジョンに「夢中」になり、バトンを繋いでいく。この「人を大切にし、共に世界の頂点を目指す」文化があるからこそ、私も17年間、飽きることなく走り続けられたのだと感じています。

——ありがとうございました。

この企業のことをもっと知る

取材のウラ側

JINSがあえて築45年のビルを選んだのは、あくなき「ベンチャー精神」の再燃が目的でした。取材で驚かされたのは、仕上げを剥がしたラフな空間と、面積を半分に絞る決断です。吹き抜けに「プリズムシート」を貼り、虹色の光を映し出す視覚的な仕掛けに加え、空気浄化アートやサウナなど、五感を刺激する環境が整っています。利便性を捨ててでも感性を研ぎ澄まそうとする、同社の覚悟の象徴のように思えました。

編集部が推したい福利厚生や支援制度
1. ARNE SAUNA(アーネ サウナ)

本社内に設置された本格的な従業員専用サウナです。勤務時間中の利用も可能で、外気浴スペースにはホワイトボードも完備。リラックスした状態での自由なアイデア出しや、部門を超えた交流を促進しています。

2. 従業員持株会

給与の一部で自社株を購入できる制度です。拠出金に対し、会社から一部奨励金が支給されます。一人ひとりが経営に近い視点を持ち、会社の成長を自分事として捉える文化を支えています。

3. 社員割引制度

自社ブランドのアイウエア、ジンズが運営するONCA COFFEE(オンカ コーヒー)、エブリパンを特別価格で購入できる制度です。最新モデルはもちろん、自社の商品やサービスを日常的に愛用することで、商品の魅力を深く理解し、スタッフ自らがブランドの体現者として感性を磨くことを目的としています。