新卒入社後の異例の配属

——最初に小泉さんのお仕事内容と、これまでのキャリアについて教えてください。

小泉:現在は広報・IR室に所属し、PRチームを統括しています。具体的にはプレスリリースの作成、メディアからの取材対応、公式Xの運営などがメインの業務です。広報に異動したのは2022年10月で、約3年半が経ちました。

 

2008年の新卒入社以来、ずっとコーポレート部門でキャリアを歩んできました。入社直後に経理部門に配属されたのですが、事務系総合職の同期のほとんどは営業部門でしたから、かなり異例でした。正直、入社前は車を運転してスーパーなどを回って営業活動をすると思っていたので、とても驚きましたね。経理に丸7年在籍し、経営企画を経て、2022年に現在の広報へ異動となりました。

——広報への異動は、ご自身で希望されたのですか?

小泉:いえ、自分から希望したわけではありません。経理と経営企画は、会社全体に関わる業務ではあるものの、上司から「もっと広い範囲の人と交わる仕事を経験したほうがいい」と言われていたので、社外や他部署と多く関わる広報に異動できたのは良かったと思います。

 

ただ、長年コーポレート部門にいたことで、自社の商品についての知識が乏しいという自覚はありました。今もまだまだ勉強中ではありますが、広報に来てからは、取材対応の準備などを通じて必然的に商品やスパイスの知識が積み上がっていると実感しています。

社員が創業者の精神を受け継ぐ「スパイス展示館」

——エスビー食品には「スパイス展示館」という施設があります。これはどのような場所なのでしょうか?

小泉:東京都板橋区の「板橋スパイスセンター」敷地内に設けられた施設です。創業者の山崎峯次郎と妻・春栄が「スパイスを日本で正しく広めてほしい」という遺志を残したことをきっかけに、スパイスを学べる場所として1984年に作られました。建物自体は当時のままで、内装は2023年の創業100周年のタイミングで大規模な全面リニューアルを行い、現在の姿になっています。

見て、嗅いで、学べるスパイスの魅力を再発見できるスポット「スパイス展示館」
スパイス展示館入り口付近には、創業者の山崎峯次郎氏と、二人三脚で苦労を共にし会社を支えた妻・春栄氏の銅像が設置されている

展示の内容は多岐にわたります。創業者が大切にしてきた言葉や創業理念、100年にわたる商品の歴史、スパイスやハーブの基礎知識、そしてサステナビリティへの取り組みなど、エスビー食品が何を大切にしてきたかを一通り知ることができる構成になっています。また、山崎夫妻の自宅にあった書斎や執務室、階段の手すりとカーペットなどもそのまま移築しています。

数多くのロングセラー商品が展示されており、眺めるだけで当時の記憶がよみがえる
創業者の妻 春栄が世界中のスパイス産地を巡った際に購入したステンドグラスが、今は展示館を訪れる人々を優しく迎え入れている

目玉の一つは、当社の象徴である37グラムの「赤缶カレー粉」を、8万個分の大きさに再現した巨大なシンボルオブジェです。この展示館を訪れた社員がこぞって写真を撮っていくほど、インパクトがあります。また、45種類のスパイスが試験管に入って並んでいて、自由に香りを確かめられるコーナーも大変好評です。

訪れた方の人気のフォトスポットとなっている、「赤缶カレー粉」の巨大なシンボルオブジェ
45種類のスパイスの香りを自由に確かめることができるため、自分好みの香りや、まだ見ぬスパイスとの出会いを楽しむことができる

——この施設は一般公開されていないのですか?

小泉:原則非公開で、社内研修施設という位置付けです。毎年の新入社員研修や、中途入社の社員を対象とした定期研修、お得意先さまへのご案内などに活用しています。2023年のリニューアル時には、全社員が一度は見られるよう、来館できない遠方拠点で働く社員にはオンラインで対応しながら、研修を実施しました。

年に数回、小学生向けの体験イベントや関係者向けの特別公開日を設けることもありますが、それ以外は基本的に社員のための場所です。長年勤める社員が訪れると、自分が携わった商品の当時のパッケージを見つけて「これ、開発する時に大変だったんだよ」などと話が弾みます。そういった場所でもあります。

ランチタイムはもちろん、打ち合わせやソロワークなど、終日活用できるモダンな空間へと生まれ変わった食堂「SPICE SQUARE」
食堂「SPICE SQUARE」にはさまざまな座席が用意されており、その日の気分に合わせて自由に選ぶことができる

食品メーカーらしい社員食堂を

——板橋スパイスセンターにある社員食堂もリニューアルされたとのことで、その経緯を教えてください。

小泉:社員食堂は2021年4月にリニューアルしました。この場所には工場があった時代から80年以上、当社の事業所があり、目の前の道路は「エスビー通り」という愛称が付けられています。現在、板橋スパイスセンターには約400人が勤務していますが、周辺は住宅地で飲食店が少なく、社員にとってランチは事実上ここ一択という状況です。

 

リニューアル以前の社員食堂は「ご飯が食べられればいい」という雰囲気で、内装も簡素なテーブルと椅子が並ぶだけ。ランチの時間以外は電気が消えて誰もいないような空間でした。年季の入った、典型的な社員食堂でしたね。

 

「お客さまにおいしさと健康を届けている食品メーカーとして、この食堂でいいのか。社員自身ももっとおいしいものを食べて、生き生きと働ける食堂がいいのではないか」といった問いかけが起き、リニューアルの検討が始まりました。

——食事のメニューにも変化がありましたか?

小泉:大きく変わりました。選べる種類は昔から豊富ではありましたが、エスビー食品らしいものというわけではなく、ごく一般的な社員食堂のメニューでした。今は運営委託会社と相談しながら、スパイスやハーブを使ったメニューを定食や小鉢のどれかに取り入れています。

 

カレーについても、以前から毎日提供していたものの、カレーライスだけでなく、カレードリア、カレーピラフなど、バリエーションが格段に広がりました。月に2回ほどは「スペシャルカレーデー」として、スパイスから仕込むスパイスカレーなど本格的なメニューが登場します。

 

そのほか、新商品が発売されるタイミングには、その商品を使ったメニューを調理してもらい、商品と関わりの少ない部署の社員にも実際の味を体験してもらう機会にもなっています。

——食堂の内装はどのように変わったのでしょうか?

小泉:新しいテーブルと椅子を並べた飲食スペースに加えて、モニター付きのソファ席やカウンター席、会議室までを備えています。ランチタイム以外でも自由に出入りできるため、一日中誰かが利用しています。私のように板橋と八丁堀のオフィスを行き来する社員にとっては、食堂に来ればいつでも仕事ができ、大切な居場所になっています。BGMが流れていて、リラックスして過ごせる雰囲気であることも気に入っています。

「個性のミックススパイス」のような組織

——エスビー食品の企業組織の特徴、あるいは社風はどういったものでしょうか?

小泉:当社は「個性のミックススパイス」であるとよく表現しています。いろいろな考えや個性を持つ多様な人間が混ざり合うことで、良いものが生まれるという考え方です。近年は中途採用が増えており、特に海外事業部やIT部門では、即戦力となる専門人材の採用に積極的です。外国人社員も少しずつ増え、多様性は以前と比べて確実に高まっていると感じています。とはいえ、理念やビジョンなど目指すところはどの社員も一緒なので、同じゴールに向かっていろいろな人が頑張っているのが当社の良さだと思います。

壁一面の大きな窓からは四季折々の景色を臨むことが可能。特に春は、咲き誇る桜を間近に眺めながらの食事が楽しめる

食品メーカーということもあって、食べることや、料理をすることが好きな社員が数多くいます。例えば、社内報で社員の投稿をリレー形式で載せているのですが、好きなお店や料理のネタは尽きないですね。

 

また、社内には食や食文化に関心を持つ社員が集まるコミュニティもあります。各地の食文化を紹介したり、珍しい食材を持ち寄って学んだりと、一見すると趣味の延長のようですが、業務に活かすスキルアップのための活動で、会社が一定の経費を支援しています。このような活動をきっかけに、まったく異なる部署の社員が集まって交流する場が自然にできあがっています。

 

そのほか、社員教育の一環として、スパイスやハーブの専門知識を深める「スパイス&ハーブ検定」を2007年に立ち上げ、全社員に学習機会を提供しています。この検定は3級、2級、1級とあり、1級を取得するとさらにその上の「スパイス&ハーブマスター」の資格に挑戦でき、社内外で講師として活動する伝道師のような役割を担うことができます。マスターは数十人ほどと貴重な存在です。

食堂には、会議室も併設。会議室の名前は、エスビー食品らしく、スパイスの名前がつけられている
会議室の壁紙には、細かい部分にもこだわって描かれたスパイスとハーブのイラストがプリントされている

——ちなみに、小泉さん自身の検定資格は?

小泉:現在はまだ3級です(苦笑)。新入社員の時にすぐ3級を取得したのですが、2級の勉強をしているうちに簿記の勉強に気持ちが向いてしまって、そのまま年月が経ってしまいました。今は広報でスパイスや商品の知識もだいぶ増えてきましたし、そろそろ2級に再挑戦しようと思っているところです。

育児休業からの復職率は100%

——人事制度や働き方の面で力を入れていることはありますか?

小泉:この10年から15年で、制度の充実ぶりは格段に変わりました。フレックスタイムや在宅勤務が整い、育児休業からの復職率は現在100%を維持しています。また、男性の育児休業取得率も2020年度の29.7%から2024年度は95.5%へと急上昇しました。

 

実は、私自身もその環境の変化を実感しています。第一子を妊娠したのが13年ほど前で、当時は出産後も働き続けている先輩社員がほとんどいませんでした。ロールモデルがいない中での職場復帰は不安でしたが、今は出産を機に退職を選択する社員がほとんどいないほどです。「あのとき会社を辞めなくて良かった」と本当に思っています。

子育てに関して、板橋スパイスセンター内には「バリジッコ保育園」という保育所もあります。2015年4月に開設し、2016年8月に板橋区の認可を受けました。社員の子どもを優先的に受け入れていますが、空きがあれば板橋区の地域枠として開放しています。2歳児まで預けられるこの施設があることで、「保育園に入れるかどうか」という不安が少し和らぎ、子育て中の社員にとってのセーフティネットとして機能しています。

 

働き方については、部門や個人によって差があるものの、リモートワークをうまく活用している印象です。広報・IR室は社内でもリモートワーク率が高い部署でして、取材や来客がない日はほぼ在宅勤務です。私自身は出社2日、在宅3日が標準的な週のリズムになっています。

——新卒で入ってから18年以上、エスビー食品一筋でキャリアを積まれてきた理由を教えてください。

小泉:本音で言えば「ここまで頑張ってきたのだから、辞めたらもったいないな」という気持ちが正直あります(笑)。でも一番大きいのは、若手の頃にお世話になった方々が現在は経営層となって会社を引っ張っていることです。恩返しがしたいという気持ちが、長く働き続ける原動力の一つになっています。

 

それに、自社の商品が好きだということも大きな要因です。最近おすすめしているのは「辛くないカレー粉スティック」。胡椒と唐辛子を使わず、赤缶カレー粉の風味はそのままに、小さじ1杯分の使い切りスティックタイプになっている商品です。子どもはカレー味が好きでも辛いものが苦手なことが多いので、ポテトサラダや唐揚げの下地などに1本入れるだけで、喜んで食べてくれるようになりました。

名刺はスパイスを産地から運ぶ際に用いた麻袋を再利用するほど、資源の循環を大切にしている

あとは、「まぜるだけのスパゲッティソース 生風味たらこ」というロングセラー商品ですかね。私は大学生のとき、ちょっとヘルシーなパスタを食べたいと思い、白滝にこの商品を混ぜていました。そのエピソードを採用面接で話した記憶もあります。

 

毎日たくさんの方々の食卓で自社の商品が活躍しているのを知ると、改めてこの会社で働いていることに誇りを感じますね。

エスビー食品様の商品を調理、提供するテストキッチンスペース。取引先へのメニュー提案や価値創造の場として活用

——ありがとうございました。

この企業のことをもっと知る

取材のウラ側

今回の取材で、100年続く同社の強みは「妥協なき品質へのこだわり」と「誠実な組織文化」の両立にあると確信しました。

同社では香りを守るため、国内工場にてスパイスやハーブを極力熱を加えずに粉末化しています。加工時の負荷を抑え、素材本来の香りを引き出す「スタンプミル」製法へのこだわりには、老舗ならではの真摯なものづくりの姿勢が表れています。伝統の「赤缶」を守りつつ、「ゴールデンカレー」を進化させ続ける柔軟さも、長く愛される理由の一つでしょう。

「先輩から受けた恩を後輩へと繋ぎ、恩返しをしたい」という広報担当者の言葉通り、この高度なものづくりを支えているのは、人を大切に育む温かい社風そのものでした。

編集部が推したい福利厚生や支援制度
1. 事業所内保育園「バジリッコ保育園」

2015年設立の「バジリッコ保育園」は、仕事と育児の両立を地続きで支える事業所内施設です。ハーブを育てる食育など同社らしい教育も実践しています。

2. スパイス&ハーブ検定制度

全社員が専門家を目指す独自の社内資格です。

自ら学ぶ文化を醸成し、全社的な専門性の向上とブランドへの誇りを支えています。

 

3. 保活コンシェルジュサービス

専門のコンシェルジュが、地域ごとの保育所情報や保活のノウハウを電話・メールで助言する外部サービス。多忙な保護者のスムーズな保育所探しをサポートします。