今回インタビューでお話を伺った上坂さん(大谷さんは取材のみ参加)

5Gによる「無限のつながり」で想像を超える世界へ

変化の激しい通信業界をリードし続けてきたエリクソン。その強みは技術力であり、取得した特許数は5万7000件を超える。新たな通信規格である5Gについて同社は、どのような未来を描いているのだろうか。

——事業内容やビジョンについてお聞かせください。

上坂さん(以下、敬称略):皆さんがお使いの携帯電話やスマートフォンは、それぞれ通信事業者(キャリア)を介して利用されているかと思います。そうした通信事業者さんが当社の顧客であり、私たちが裏方として基地局や交換機といったシステムを提供させていただいています。

 

現在は5Gのリーダー的存在として、世界で134のネットワークを当社が構築しています。割合で言うと、中国を除いた全世界の5Gトラフィックの約50%が当社の無線ネットワークを利用しています。

コーポレートカラーを基調とした什器を配したオフィスエントランス

大谷さん(以下、敬称略):当社は2030年までの実現をめざすビジョンとして、「無限の『つながり』が生活を豊かにし、ビジネスを革新し、持続可能な未来を開拓していく世界」を掲げています。

 

5Gの特徴は、高速・大容量の通信が行えることに加え、多数同時接続が可能となる点です。身の回りの多くの物と物がネットワークでつながることで、人々の生活を豊かにしていく、そのためのテクノロジーを開発し提供しています。

研究開発

——5Gで物と物がつながることで、具体的にどのようなことが可能になるのでしょうか。

上坂:例えば、手術支援ロボット同士がつながれば、離島に住む住民が都市部の医師の手術をリモートで受けられるようになるかもしれません。また、発展途上国などで教育設備が整っていない地域に暮らす子ども達が、リモートで授業を受けられるようになる可能性もあります。

 

ビジネスにおいては、リアルタイムにさまざまな情報が入ってくることで、エンドユーザーの嗜好の変化を捉えた新たなサービスが生まれることが期待されます。いずれも「つながる」というインフラがあってこそであり、私たちが提供する通信ネットワークの社会インフラとしての重要性も高まっていくものと考えています。

大谷:持続可能性の観点では、遠隔でつながることにより、例えば移動が減ることで間接的に環境負荷が低減されることが挙げられます。当社では、まず自分たちの事業をカーボンニュートラルにするとともに、エネルギー消費量を増やさずにより多くのデータが運べるような技術開発を進めています。それにより、2030年までにさまざまな産業で15%のCO2排出量削減を実現しようという目標を掲げています。

 

 

——日本支社であるエリクソン・ジャパンは、製品開発においてはどのような役割を担っているのですか。

上坂:当社はスウェーデンに本社があり、どのような製品を開発していくかといった指針は、全世界のさまざまな要求を本社に集めて戦略を立てています。なかでも日本は、新しい技術を取り入れるスピードが速く、また日本のお客様のニーズが高いという特徴があります。そのため日本からの情報は、今後の製品戦略に対して重要なインプットになっています。日本のお客様に認めていただいた製品は品質が高いというお墨付きになり、他の国で展開するときにもそれがブランド力となるほどです。

結果にかかわらずチャレンジが評価される社風

——どのような方が活躍されていますか。

上坂:チャレンジする気持ちを持っている人や、変更に対して柔軟に対応できる人が活躍しています。その背景には、「新しいことをやってみよう」というチャレンジが歓迎されるカルチャーがあります。自分がやりたいことを表明している人は、周りのサポートも得られやすいですし、たとえチャレンジが成功に結びつかなくても、減点法ではなく、そこから何を学んだかが評価されます。

また、相手に伝える努力ができて、周りを巻き込める人が活躍の場を広げています。当社がグローバルで展開している企業であるということもそうですが、エリクソン・ジャパンの社内をみても実は多国籍な環境です。約1,000人のメンバーのうち、他国の出身者が約1割を占めており、日本語を話さないメンバーもいますので、こちらからしっかり伝えるという姿勢は重要です。

 

特に、5Gについては新しいテクノロジーであるため、今までの学びが生きる部分はあるものの、同じやり方ではお客様を満足させる導入にはつながりません。明確な回答がない課題に向き合わなければならないときに、上手に自分の意見が伝えられ、周りを巻き込んでチームでともに挑戦できる人が成長していけるように思います。

休憩や社員同士のコミュニケーションを促すリフレッシュスペース

大谷:そういう意味では、エンジニアで入社した人でも、自分の強みを見つけて発信して周りを巻き込み、すぐにプロジェクトマネージャーになって大きなチームを率いるようになったという事例もあります。

 

一方で、私たちが手掛けているのは社会インフラであり、何か障害が起こり、携帯電話が使えなくなるという事態が生じれば、社会に与える影響は重大です。新しいことにチャレンジするだけでなく、粘り強く責任をしっかり果たす姿勢も求められます。

——若手でもチャレンジしやすい環境づくりのために、何かされていることはありますか。

上坂:「スピークアップ(意思を表明する)」が推奨されていて、日頃から年齢や役職にとらわれずにいろいろな意見を交換しましょうという雰囲気があります。一方で、スピークアップとただ言われても、経験が少なければ困ってしまう人もいますので、まずは1対1などの小さな場で話す機会をたくさんつくっています。

社内のホワイトボードには多様なプロジェクトや新しいアイデアが記されており、活発な議論の痕跡が見ることが出来る。

特に上司との1対1の対話が重んじられており、上司との距離が近いのも特徴で、そうした場で「こんなチャレンジをしてみたら?」とか、「その意見いいじゃない! じゃあこういうふうに伝えてみたら?」というようなアドバイスをもらうことで、大きな場でも発信していけるようになります。

大小様々な会議室が用意されており、機密度の高い打ち合わせにも対応している

働きやすさを支えるオフィスと制度

——本日は横浜オフィスにおうかがいしていますが、オフィスの特徴をお聞かせください。

大谷:当社にはコロナ禍の前から在宅勤務制度があったのですが、緊急事態宣言下は100%が在宅勤務となり、現在は50%程度の出社率となっています。1人で集中して行う仕事は在宅で行い、チームのメンバーなどとのコラボレーションが必要なときに出社するという人が増えており、オフィスもそれに応じてオープンスペースを潤沢に設け、大小さまざまな会議室を数多く設置しています。

また、働きやすい環境が高いパフォーマンスを生むという考えから、一日中座りっぱなしにならないよう、机の高さを変えられるスタンディングデスクが全世界のオフィスに備えられています。

 

上坂:オフィスの内装のコンセプトや配色、机や椅子が全世界のエリクソンで共通というのも特徴です。入社後初めてスウェーデンの本社に行ったときに、その理由を尋ねたところ「どこの国に行ってもエリクソンファミリーとして仕事ができるように」との返答があり、とても温かい気持ちになりました。実際に私は以前、月に1週間程度、北京の支社に勤務していましたが、北京のオフィスでもホームのような感覚で仕事ができました。

 

白色や木目を基調に、ポップな明るい色が差し色として使われているところが北欧の会社らしいなと感じますし、私は元気がもらえて好きですね。

休憩や会議にも使えるラウンジスペース

大谷:北欧調のインテリアに加え、観葉植物が多いのも特徴ですね。また、グローバル企業でありながらローカルも大切にしようという思いから、会議室の名称に日本の県名を使っています。東京本社のほうは、日本にある世界遺産の名前、例えばHoryujiやHiraizumiなどの名前が付けられています。

会議室名称が日本の県名になっている

——在宅勤務が増えるとコミュニケーション不足になるともいわれますが、何か取り組みはされていますか。

上坂:私のチームでは、チームミーティングがあるときには、その後に「フィーカ(Fika)」の時間をとっています。フィーカというのは、コーヒーブレイクやおやつの時間にあたるスウェーデンの文化です。ちょっとコーヒーでも飲みながら立ち話でもしましょうという時間で、これが仕事以外の雑談ができるコミュニケーションの場になっています。

リフレッシュスペースと執務室との間仕切りはなくスムーズな移動を促している

会社のコーヒーマシンで淹れるコーヒーが美味しいようで、そのために出社していると冗談めかして言う人がいるくらいです。私は紅茶派なので、自社農園で作られたミントを使用したミントティーを飲んでいます。それもとても美味しいです。

ハーブティーの原料を育てる自社農園の説明だけでなく感想や感謝を自社農園へ送ることができる

私たちのチームに限らず、会社がダイバーシティ&インクルージョン(D&I)に力を入れて取り組んでいることから、経験の長い女性社員が若手の女性社員をサポートするために「フィーカするのでよかったら」と声をかけることもあります。コーヒーを飲みながら、これから子どもを持って働いていきたいけれど、どうすればよいかといった、仕事中にはなかなかできない話もリラックスして聞いたり話したりすることができます。

——新入社員の教育にコロナ禍による変化はありましたか。

大谷:2020年に新入社員のトレーニングがオンラインになりました。その結果、オフィスで隣にいた先輩の仕事のやり方を見て学ぶ機会が減ったことから、「Senpai Program」というバディ制度を設けました。

 

1人の新入社員に対して1人の先輩がバディとして付き、特に最初の3カ月は密に一緒に働くというものです。週に60分は必ず話す時間を設け、仕事内容についてはもちろん、今後のキャリア形成などについてもしっかり対話をしてサポートします。先輩だけではなく、上司を含めた面談も行います。

上坂:Senpai Programは期間限定ですが、期間が終わってもそこで築いた関係性は残ります。例えばその先輩の同僚につながるなどネットワークが広がっていき、キャリアについて相談ができるなど働き続けやすい環境づくりにも役立っているようです。

——海外の拠点のメンバーと仕事をされる機会も多いと思います。コミュニケーションで工夫されていることはありますか。

上坂:おっしゃる通り、当社がお客様に導入するシステムは、日本にいるメンバーだけでなく、全世界のメンバーがリモートで参加して構築しています。1年間毎日のように一緒に仕事をしていても、対面では会ったことがないということも少なくありません。離れた拠点で異文化をもった仲間と働いていると、「空気を読んで」というのは成り立ちませんので、しっかりAppreciation(感謝)を見せることが大切になります。

 

当社には、誰かのサポートにより自分のプロジェクトがうまくいったときなどに、感謝を伝えるツールとして「 Ericsson All Stars 」があります。電子のサンキューカードとともに金・銀・銅いずれかのメダルを送ることができるというものです。メダルに応じたポイントが相手に付与され、ポイントが溜まれば希望の物と交換できます。こうした全社共通でコミュニケーションをサポートするツールが良好な関係づくりに役立っています。

——育児休暇など、仕事と育児との両立への支援についてはいかがでしょうか。

上坂:当社では女性に加え男性の育休取得率が高いことが特徴です。近年、男性の育休取得の促進が言われていますが、当社では以前から多くの男性社員が育休を取得しています。また、育休後の復帰率も100%に近く、私は育休を2回取得して復職しています。

私の場合、出産後に家庭や育児で突発的なことが起きるような時期はバックオフィスでの勤務に就きました。その後、子どもの成長もあり育児が落ち着いた時期に再びお客様と接するフロントの部署へ異動しました。復職後にキャリアが積めることはもちろん、希望があれば上長と相談して配置を変えてもらうことなども柔軟に行われています。また、ベビーシッターのサポートが必要だったときには会社の福利厚生サービスを活用しました。もちろん男性も申請することができます。

 

大谷:私の子どもはまだ小さいので熱を頻繁に出します。小さな子どもを抱えながら仕事をしていると、周囲に迷惑をかけているのではないかという意識に陥りやすいですが、そう感じさせないための制度があることに加え、上長が「すぐに病院に行ってきなさい」と言ってくれたり、必要があれば同僚が仕事をサポートしてくれたりと、助け合いの文化があるように感じます。

 

上坂:スウェーデン発祥の会社だからということもあるのかもしれませんが、仕事とプライベートの両方がうまくいっていることが仕事のパフォーマンス向上につながるという考え方が根付いており、プライベートの質の向上を会社がある程度サポートするという風土がそもそもあるような気がします。

多様な人がそれぞれの役割を果たす

通信インフラを支える仕事というのは、社会への貢献度が大きく、それだけ責任の大きな仕事といえる。一方でエリクソン・ジャパンの社内に流れる空気は軽やかだ。

——お二人は会社のカルチャーのどのようなところが好きですか。

上坂:私が当社に長く勤めることになったのは、会社の温かくてヒューマネスな雰囲気が好きだからというのが大きな理由であるように思います。肩書きや役職にかかわらず皆が平等で、それぞれの役割を果たしているという考え方が根底にあって、ファミリーの中で発信しているような感覚をずっと持ちながら仕事ができています。

大谷:ダイバーシティ&インクルージョンが徹底されている会社だなというふうに思っています。私はまだ社歴としては浅いですが、新しい人間を受け入れる土壌が整っていて、人種・性別・年齢を問わずいろんな人がやりたい仕事に取り組んでいける、そういうカルチャーが好きですね。

信仰の多様性に対応するため「お祈り部屋」が設けられている

——最後に、どのような方と一緒に働きたいかお聞かせください。

上坂:新しい技術を取り入れて社会貢献しようと考えている会社ですので、答えのないチャレンジが業務の中にたくさん出てきます。それを粘り強く、でも明るく楽しく一緒に挑戦していける人と一緒に働きたいですね。

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取材のウラ側

お二人のお話や社内の雰囲気から、オープンで温かな空気が感じられた。多様な人がフラットに働き、さらに若手を育てる風土もあることは魅力的である。上坂さんは仕事のやりがいを感じる瞬間として、「自分が苦労して手掛けたシステムが導入され、キャンペーンのCMが流れたとき」を挙げた。ワクワク感を伝えるCMを見たときに、社会が新しく変化していくところに自分が貢献できていることの喜びを感じるのだという。5Gがもたらす未来への期待は大きく、そのぶん同社で働くことで得られるやりがいもさらに大きくなっていくだろう。