今回インタビューにお応えいただいた福井武宏さん

「健康」をキーワードに事業領域を拡大

キリンホールディングスは、キリンビール、キリンビバレッジ、メルシャンといったおなじみの企業に加え、製薬メーカーの協和キリン、医薬品原料や健康食品の製造を手がける協和発酵バイオなどを傘下にもつ。100年以上にわたりビールをつくり続けてきた同社が、新たに生み出そうとしている価値とは――。

―「一番搾り」や「本麒麟」などのビール事業が有名ですが、改めて事業内容をお聞かせください。

当社は1907年にビール事業で創業しました。長年、ビールや飲料といった、いわゆる「食」の領域で事業を展開していましたが、1980年代以降にビール製造で培った、発酵を軸としたバイオテクノロジーを活用して「医」の領域に参入。その後、食と医をつなげる「ヘルスサイエンス」領域にも事業を拡大しています。

旧オフィスに設置されていた聖獣麒麟のステンドグラスを新オフィスでも引き継いでいる

―食の領域では最近、どのようなことに力を入れておられますか。

ビール事業ではクラフトビールに力を入れています。酒類事業の主な事業展開市場である日本とオーストラリアは、いずれも成熟した市場です。量についての大きな成長は見込めないなかで持続的な成長を実現するためには、より付加価値の高い商品の構成比を高めていく必要があると考えられます。そこで現在は、日本、オーストラリア、北米でクラフトビールを強化するという戦略をとっています。

清涼飲料事業では、「健康」に関する付加価値商品を増やしています。国内の競争環境が厳しさを増すなか、ヘルスサイエンス領域にポジショニングしていく必要があると考えてのことです。近年は、独自に開発した素材である「プラズマ乳酸菌」を使用した「iMUSE(イミューズ)」のブランド展開に力を入れています。

―「免疫ケア」を掲げたiMUSEの飲料やヨーグルトは、コロナ禍で売り上げを伸ばしたと聞きました。

iMUSEは35年間におよぶ免疫研究が結実した商品で、日本で初めて「免疫機能」で機能性表示食品に認められました。当社はプラズマ乳酸菌以外にも、健康に寄与する数々の素材を発見することに成功しています。こうした独自素材を活用して商品を展開し、健康という社会課題の解決に取り組んでいきたいと考えています。

―「健康」が今後の事業展開のキーワードですね。

おっしゃる通りです。医薬領域を担う協和キリンでは、画期的な新薬を生み出すべく、研究開発に日々挑んでいます。そしてヘルスサイエンス領域では、その協和キリンや資本業務提携を結んだファンケルとシナジーを創出しながら、食領域、医薬領域よりも高い成長率をめざしています。

「主体的な働き方」を実現するオフィスにリニューアル

キリンホールディングスは2022年6月に、東京・中野のグループ本社をリニューアルした。在宅勤務をはじめ働き方が多様化するなか、リニューアルは「オフィスの意味とは何か」を問い直すところからスタートしたという。

―オフィスのリニューアルに踏み切られたのは、どのような理由からでしょうか。

現在地には2013年に移転し、その際に東京都内に点在していたグループ会社の本社機能を集約しました。それから約10年が経ち、健康に関連する事業の比重が大きくなったことに加え、在宅勤務やシェアオフィスなど、働く場所が多様化したことが背景にあります。

また、ご存じの通りビール業界は、コロナ禍で大きな打撃を受けました。しかし当社では、コロナ禍による環境変化を会社と社員の双方が成長できる機会とポジティブに捉え、これを機に働き方改革を加速しました。

 

 

2020年7月にスタートした「『働きがい』改革 KIRIN Work Style 3.0」は、キリングループで働く一人ひとりが仕事の意義・目的に立ち戻り、仕事そのものを継続的に見直しながら、主体的な働き方に取り組んでいくことをめざすものです。それにより各社員が「働きがい」を実感することで、生産性や創造性の向上、個の充実を実現していきたいと考えています。

この主体的な働き方を支援する環境整備の取り組みのひとつが、今回のオフィスリニューアルになります。

―現在は何割くらいの方が在宅勤務を選択されているのですか。

2020年の緊急事態宣言が発動された際には出社上限を3割としていましたので、約7割が在宅勤務でした。現在は個人やチームの判断に任せ、出社率は5割程度で推移しています。こうした状況ですので、オフィス面積の適正化も重要な要素となりました。以前は2階および17~21階にまたがっていたフロアを、今回のリニューアルで18~21階に集約し、総面積を約2割削減しています。

また、「オフィスで働く意味とは何なのか?」を改めて問い直し、オフィスの目的を3つに再定義しました。①イノベーション創発を目的とした共創空間、②仲間との信頼関係を築くためのリアルな接点・つながりを生む場、チームビルディングの場、③同じ場所で働くことで所属意識=企業ブランドを感じる場、価値観の共有です。今回のオフィスのリニューアルは、この3つに再定義したオフィスのあり方を実現し、多様な働き方に対応することを目的としています。

オフィスをワクワクする場所に

―リニューアルはどのようなコンセプトで行われたのですか。

新オフィスはワクワクするようなコンセプトにしようと、「思いや熱意がつながるSTADIUM」を掲げました。スタジアムというのは文字通り、サッカーや野球のゲームをするあのスタジアムのことです。プレーヤーやバックヤードのスタッフ、そしてサポーターが一体となれる空間。それぞれの思いや熱意がつながり、ともに新たな価値を創造する場にしたいという思いを込めています。

―フロアが長方形で見通しがよく、本当にサッカーのグラウンドのような開放感があります。各エリアで雰囲気が変わるのも面白いですね。

柱のない長方形のフロア、スケルトンの天井、窓からの採光により解放感を演出している

18~21階の4フロアそれぞれに目的を持たせています。まず18階には受付とゲストラウンジを設け、社内外とのワークショップに活用できるスペースや、広報活動などに使用するキリンスタジオを設けています。

広報活動に使用するキリンスタジオ

19~21階のフロア中央には共有エリア、当社では「共創スペース」と呼ぶコミュニケーションスペースを設けました。19階はミーティングエリアという位置づけで、オープンなミーティングやプレゼンテーションなどに活用でき、目的に合わせてデスクが移動できる空間となっています。

 

 

20階はカジュアルコミュニケーションという位置づけで、大規模なカフェエリアを設置。休憩しながら、部門を超えて従業員同士がカジュアルに交流できる空間にしました。

21階は情報共有・収集をテーマに、書籍やネット上の多様な情報に触れられ、新しい価値創造につながる空間をめざしています。
フロア中央に中階段があり、各階のアクセスがよいのも特徴です。共創スペースでは今後、新商品の社内試飲会を行うなど、社員同士のコミュニケーションが活性化されるようなイベントを開催していく予定です。

―固定席を設けず、フリーアドレスにされているのですね。

業務上、固定席を必要とする一部の社員を除き、原則フリーアドレスとしています。会社や部署ごとに大まかなエリア分けはしていますが、個人が仕事の目的や内容に合わせて、適切なフロアやエリアを使い分けるスタイルです。

旧オフィスは、同じ規格のデスクと椅子がずらっと並んだ昔ながらのオフィスでしたが、今回はデスクや椅子もさまざまなデザインのものを採用しました。中央から木が生えているようなグリーンを配したデスクもあります。

そのほか、執務スペースに20席程度のサイレントエリアを設けており、集中して資料を仕上げたいときに利用できます。また、Web会議や電話ができるセミクローズタイプの席も用意しています。

サイレントエリアでは会話や電話での通話が禁止されている

新オフィスで実現した「デジタルオフィス」と「ペーパーレス」

―在宅勤務が増え、オフィスがフリーアドレスになると、社員がどこで何をしているのか、管理が難しくなりませんか。

在宅勤務なのか出社しているのかについては、チーム内で把握できていればよいので、会社が管理することはありません。ただ、フリーアドレスになると、誰がどこにいるのかがすぐにはわからず不便な面があります。そこで、各座席や会議室にセンサーを設置し、それと社員に支給しているスマートフォンをBluetoothでつないで、リアルタイムで在席場所を検索できるシステムを取り入れています。

直感的に操作できるリアルタイム在席システム

このシステムは在席場所が検索できるだけではなく、どのエリアが社員に人気があるのかといったオフィスの活用状況の情報収集にも役立ちます。今後、得られたデータを分析し、オフィスの改善につなげていきたいと考えています。

―すでに人気のエリアなどはわかっているのですか。

背もたれの高いソファが向かい合わせになったファミレス席が人気ですね。ボックス型の2人用の個室ブースも人気があります。秘匿性のある打ち合わせや、1on1などでよく使用されているようです。

―荷物は個人ロッカーで管理されているんですね。

旧オフィスでは、固定席にサイドワゴンが備えつけられていましたが、これを廃止し、小さな個人ロッカーを一人一個ずつ準備しています。保管スペースや倉庫を半減すると同時に、100%ペーパーレス化を目指しました。環境への配慮はもちろんですが、書類などの物や場所に縛られない働き方を推進するうえでも重要な取り組みです。

―オフィスにも「健康」の観点は取り入れられていますか。

立って仕事ができる昇降デスクや、浅く腰かけて座れるスツールなどを用意し、従業員の健康維持に配慮しています。また、足からの刺激が脳の活性化につながるとの理由から、通路と執務フロアの床を張り分けるという工夫もしています。

半個室のフォンブース、昇降デスクも完備されている

オフィスの緑化にも力を入れており、植物を多く取り入れたほか、自然をデザイン要素とした内装も行っています。キリンレッドはビビッドな赤色ですが、それ以外は自然に近い落ち着いた色合いで構成し、ストレスが少なく集中力を高められる環境を実現しています。

 

 

―新オフィスに対して社員の方の感想はいかがですか。

リニューアル1カ月後にアンケート調査をしたところ、「固定席ではなくなったことで、いろんな人と出会うことができ、会話が増えた」という意見が多く寄せられました。以前に比べ、他部署の人や他の会社の人とも接点が増えたというのは、再定義したオフィスの意義にも叶うもので、ホッとしています。

―ちなみに、福井さんのお気に入りスポットがあれば教えてください。

実は気に入っている場所が2つありまして、1つ目が18階の受付です。デジタル化により無人受付となっているのですが、当社のシンボルである聖獣麒麟がガラスにプリントされていて、その奥に外の風景が透けて見えるんです。そこがすごく綺麗だなと、見るたびに気持ちが高まります。

エントランスでは巨大な曲面ガラスにプリントされた聖獣麒麟が出迎えてくれる。

2つ目は窓際に設置されたファミレス席です。そこからの景色が素晴らしくて。この近辺は比較的、高い建物が少なく、遮るものがないため関東平野が見渡せます。そこで外を眺めながら仕事をしていると癒されるような感じがします。

主体的に働く、その先に成長がある

働き方改革を働きがい改革に発展させ、その一環としてオフィスのリニューアルを完了したキリンホールディングス。今後、入社する人材には、オフィスをどのように捉えてもらいたいと考えているのだろうか。

―これから入社される方には、どのようにオフィスを活用してもらいたいですか。

今回のオフィスのリニューアルで、主体的な働き方を支援する環境をしっかり整えました。今後も社会の変化に対応し、さらなる最適化を図っていくつもりです。新たな挑戦への意欲があれば、それを支援するツールや成長機会が当社にはたくさん揃っています。これから入社される方にはそれをぜひ活用いただき、次なる自分へのアップデートにつなげてもらいたいと思います。

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取材のウラ側

スタジアムというコンセプトの通り、実際に足を踏み入れると、ワクワク感に包まれるオフィスだった。ガラスに浮かび上がった聖獣麒麟が迎えてくれる無人の受付には未来感があり、広いオープンな空間に雰囲気の異なるエリアが点在する各フロアは働く人たちの活力に満ちていた。アルコールや飲料のイメージが強い同社だが、健康を軸に医薬やヘルスサイエンス領域にシフトし、社会課題の解決に力を向けている。高齢化の進む日本市場や健康意識の高い海外市場において、今後ますます存在感を増していくことだろう。