因島だからこそ、育めるものがある

現在、岩本さんは中途採用や人材育成を、板倉さんは社内システムの運用管理を、橋本さんはHAKKOパークという施設の運営やお客様対応などを担当している。前職では、岩本さんは建設会社の人事、板倉さんはIT系会社のシステムエンジニア、橋本さんは百貨店のバイヤーとして都心で勤務しており、転職活動を経て万田発酵に入社した。転職の際、環境が大きく変化することにとまどいはなかったのだろうか。それぞれの想いを尋ねてみた。

インタビューを受けてくださった、お客様サービス室の橋本さん、 管理本部総務室の板倉さん、管理本部人事室の岩本さん(写真左から)。

――なぜ転職をしようと考えたのでしょうか?

 

橋本さん 私はもともと関東出身で、東京の大学を卒業して百貨店に就職し、30年近く関東で働いていました。その間大阪勤務や中国赴任などもありましたが、50歳を境目に、自分の人生を棚卸した際に、転職を考えるようになりました。もともと地方活性などに興味があったため、転職の条件を“地方”として、“良い出会いがあれば”ぐらいの気持ちで転職先を探しはじめました。最初は鳥取や岐阜の企業も見ていましたね。あとは、「もう都会で働きたくないな」と思ったのも大きな理由です。

 

板倉さん 私は広島出身ですが、大学卒業後は関東でIT系の会社に就職し、関東で7年ほど働いていました。転職を考えはじめたきっかけは東日本大震災です。ちょうど子どもが生まれたばかりだったので、生活環境を整える必要性を感じ、そのときに地元広島へのUターンでの転職を考えました。

 

――転職を考えたときに、万田発酵に興味を持った理由は何でしょう?

 

橋本さん 前職で健康食品を扱うことがあり、そこで万田発酵について知りました。さらに、万田酵素が植物由来の原材料で、特殊な製造方法でつくられているなど、商品が非常に魅力的だったことや、因島という環境の素晴らしさを知り、万田発酵に入社したいと思いました。

 

板倉さん “自分の子どものために”という軸で転職を考え、業界は絞らずに転職先を探していました。地元が広島だったこともあり、CMなどで、万田発酵のことは聞いたことがありました。また、現会長が“妊婦さんに元気な赤ちゃんを産んでほしい”という想いを持って万田酵素を開発したという話を聞き、それが自分の軸とマッチしていることから万田発酵が転職先の候補となりました。

 

――はじめて因島に来たときの印象について教えてください。

 

橋本さん 入社してはじめて因島に来たとき、海の青さ、緑の豊かさなど、豊かな自然に圧倒され、感動しました。当然、都会と違って大きな建物もないので、空の広さも全く異なります。毎日橋を渡って通勤していますが、春夏秋冬、朝夕で異なる海の色や表情を楽しんでいます。

 

――因島で働いて感じた、因島の良さは何でしょうか?

 

板倉さん 気候が温暖で、豊かな自然の中で働くことができるところです。前職では、オフィス街で働いていて、ビルから窓越しに外を見ることしかありませんでした。しかし、今は、会議室に行くだけでも太陽を浴びながら移動できますし、近くに山も海もあるため、自然を身近に感じられます。

温暖な気候と豊かな自然がある因島に、万田発酵本社とHAKKOパークがある。

穏やかな人が多く、新たな挑戦に柔軟な社風

――現在の会社の規模はどれくらいですか?

 

岩本さん 因島の本社のほか、東京と大阪にオフィスがあり、全体で約300人が働いています。そのうち正社員が200人強、契約社員・一部嘱託・パートスタッフが100人くらいの構成です。この規模だからかもしれませんが、意思決定のスピードが速く、目標を立てたときにそこに向かって走っていくエネルギーが大きい会社だと思います。組織としてまだこれからな部分もあるのですが、だからこそ成長途上のおもしろさがあります。

 

――社内はどのような雰囲気ですか?

 

岩本さん 因島のある瀬戸内海は波が穏やかなのですが、社内にも穏やかな人が多い印象です。また、当社では中途入社の従業員が多く活躍しています。というのも、十数年前に経営の転換期があり、通販事業に力を入れはじめたことを機に業績が急拡大し、中途採用数を一気に増やしたんです。そうした経緯もあって、社歴の浅い従業員でも裁量のある仕事が与えられ、活躍できるフィールドがあります。

 

また、入社後は1~2週間程度、入社時研修を受けていただきます。様々な部門の仕事を見ることができるカリキュラムとなっており、スムーズに配属先に合流することができます。

 

――社内のコミュニケーションについてはいかがですか?

 

板倉さん 私が所属する管理本部は女性の比率が高く、年齢層も幅広いのですが、管理本部に限らず部門をまたいで言いたいことが言える社風だと思います。業務中に雑談をしたり、冗談めいたことを話したりもしますし、役職者も同じフロアで仕事をしているので、聞きたいことがあればすぐに聞きに行ける環境が整っています。

 

橋本さん コロナ禍なので、なるべく部門を超えた接触は避けるようにしているのですが、以前は社内の食堂が交流の場にもなっていました。例えば私の場合、普段は商品開発部門と関わる機会があまりないのですが、たまたま近くの席になった商品開発部の人と話す中で新たなアイデアが出てきたりして。勤務時間後に食堂でお酒を飲みながら交流することもありましたね。

部門をまたいで言いたいことが言える社風であるという。

――転職当初の印象的なエピソードはありますか?

 

橋本さん 役員との距離が近く、それによって一体感を感じました。例えば、業務日報ひとつでもコミュニケーションがとれますし、1対1の定期ミーティングも開催されています。そこでは、担当役員からいつも「何でも話してほしい」と言われています。

 

最初の頃は小さなことは報告不要だと思っていましたが、ミーティングを重ねるにつれて、本当に小さなことでも話すようになりました。そうすることで、役員の考えとのズレがなくなったと感じています。前職では会社規模が大きく、役員の承認をとるまでに他部署の根回しなど相当大変だったため、とても驚きました。

 

――そのほか、入社する前と後のギャップはありますか?

 

橋本さん 予想以上に自分の想いや判断を具現化させてくれるところは驚きました。かなり経費のかかる企画を上申した際も、はじめは難色を示されましたが、粘り強く上申することで、最終的には承認をいただけました。そういう意味では、チャレンジをさせてもらえることに感謝しています。

 

――前職の経験が活かされたエピソードはありますか?

 

橋本さん マネジメント力です。前職では1チームに100人ほどのスタッフがいたため、100人を同じ方向に向かせるために創意工夫した経験は、今の仕事でも役に立っています。

 

板倉さん 前職ではITの基礎を学べたので、それを活かせたことはもちろんですが、オールマイティーに業務を経験できたことも大きいです。今仕事をしていて、やったことがない案件があっても、求められていることや、なんとなくどうしたらいいのかがわかるのは、前職の経験があるからです。

 

――転職によって生まれた変化や、今感じていることについて教えてください。

 

橋本さん 東京から広島へのIターンという形で転職しましたが、これはもう大成功だったと思っています。前職までは自分の人生をどう締めくくるか、という“整理思考”でしたが、転職をしてからは先を見て新しい創造をする“挑戦的思考”へと変わりました。

 

また、都心での生活と地方での生活を比較したときに、私は、結局地方のほうが魅力があるのではないか、と感じています。確かに、都会にはたくさんの情報があり、刺激も多いですが、地方でも情報は得られますし、オンライン化によって地方でも問題なく対応できることが増えました。だからこそ、もっと早く転職をして、地方を転々とする人生でもおもしろかったかもしれないなと思っています。

地域に根差し、発酵文化を発信する「HAKKOパーク」

2018年8月、因島の本社と同じ敷地内に発酵をテーマにした「HAKKOパーク」をオープンした。本社工場のガイドツアーを実施したり、万田酵素を使ったフードメニューを提供したりとブランド発信の拠点ともなっており、地域の人々を中心に憩いの場としても広く活用されている(2021年11月現在、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため休園中)。

 

――パーク内には万田酵素で育てられた野菜や花のほか、ヤギとも触れ合えるとのこと。遊具や足湯もあって、お子様から年配の方まで幅広い世代が憩える場所ですね。

 

橋本さん いろんな方が来て楽しめる場所を提供することで、この島に人が集まって、地域の活性化に少しでも貢献できるような、そんな取り組みを行っていきたいと思っています。HAKKOパークは、サイクリストの休憩所である「しまなみサイクルオアシス」にも認定されていて、サイクリストの方々が集う場所ともなっています。

HAKKOパークの様子。豊かな自然が広がる因島に、作物や動物と触れ合えるブースやカフェスペースなどがある。

――環境への取り組みに関して、何か実施されていることはありますか?

 

岩本さん SDGsという言葉を耳にするようになる前から、万田発酵では「人と地球の健康に貢献する」という企業理念を掲げていました。主力商品の万田酵素は、53種類以上の果物、穀物、海藻類、野菜を、実だけでなく皮や種まで可能な限りまるごと使って発酵させます。製造の過程でほとんどゴミが出ないため、環境負荷が非常に低い商品です。

 

橋本さん 当社のアグリバイオ技術部には、残渣を肥料に変える機械がありまして、社員食堂から出た生ごみも肥料にしています。それをまた植物に与えて、肥料として使ってと、社内で上手に循環させています。

 

――最後に、今後の展望についてお聞かせください。

 

岩本さん 当社では人材育成に対し、よりいっそう積極的に取り組んでいます。現在は画一的な集合研修ではなく、個人の特性を活かした強い組織づくりを目指し、人材育成を行っています。

 

板倉さん 今は総務室の中にシステムの担当者が配置されていますが、将来的には専門のシステム室のようなものを設置したいと考えています。そして、社員から聞かれて対応するのではなく、こちらから提案をして、業務を円滑に進めてもらえるようにするなど、コンサルタント的な仕事をするシステム室をつくっていきたいですね。

 

橋本さん 近年、世界的な健康志向の高まりやSDGsの観点から「発酵」が改めて注目されていると感じます。当社でも、伝統技術を守っていく一方で時代の変化にも対応するため、「万田酵素」のブランド価値向上に向けて新たな取り組みを始めました。この取り組みを進めるうえで、HAKKOパークは非常に大事な役割を担っています。万田酵素というブランドをより多くのお客様に知っていただくためにも、どのようにして社会的に価値のある施設に育てていくか。営業面もですが、お客様にもっと喜んでいただけるよう、発信力をさらに磨いていきたいですね。

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取材のウラ側

独自の発酵技術で生み出した「万田酵素」を大切に守りながらも、Web通販や、IT人材活用、地元に根差した地域拠点の創設と、今の時代に求められる取り組みを着々と進めている様子が印象的だった。東京一極集中と言われる世の中だが、日本全国を見渡せば気候風土や自然は多様であり、そこで生まれる独自性のある商品は重要な付加価値になり得る。また、ブランド発信の拠点となるHAKKOパークは、因島の島、空、海があってその魅力をさらに高めている。「自分はどう働き、暮らしたいか」を改めて考える取材となった。