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スモールビジネスに携わる人たちを経理・総務・人事などの業務から解放し、クリエイティブな活動に集中できるようサポートしたい――。「スモールビジネスを、世界の主役に。」というミッションのもと、バックオフィス系のクラウドサービスを開発・提供しているfreee株式会社。主力サービスの「freee会計」は有料課金事業者数が32万社に達するほどの人気だ。2012年の設立以来、右肩上がりの成長を続ける同社の事業内容やカルチャー、働き方について、採用・ダイバーシティ推進担当の吉村美音さん、人事・組織開発担当の野本篤則さんにお話をうかがった。
目次
誰もが「自由」で「自然体」に経営できる世界をめざす
スモールビジネス向けクラウド会計サービスの市場を切り開いてきたfreee株式会社。ソフトウェアでサービスを提供するSaaS企業のなかでも、日本を代表する存在となっている。
―事業内容について教えてください。
吉村さん 中小企業、個人事業主といったスモールビジネスに携わる方の仕事や生活を、ITの力でより良くしていくためのプロダクトやサービスを提供しています。
もともとは代表の佐々木大輔が、自身が起業した際に最も煩わしさを感じた、経理まわりからサービスをスタートしました。その後、経営していくうえで困ったり、どうしたらよいかがわかりにくい領域に次々と着手していきました。
具体的には、「freee会計」に始まり、給与計算や勤怠管理などを行う「freee人事労務」、会社設立や開業に必要な書類を一括作成する「freee会社設立」や「freee開業」、そして経営者を最も悩ませるといわれる資金繰りを支えるためのクレジットカード「freeeカード」などを提供しています。こうしたサービスを揃えていくことで、誰もが自由で自然体に経営できる統合型経営プラットフォームをめざしています。
―御社のサービスの強み、他社との違いは何でしょうか。
野本さん 私たちは、「スモールビジネスを、世界の主役に。」をミッションに掲げています。単純に、会計や人事労務といったバックオフィス業務を効率化したいということではなく、「スモールビジネスをしている人たちが輝ける世界をつくりたい」というビジョンの元で、様々な事業展開を進めているところがfreeeの強みであり、アイデンティティだと思っています。
吉村さん そのビジョンを実現するために、プロダクトを開発する際には、ユーザーにとって本質的な価値があると自信を持って言えるかどうかを最も大切にしています。これを当社では「マジ価値」と呼んでいます。
一般的に、売り上げが見込めなければプロダクトは開発できないことが多いと思いますが、当社ではユーザーにとって本質的な価値があれば積極的にプロダクトの開発を進めます。
そのため会議で最も時間を費やすのは、「ユーザーのマジ価値とは何か」「それは本当にマジ価値か?」といった議論です。リサーチにも力を入れており、ユーザーへの聞き取りや行動観察などから課題を見つけ、その解決策をプロダクト内に落とし込んでいるところもfreeeのサービスの特徴といえます。
「マジ価値」を追求するカルチャー
ユーザーにとって本質的に価値があることを指す「マジ価値」。freeeの全サービスを貫く「マジ価値」を追い求めるカルチャーは、どのように醸成されているのだろうか。
―「マジ価値」が御社のカルチャーの中心にあるのですね。
吉村さん その通りです。私たちは「マジ価値を届けきる集団」をめざしており、そのためにメンバー全員に持っておいてほしいマインドとして「社会の進化を担う責任感」と「ムーブメント型チーム」を提示しています。
野本さん 「社会の進化を担う責任感」というのは、本質的な価値があれば、仮にリスクがあったとしても、社会全体を前に推し進めるべく挑戦していこうという姿勢をあらわしたものです。
最近では、新型コロナウイルスの感染拡大でリモートワークが推奨された際に、「#取引先にもリモートワークを」というアクションを起こしたことが、それを体現した事例といえます。
リモートワーク導入の課題として、自社のITインフラの制約などと並び、取引先との書面のやりとりや押印業務があげられます。そこで、自社だけでなく取引先もリモートワークがしやすくなる取り組みが必要であると考え、押印の省略やビデオ会議の活用など、リモートワークがしやすくなる企業活動「#取引先にもリモートワークを」を宣言し、自ら行動していくプロジェクトを立ち上げました。
freeeが起こしたアクションに大手金融機関をはじめ100社を超える賛同企業が「働く人の命を守りながら、事業を継続できる」社会づくりに取り組んでいます。
吉村さん もうひとつの「ムーブメント型チーム」は、誰かがアイデアを出したときに、皆が「いいね!」「やってみよう」と一緒になってムーブメントを起こしていくという組織のあり方のことです。
野本さん たとえば、社内イベントを開催する際、当社では一緒に企画したい人を募集すると、そこに100人を超えるエントリーがあったりします。社内イベントといえば、一般的に総務部門の数名が一生懸命取り組むことが多いですから、これには私も驚きました。
「これはマジ価値だ」と自分が思えば発信するし、「それはマジ価値だ」と共感すれば誰でもそこに”乗っかり”ます。
吉村さん コロナ禍で献血協力者が減っていることを知ったメンバーの発案で、献血イベントを開催したこともありました。
広報のメンバーが代表や役員を巻き込んで開催に至り、当日は当社の従業員に加え、ユーザーや取り引き先、近隣にお住まいの皆さんにも参加いただきました。献血中に見上げる天井にツバメや雲のモチーフを飾るなど、やるからには楽しむところもfreeeらしいなと思ったエピソードです。
マーケティングからエンジニアへの転向もあり
―どのような方が活躍されていますか。
野本さん ベクトルが自分に向いてない人でしょうか。仕事のモチベーションが自分の成長のためというのも素晴らしいことですが、そのうえで周囲や社会のために何かを成し遂げたいというスタンスの人が活躍できる職場だと思います。
吉村さん 職種としては、プロダクト開発をしている会社ですので、エンジニアやプロダクトマネージャー、UXデザイナーなどはもちろん、事業拡大を支えるセールスやマーケティング、ユーザーを成功に導くためのカスタマーサクセスなどさまざまな職種が活躍しています。
キャリア支援にも力を入れており、自分がどのように働き、どのようなキャリアを描いていきたいかを、weekly 1on1として毎週マネージャーと1対1で一緒に考える機会があります。その結果、異動にも積極的で、多彩なキャリアを築いていく人が多いです。
なかには新卒で入社し、マーケティングに配属された後、自身の希望でエンジニアに転向したメンバーもいます。プロダクトを良くすることに直接的に関われるエンジニアになりたいという思いを実現したもので、開発スキルを磨いて課題をクリアするなど相当な努力があったことと思います。このように、本人が希望し、ユーザーへのマジ価値の提供につながる場合には、その実現に向けてバックアップしています。
制度は皆でつくっていく
―働きやすさを実現するための制度や工夫はありますか。
野本さん 働きやすい環境づくりを目指すにあたって、「ミッションにワクワクできる環境であること」を大切にしています。その一例が、年1回開催する、Freee Spiritという全社員参加のキックオフイベントです。また、地方のユーザーに会いに行き、インタビューをすれば旅費を補助する「ツール・ド・フリー」という制度などもあり、ミッションに対しワクワク感をもって取り組める制度を設計しています。
吉村さん メンバーが成長に必要な書籍を月3冊まで購入できる「書籍費フリー」という制度もあります。また現在、資格支援制度の見直しを行っているところで、どのような制度にすればメンバーの学びの機会がより促進されるか検討中です。こうした制度自体も自分たちで考えながら柔軟に変えていくところは特徴的かもしれません。
野本さん それで言えば、オミクロン株の流行で休園・休学が急増し、子どもをもつメンバーから「子どもの面倒をみながら在宅勤務をする負担が大きい」という声があがり、そこからわずか4日で「おうち育児休暇」という制度が立ち上がりました。
小学校3年生までの子どもを持つメンバーを対象に、年次有給休暇とは別に最大5日まで有給の特別休暇が取得できるものです。福利厚生制度は何ヵ月もの議論を経て導入されることが多いと思いますが、この制度については必要性の高さからスピード感をもってリリースされました。
―そうしたエピソードからも、コミュニケーションがフラットな印象を受けます。
野本さん Workplaceという社内SNSがそれに貢献しているかもしれません。メンバーが議事録を流したり、最近考えていることを投稿したり、多種多様な情報がフラットにコミュニケーションされる環境があることで、皆が何を考えているかを知ることができます。
当社では、「あえて、共有する」ことを大切にしており、ドキュメントなどもクラウドで共有し、誰もがコメントし合える状態にあるなど、いたるところにコミュニケーションのタッチポイントをつくっています。
吉村さん 一方でリモートワークによりちょっとした雑談が減ったことから、「Shall We ランチ?」制度を導入しました。チームや業務に関係なくリモートでランチをする場合に一人当たり1000円の補助を行うもので、社内SNSに「#ShallWeランチ」のハッシュタグを付けてランチメンバーと撮った写真を投稿し、こちらもあえて共有します。そのほか「オフカツ!」という部活制度があり、野球部・ヨガ部・ファミコン部など30以上の部活が活動しており、共通の趣味を通じたコミュニケーションにつながっています。
―ダイバーシティへの取り組みとして、どのようなことを行っていますか。
吉村さん 多様な人材が自分らしく働ける職場づくりの一環として、会社の制度設計はLGBTQなどの性的マイノリティの人たちがいることを想定して作っています。男女関わらず相方さんのことは「パートナー」と呼んでおり、 同性の方や、異性で戸籍上の婚姻関係にない場合もパートナーとして結婚祝い金や住宅手当などを支給します。
LGBTQ研修を実施し理解を深める取り組みのほか、レインボーカラーのステッカーを配布し、LGBTQの人たちを理解し支援する「アライ(ally)」を表明する活動なども行っています。
野本さん また、プロダクト作成の際には、視覚障害のある方のアクセシビリティに配慮し、視覚障害があっても使用できることも考慮しています。社内の話で言うと、メンバーには視覚障害のある方もいるため、弱視の方に見えにくい赤のホワイトボードマーカーは使用せず、黒と青とオレンジを使っています。他に、当社はフリードリンクなのですが、そのドリンクバーにも点字シールが貼ってあり、種類や操作方法がわかるようになっています。社外に向けても社内においても、ダイバーシティの観点から誰もが公平に活動でき、共助できる環境を整えています。
事業拡大とともに、カルチャーはさらに濃く
日本におけるSaaS業界の草分け的存在として、新たなビジネスの土壌を耕してきたfreee。事業とともに組織が急拡大する同社では、どのような未来を描き、どのような人材を求めているのだろうか。
―最後に、今後の展望をお聞かせください。
吉村さん freeeは2019年12月に東証マザーズ上場を果たしました。これはゴールではなく、「スモールビジネスを、世界の主役に。」というミッションへ向け、やっとスタートラインに立てた状況だと考えています。
統合型経営プラットフォームの開発・提供を通して、スモールビジネスに携わる人たちが自分たちの仕事に誇りをもち、自由で自然体に働ける、またその姿が世の中から素敵なことだと認知される世界をつくっていきます。
野本さん 事業の規模が拡大し、組織がスケールアップしていくと、カルチャーが薄れてしまうことがあります。しかし当社では、マジ価値を探求し、社会の進化を担う組織づくりを続けることで、むしろカルチャーを濃くしていきたいと思っています。ですから、当社にあるカルチャーや価値基準に‟はまる人”ではなく、それを‟進化させようとする人”と一緒に働きたいですね。
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取材のウラ側
freeeのカルチャーやメンバーへの信頼感を、お二人から強く感じる取材だった。本質的に価値のあることなら対ユーザーのみならず、社内イベントや制度改革においても追求するという「マジ価値」。そのカルチャー醸成につながるようあらゆる制度が設計されており、それがサービスの質向上と働きやすさの両面に貢献していると感じた。今後さらなる成長が期待される同社から目が離せない。
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