インタビューを受けてくださった、人事採用課マネージャーの捧(ささげ)さん。「Snow Peak Tokyo HQ3」にて。

「衣食住働遊」と「野遊び」の掛け合わせで事業を展開

優れた品質とデザイン性の高さに定評があり、根強いファンを持つスノーピーク。近年はアウトドア用品だけではなく、一般の住宅やオフィスのデザインも手掛けているという。

 

ーー事業内容について教えてください。

 

アウトドア用品の企画や製造、販売が当社の軸です。さらに、近年では「衣食住」に「働く」「遊ぶ」の要素を加えた「衣食住働遊」にアウトドア、私たちが言うところの「野遊び」を掛け合わせた事業を展開しています。自然や人とのつながりを感じられる野遊びによって、本来の人間らしさを回復することができ、それが豊かな生き方につながると考えています。

 

例えばキャンプ事業では、キャンプフィールドの運営やイベントの開催も行っています。アパレル事業では自然のなかでも都会でも快適な衣服を、レストラン事業では本来の“野生の感覚”がおいしいと感じる食体験を提供しています。

 

そのほか、野遊びができる家づくりや、オフィス空間にキャンプギアを取り入れるなど、本来はアウトドアの領域ではないところにも事業が広がってきました。

 

ーー事業を展開する上で、大切にしていることはありますか?

 

The Snow Peak Way」というミッションステートメントを掲げており、仕事をする上での判断軸としています。そこには、一人ひとりの主体性を重視し、自然指向のライフバリューを提案・実現できるグローバルリーダーになること、常に進化しつづけること、ユーザーの立場で考えて感動できる体験価値を提供すること、そして、地球上の全てのものによい影響を与えることなどが示されています。何かを新たに始めるときには、この「The Snow Peak Way」に沿っているかどうかを最も重視しています。

「たき火」が育む、チャレンジを歓迎する社風

ーーどんな方が活躍されていますか?

 

主体性を持ち、自分で考えて問題を解決できる人が活躍していますね。安定よりは変化や進化を楽しめる人が、当社のカルチャーに合っているのではないでしょうか。

 

仕事上でアイデアを思いついたときなど、やってみたいことに対してOKが出やすい環境です。失敗してもいいから、まずはチャレンジしてみようという雰囲気がありますね。上司や周囲とのコミュニケーションもスムーズにとれていますので、相談もしやすいと思います。

 

会社として人と人とのつながりを重視しているので、社外のお客様はもちろん、社員同士の関わりもとても大切にしています。フラットな社風も当社の特徴かもしれません。

 

ーーもともとキャンプ好きな方が多いのでしょうか?

 

多いですね。キャンプだけではなく、登山やスノーボード、自転車、ピクニックなど、アウトドア全般を楽しんでいる人がたくさんいますし、私も休日には同僚を誘ってキャンプに行ったりしています。キャンプとなると、いろいろと準備が大変なのではと思われるかもしれませんが、私たちはそのハードルがすごく低くて。「映画に行かない?」とか「買い物に行かない?」くらいの感覚でキャンプに出かけます。

 

ーー皆さんにとってキャンプがすごく身近なのですね。

 

新潟の本社にもキャンプ場が併設されていますし、歩いて10秒で行けるので、キャンプ場で会議をすることもあります。新卒社員や中途入社の社員の研修もキャンプ場で行っていて、自社製品の使い方を学んだり、製品を使って調理したりします。夜にはみんなでたき火を囲んで、リラックスした雰囲気で入社した理由や、興味があること、好きなことについて話したりして。そうしたコミュニケーションを通して絆を深められるのも、キャンプ研修の醍醐味です。

社員の皆さんにとって、キャンプはかなり身近な存在であるという。スノーピーク本社「Snow Peak HEADQUARTERS」には約5万坪のキャンプ場が併設されており、今年15万坪に拡張。様々な運用を検討している。

また、当社では、社員同士のエンゲージメントとして7月と12月に社員総会を実施しています。コロナ禍以前は、7月の総会時に本社のキャンプ場を貸し切って、300人くらいの社員でキャンプをしていました。店舗勤務の社員は全員の参加が難しいのですが、部署や所属、年齢をこえてグループでワークショップをして、夜はみんなでたき火を囲んで語り合うんです。コロナ禍でキャンプ場での開催が難しいときは、オンラインで実施しています。

 

ーーコロナ禍以降、働き方にも変化はありましたか?

 

もともと、フレックスタイムや在宅勤務は制度としてあったのですが、利用率は高くありませんでした。そんななか新型コロナウイルスの感染拡大を受け、2020年の2月頃に、可能な社員は在宅勤務に切り替える体制をとりました。その結果、半数以上の社員が、在宅でも問題なく仕事ができることがわかったんです。そこで、2021年に入ってから、新たに在宅勤務を正式な社員区分として設定しました。

 

これは、いい意味での発見でした。働き方が変化したことによって、状況に合わせてしっかりと仕事ができているように感じます。

 

内勤の社員に限られるのですが、フレックスタイム制度についても子育て世代を中心に利用が広がっています。朝の5~6時に仕事を始めて14時~15時に終わるといった人もいますし、それぞれで上手に調整しているようです。

テントから生まれる新たなコミュニケーション

スノーピークは2011年、本社と工場を同じ三条市内の自然豊かな丘陵地帯へと拡張移転した。そこには、どのような狙いがあったのだろうか。

 

ーー新潟県三条市に本社を置く理由について教えてください。

 

世界有数の金物の町と呼ばれる地域であることが、その大きな理由です。昔から、三条市と燕市のある「燕三条」エリアでは、金属加工や金物の製造が盛んに行われてきました。燕三条の職人の技術なしには、当社の品質は成立しません。例えば、アウトドア用品の定番である金属製のマグカップやテントを支える杭も、この金物製造の技術があってこそです。

 

さらに、本社にはオフィスのほか、直営のショップとキャンプ場、さらにミュージアムを併設しています。実店舗とキャンプ場、開発現場の距離が非常に近いので、お客様のリアルな声を製品開発に生かすことができています。また、製品の使い心地などをキャンプ場ですぐに検証できるのもメリットです。

新潟県三条市にある、スノーピーク本社「Snow Peak HEADQUARTERS」。広大な敷地のなかに佇む同拠点は、本社機能のほかにキャンプ場や店舗も備えている。

ーーオフィスにはどのような特徴がありますか?

 

オフィスでは、フリーアドレス制を採用しています。部署ごとの配置だとほかの部署の動きが見えにくいのですが、フリーアドレスなので部署を横断したコミュニケーションが活発に行われています。「今どんなことをしているんですか?」といった会話も生まれやすいので、相互理解にもつながっています。例えば今日も、副社長が私と同じテーブルで仕事をしていますし、いろんな垣根をこえたコミュニケーションが生まれやすい環境だと思います。

部署を横断したコミュニケーションが活発に行われているというフリーアドレス制。「Snow Peak HEADQUARTERS」では執務スペースにもテントなどの製品が置かれており、自由に使うことができる。

ーー今日はオフィス内のテントで取材を行っていますが、非日常感を感じられるスペースですね。

 

新潟の本社オフィスに2つ、東京のオフィスに1つ、テントを設置しています。テントスペースはすごく人気があって、会議室が空いていてもここを使いたいという人が多いんです。特に外部の方との打ち合わせでは、第一声で「キャンプをしているみたいですね」といった会話から始まることもありまして。私たちが大切にしている野遊びを実際に感じていただくために、アウトドア気分を感じられるようなレイアウトにしています。

海外にも広げる「人生に、野遊びを。」

テクノロジーの進化やコロナ禍など、従来の価値観を揺るがすような状況にあるからこそ、人はますます自然とのつながりを求めるようになると考えているスノーピーク。最後に、社会貢献につながる取り組みと、これから描く未来について尋ねてみた。

 

ーー社会貢献において注力していることはありますか?

 

The Snow Peak Way」にもある、地球上の全てによい影響を与えるために、近年は環境に配慮した活動にも力を入れています。もともとは、本社オフィスの屋上に設置した太陽光パネルで本社の電力の一部を賄っていたのですが、拠点やキャンプ場も増え、より地球によいことをすべきではと、電気由来のCO2排出をゼロにする取り組みを開始しました。株式会社UPDATER(旧:みんな電力株式会社)さんにご協力いただき、全国10カ所の主要拠点および直営キャンプフィールドは電力由来のCO2排出ゼロを達成しています。

 

そのほか、使わなくなった衣類やテントを回収して繊維に再生し、その繊維でデニムやニットをつくるといった活動も行っています。また、30年前から続けている全製品の「永久保証」も、環境への配慮につながる取り組みと言えます。少しでも長く使っていただきたいと、保証期間は設けずに、可能な限り修理に対応しています。

使わなくなったコットン製品を回収し、原料にしてデニムをつくる「UPCYCLE COTTON PROJECT」。思い出の詰まった衣類に新たな命を吹き込む、環境にやさしい取り組みの一つだ。

ーー地域とのつながりについてはいかがでしょうか?

 

実は直営のキャンプ場も、もともとは地方創生の取り組みから始まっています。地方には、その土地ならではの自然環境や風景など、そこでしか得られないものがたくさんあります。スノーピークが提案する野遊びは、そうしたものとかけ算したときに、とても大きな効果を生み出すんです。

 

アパレル事業から生まれた「ローカルウェアツーリズム」というイベントでは、製品に関係する地域でお客様とキャンプをしながら、生産・加工工程の見学や染物体験などを通してその土地や伝統への理解を深めていきます。「着る」ことの提案だけではなく、その背景やストーリーも知っていただきたいと考えています。

 

また、地方創生の一助とするべく、47都道府県すべてに直営キャンプ場を出すプロジェクトも進めています。それぞれの土地が本来持つ価値を一緒に磨き上げ、新たな価値をプロデュースするお手伝いができればと思っています。

 

——最後に、今後の展開について教えてください。

 

今後さらに注力していきたいのが、グローバル展開です。日本のキャンプ人口はおよそ7%と言われています。一方、アウトドア大国とも言われるアメリカでキャンプ経験を持つのは人口の約半分。キャンプに関心のある人が、日本よりはるかに多いんです。

 

ただ、キャンプのスタイルが日本とは異なっていて、例えばキャンプ場に備え付けのベンチでちょっとしたバーベキューをすることもキャンプとしてカウントされます。ですので、スノーピークが提案してきたキャンプの形を伝えることができれば、もっと幸せな体験をしてもらえるのではないかと考えています。

 

1996年、アメリカのオレゴン州への展開を足掛かりに、現在は韓国、台湾、イギリスにも拠点を置き、サービスを提供しています。私たちが日本で培ってきた野遊びを、海外の方たちにも広く知っていただくために、スノーピークの世界観を今後も積極的に発信していきたいです。

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取材のウラ側

今回、テントのなかという非日常的な空間で取材を行ったが、ワクワク感に加えて親しみやすさが増し、終始リラックスした雰囲気で話ができたのが印象的だった。フリーアドレス制の導入などコミュニケーションのとりやすい環境づくりが、垣根をなくし、風通しのよい雰囲気をつくり出していると感じた。人と人とのつながりを大切にするスノーピークのカルチャーが、ここにも現れているのだろう。野遊びを軸として、地方創生から環境問題、そして海外まで。かけ算で事業を拡大していくその姿に、大きな可能性を感じた取材となった。