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明治ホールディングス株式会社
明治ホールディングス株式会社は、菓子・乳製品・栄養食品といった分野を核とする「食品事業」と、医薬品分野を柱とする「医薬品事業」を展開する持株会社です。特に「明治」ブランドで知られるチョコレート、牛乳、ヨーグルト、プロテインなどの製品は高い市場シェアを持ち、人々の健康で豊かな生活に貢献しています。
Official Site2004年の竣工以来、大規模な改修を行ってこなかった明治ホールディングス(明治HD)の本社ビルでしたが、2024年秋、社員食堂と明治HDフロアのリニューアルプロジェクトが立ち上がりました。これまでにない新たな空間づくりに挑んだ同社リスクマネジメント部の加藤健二さんに、約1年にわたるプロジェクトの舞台裏を聞きました。
目次
多様なキャリアを経て、オフィス改革のリーダーに
——まず、加藤さんの経歴と現在の業務内容について教えてください。
2007年4月に明治製菓に新卒入社しました。最初の3年間は名古屋で菓子の営業を担当し、本社へと異動しました。そこでは生産系の部署で工場の生産管理や費用管理を約11年務めました。その後、坂戸工場(埼玉県)で2年ほど総務・経理業務を経験し、2024年4月から明治HDのリスクマネジメント部に出向しています。
——リスクマネジメント部とはどのような部署なのでしょうか。
大きく2つのグループに分かれています。一つはリスクマネジメントグループで、会社のリスクアセスメントや法的な観点からの契約内容のチェックなど、名前通りリスクマネジメント業務を担当しています。
もう一つが私の所属する総務グループで、明治HDに関わる総務業務全般を担当しています。その中で私の仕事においてウエイトが大きいのが株主総会の運営と、明治HDが所有する不動産の管理運用です。今回のオフィスリニューアルプロジェクトも、この不動産管理業務の一環でリーダーとして関わることになりました。
——仕事のやり甲斐について伺いたいのですが、入社してから18年以上、明治グループで働き続けられた理由は何でしょうか。
色々とありますが、やはり人間関係が一番大きいです。働き甲斐も大事だと思いますが、私の中では人間関係にかなり重きを置いています。
過去には大きな失敗をしてしまったこともありますが、そういった時でも周りの方が温かいフォローをしてくださり、ここまで育てていただいたことにとても感謝しています。会社に対する愛着という意味では、支えてくれた人、働いている人の人間性によるところが大きいですね。
また、会社の方針も自分の価値観と合致しています。「健康にアイデアを」というスローガンの下、食を通じて健康や幸せを届けるという理念は、私が食品会社を目指した理由そのものです。
実際に入社してからは、お菓子だけでなく牛乳、アイス、チーズといった乳製品事業も知ることができ、さらに現在の明治HDでは医薬品事業の情報にも触れています。視野が広がり続けることも、この会社の大きな魅力だと感じています。
——今回のオフィスリニューアルに至った経緯を教えてください。
明治京橋ビルは2004年竣工で、築20年が経過していました。特に社員食堂は大きなリニューアルを一度も行っておらず、机が並んでいるだけの、ただ食事するためだけの場所になっていました。
明治HDフロアも、多少の配置変更はあったものの、あくまで事務上の利便性を追求したものだけで、代わり映えしない状態が続いていました。また、フリーアドレス制は導入していましたが、実際には荷物を置きっぱなしにするなど席が固定化してしまい、同じ人が同じ場所で同じように仕事をする状況でした。
——社員からはどのような声が上がっていたのですか。
定量的な調査を行なっていたわけではないのですが、以前から「魅力が薄い」という意見が聞こえていました。そこで、リニューアル前にアンケートを実施したところ、社員食堂については「おしゃれではない」という声が特に多く寄せられました。また、メニューや価格のバランスが取れていないという意見もありました。東京都中央区京橋という立地柄、周辺には飲食店も多く、お金をかければ美味しいお店で食べられる環境です。そんな中で社員食堂がパッとしないと、わざわざここで食べる気にならない、気分転換にもならないという感想を持っていた社員もいたようです。
また、明治HDフロアについては、業務をする上で最低限の環境は満たしているという認識はあったのですが、社員同士のコミュニケーションの部分で評価が低めに出てきました。まだ十分満足いくレベルには至っていないことが見えてきたのです。
——当時の社員食堂の利用状況はどうだったのですか。
この京橋本社ビルには、事業会社社員を含めて1600人ほどが働いているのですが、1日あたり350人程度の利用人数でした。利用率としては2割程度といったところでしょうか。
また、午前11時半から午後1時ごろまでのランチタイム時間以外は本当に閑散としていました。社員食堂でも仕事をしてもいいことにはなっていたのですが、よほど場所がないときを除いて、ほとんど使われていませんでした。
——そうした中でリニューアルを決断したきっかけは?
副社長から後押しをいただいたことが大きかったですね。社員の間でそういった話題があった中で、「社員食堂と明治HDフロアについて、しっかりリニューアルをやってみなよ」と声をかけていただきました。
「やるならしっかり期日を決めてやりなさい」というご意向もあり、「2025年上期中に結果を出しましょう」とミッションを課されました。ダラダラと進めるのではなく、明確なゴールを設定したことで、プロジェクトに緊張感が生まれ、逆算してスケジュールを組むことができました。
多数決ではなく全員の納得感を優先
——プロジェクトはどのように進めたのですか?
2024年10月ごろから具体的な検討をスタートしました。私一人で進めるのではなく、皆さんの満足度を上げるという趣旨を考えると、幅広い意見を取り入れる必要があると考え、プロジェクトチームを組織することにしました。
明治HDフロアについては、そこに所属している各部署から代表を出してもらい、3〜4人のプロジェクトチームを新たに立ち上げました。
食堂については、四半期に一度開催していた「食堂委員会」という会議体がありました。これは明治HDだけでなく、事業会社の(株)明治やMeiji seika ファルマ(株)、グループ会社の明治ビジネスサポート㈱(MBS)など、さまざまな会社の社員が参加していたのですが、従来は利用者数や人気メニューの報告で終わってしまうことが多かったのが実情です。これをしっかり議論できる場に変えて、リニューアルの検討を進めることにしました。
——プロジェクトで苦労した点は何でしょうか?
先ほど話したようにスケジュールは決まっていて、2024年10月に始まり、コンペを実施して業者を選定したのが2025年1月ごろ。そこから具体的なデザインの詰めに入り、6月ごろまでに大枠を固めました。実際の工事は8月と9月に実施し、上期中に完成させるという流れでした。ただ、工事をやりながらも細かい改善点が出てきたので、その都度チーム内で検討して最終的な形に落とし込んでいきました。
チームメンバーが十数人いる中で、さまざまな意見をまとめていくことが苦労しました。それぞれの感覚も違いますし、「こっちにしよう」「いや、こっちの方がいい」と、判断を迫られる場面が数多くありました。
けれども、シンプルに多数決で決めるのではなく、なるべく全員が納得感を持って進められるよう心がけました。そのためにWeb会議も活用しながら打ち合わせの回数を多く設けて、皆さんの意見を丁寧に聞き取り、協議しながら一つの方向性に取りまとめていきました。その労力、工数は相当なものでしたが、結果的に納得感を持っていただけたと思っています。それぞれのチームメンバーの方々には協力的な姿勢で参加いただき、とても感謝しています。
——社員食堂はどのようにリニューアルしたのですか?
メリハリをつけるという意味で、大きく2つのエリアに分けました。中央部分は「コミュニケーションエリア」として、みんなでワイワイ食事していただきやすい空間にしました。通常の長机もありますが、窓際にはファミレスのようなボックス席を配置して、より会話を楽しんでもらえるようにしました。
一方、奥まったところには「リラックスエリア」を設けました。こちらは個人用のカウンター席で、左右に高めのパーテーションをつけています。お弁当など持ち込みの食事だと食べづらいと感じる方もいらっしゃるので、そういう方にも使っていただきやすいよう、周りとコミュニケーションを取らずにゆっくり食事できる場所として用意しました。
——明治HDフロアについてはいかがでしょう?
こちらは3つのエリアに分けました。「集中エリア」は、会話を控えて自分の仕事に集中してもらうためのエリアです。カウンターブースを配置し、黒をベースとしたシックな色調で、落ち着いて業務ができるよう意図しました。
「コミュニケーションエリア」はフロアの中心部で、かなり大きな部分を占めています。視界をさえぎるものを極力減らし、モニターなども置かないようにして、みんなの顔が見えやすいレイアウトにしました。
特に工夫したのは、高低差のあるテーブルを配置したことです。高めのテーブルだと、ちょうど歩いている人と視線が合いやすいんです。また、机の向きを通路側に向けることで、通りがかる人とのコミュニケーションが生まれるよう仕掛けました。実際、これはかなり効果が出ていると感じています。
「リラックスエリア」は牧場をイメージして、緑のカーペットを敷き詰め、木目調の家具で統一しました。牛のぬいぐるみを置いて牧場っぽさを出しつつ、可愛いものに触れることで癒される空間にしています。給水機や冷蔵庫も設置し、ちょっと疲れたときに休憩できる場所としても機能させています。
このようにエリアを分けたのは、特定の座席にずっといるのではなく、その時々の気分によって働き方を変えてもらえるようにという思いからです。例えば、「今日は作業に没頭したいから集中エリアへ」「相談しながら仕事をしたいからコミュニケーションエリアへ」というように。加えて、社員同士のコミュニケーションが希薄だったという課題を解消するために、どんどん動き回っていろいろな人と接してもらいたいということもあります。
オフィスデザインにもこだわりました。設計業者とのやり取りの中で、「明治らしさって何だろう?」という議論になり、フェイクグリーンのカカオの木を中央に据えたほか、粒チョコレート「アポロ」の形をした照明、「カールおじさん」のマスコットなど、自社商品をモチーフにしたアイテムを随所に配置しました。フロア内の壁には各事業部のモチーフをシンプル化したイラストを描き、身近に感じられるようにしました。特にアポロの照明は完成度が高く、グループ会社からは「うちにも欲しい」と言われるほど好評です。
そして、もう一つの明治らしさが「健康」です。それを体現するものとして、サーカディアンリズム照明を導入しました。
——サーカディアンリズム照明とは何ですか?
一日の生体リズムに合わせた照明システムです。バイオリズムに合わせた照明で社員の健康に寄与する。これが、明治らしさのもう一つの表現だと考えました。
具体的には、朝出社した時は明るめの光で、朝日を浴びているようなイメージで体を目覚めさせます。そこから一旦照明を落として、朝から昼に向けて徐々に照度を上げていき、日中にピークを迎えます。午後から夕方にかけては少しずつ照度を下げていき、定時を超えたら暖色系のライトに変わって、リラックスした雰囲気になります。仕事を終えた社員が落ち着いた気持ちで帰宅し、就寝時もゆっくり休めるよう配慮した設計を心がけています。
コミュニケーション促進と健康の双方に効果
——リニューアル後の成果はいかがですか?
社員食堂では、食事時間以外の利用が大幅に増えました。ファミレス席で打ち合わせをしたり、リラックスエリアで個人作業をしたりする姿がよく見られます。
また、豆から挽くコーヒーマシンを導入したことも好評です。比較的リーズナブルな価格で提供できるので、コーヒーを目当てにオフタイムに来る社員も増えています。自分の職場からわざわざコーヒーを汲みに来て、そこを休憩時間として、場所の移動とコーヒーでリフレッシュする。そういう活用のされ方もしています。
明治HDフロアについては、3つのエリアを使い分ける動きが明確に生まれています。集中エリアとコミュニケーションエリアは、働き方が明らかに違うので、皆さん意識的に使い分けています。とりわけコミュニケーションエリアでは、狙い通りの効果が出ていると感じています。私も通路向きの席に座っていると、通りがかる人と本当によく話すんです。高さ調節できるテーブルで立ちながら仕事している人もいますね。立って仕事することで健康にも良いですし、お互い話しかけやすい雰囲気が生まれています。コミュニケーション促進と健康の両面で効果が出ているのではないでしょうか。
リラックスエリアでは、給水機や冷蔵庫のあたりで休憩する人が増えました。これから菓子類も置く予定です。棚にはキャラクターもののぬいぐるみをたくさん並べているのですが、これはちょっとした研究の裏付けがあって、かわいいものに触れると脳の健康に良いと言われています。
——社員からはどのような反応がありましたか?
社員食堂は見た目が明らかに変わったため、「おしゃれになった」という声を多くいただいています。また、「打ち合わせ場所としても使いやすい」という声も耳にしています。
明治HDフロアについてもポジティブな意見が多く、特に事業会社の方が用事でこのフロアに来ると、「すごく変わったね、いいね」とダイレクトに言ってくださるのが嬉しいですね。
——オフィスの環境整備以外で、コミュニケーション活性化のために取り組んでいることはありますか。
実はリニューアルによって一部弊害も出てきました。エリアが分かれたことで視認性が悪くなり、「今日はあの人いるのかな」というのが分かりづらくなったんです。そこで、コミュニケーションツール「Microsoft Teams」のステータスメッセージにどのエリアにいるかを書いてもらう運用を始めました。フロア内を5〜6ブロックに分けて、「カカオエリア」「アポロエリア」といった愛称をつけています。どこにいるかを明示することで、コミュニケーションを取りやすくする狙いです。
さらに、そのステータスメッセージに、ちょっとしたネタも書いてもらうようお願いしています。最近怪我をした私の場合、「松葉杖が取れました」などと記載しています。そうするといろいろな社員から「怪我、大丈夫?」といったコミュニケーションをとってもらえるようになりました。
今後計画しているのが、オフィス内での定期的なイベントです。例えば、同じフロアに入居するグループ会社のMBSにはチャレンジド雇用の方がいて、掃除や紙の補充などをやってくださっているのですが、その中にコーヒーを淹れるのがすごく得意な人がいるんです。そこでコーヒー試飲会のようなイベントを開催して、普段なかなか会話する機会の少ないMBSの方々との交流を深められれば嬉しいですね。
今回のオフィスリニューアルをきっかけに、会社の垣根を越えたコミュニケーション活性化にもつながればと期待しています。
——ありがとうございました。
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取材のウラ側
社員食堂に描かれた壁画がとても印象的でした。これはオフィスリニューアルの際、プロジェクトメンバーがアイデアを募り、意見を取り入れてつくられたものだそうです。
よく見てみると、チョコレートや牛乳、薬品など自社商品にまつわるモチーフが丁寧に描き込まれています。また、「Meet」「Enjoy」「Ideas」「Join」「Inspire」といった言葉が散りばめられており、頭文字をつなげると「MEIJI(明治)」になると知ったときは、大きな驚きと感動がありました。
さらに、企業カラーの赤と木目を基調とした食堂全体のデザインも温かい雰囲気を醸し出しており、このように社員の思いが反映された空間であれば、日々の業務にも自然と前向きな気持ちで向き合えると感じました。
気になる

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