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ライオン株式会社
ライオン株式会社は、日本の大手生活用品メーカーで、オーラルケア分野のリーディングカンパニーとして知られています。ハミガキ、ハブラシ、洗剤などの日用品を主力製品とし、医薬品やペット用品なども手がけている会社です。
Official Site日本を代表する日用品メーカー大手のライオンが、およそ50年ぶりに本社移転を敢行した。長方形にデスクを並べて社員が向かい合う完全固定席といった従来型のオフィス環境をダイナミックに変革した。その成果は随所に現れ始めているという。本社移転プロジェクトの立ち上がりからオフィス構築を担当してきた同社総務部の西本博昭さんに話を聞いた。
目次
従来の事業にとらわれない新しいチャレンジの活性化を目指す
——ライオンのことは既に多くの方がご存じだと思いますが、改めて主な事業内容などを教えてください。
西本:ライオンは、「愛の精神の実践」を創業からの想いとして受け継ぎ、人々の心と身体のヘルスケアの実現を目指しています。これまで商品の提供にとどまらず、生活者への情報発信や正しいオーラルケア習慣・衛生習慣等に関する普及啓発活動を推進し、より良い習慣づくりを提案してきました。ここに当社のユニークネスがあると考えております。
具体的な事業は、一般用消費財事業、海外事業、産業用品事業で構成されています。国内では「予防から手入れ・快適さに至るトータルケア」をサポートする、オーラルケア用品、洗濯用洗剤、OTC(Over The Counter)医薬品等の幅広い製品・サービスを提供しています。海外では、東南・南アジア、北東アジアで事業を展開しており、文化や言葉を超え、くらしに役立つ商品をお届けしています。
——貴社の企業理念について、そこにある思いや大切にされていることをお聞かせください。
西本:企業理念は「パーパス(存在意義)」、「ビリーフス」、「DNA」の3つで構成されています。パーパスには、人々の心と身体のヘルスケアの実現に加え、サステナブルな社会の実現という思いが込められています。
ビリーフスは、パーパスを実践するために 私たちが携えるべき「信念」であり、「日々の考え方・行動・判断の拠り所」です。ライオンで働くすべての人は、 常にビリーフスのもとに暮らしの中に新たな課題を発見し、高いプロ意識を持って仕事に取り組んでいます。
DNAは、「愛の精神の実践」。先述したように、創業から受け継がれてきた想いであり、当社の基盤となるものです。
——企業理念を社員に浸透させるために取り組んでいることはありますか?
西本:より自発的に理解してもらうことが大切だと考えています。一例を挙げると、ワークショップや研修を通じて、社員一人一人がしっかりと考え、自分ごとに落とし込めるような教育を実践しています。
——貴社の社員はどのような雰囲気の方が多いですか?
西本:ライオンという社名なのに、基本的には温厚な人間が多いですね(笑)。当社のミッションを達成していくためには、厳しさや、前に出ていくような積極性のある人たちも当然必要です。新しいことに挑戦するカルチャーを育むため、数年前から社内ベンチャーを増やす活動をしたり、職場での服装を自由にしたりとさまざまな改革を進めています。本社オフィスの移転もその一環です。
——社内ベンチャーとは具体的に?
当社には「NOIL(ノイル)」と呼ばれる新価値創造プログラムがあります。これは、新規事業アイデアのコンペティションで、最終選考を通過したテーマは、発案者自らがオーナーとなり事業化を推進するというものです。このプログラムから生まれた株式会社休日ハックは、人々の休日をより良いもの、楽しいものにすることを掲げ、街歩きや謎解きのコンテンツ開発に注力しています。今この会社が急成長し、今年5月から8月にかけては東京メトロ(東京地下鉄株式会社)さんと組んで大規模なイベントを開催しました。メディアにも広く取り上げていただき、好評を博しました。
結局、「より良い習慣づくり」というのは、オーラルケアや洗濯などに留まることなく、いろいろな習慣に目を向けることに他なりません。それによってお客さまの幸せも広がっていくわけですから。休日ハックに代表されるように、従来のライオンの枠からはみ出てもいい雰囲気が醸成されてきたのは、目に見える大きな変化だと言えるでしょう。
働きがいを高めるためのオフィスに
——都内に4カ所あった拠点を集約し、2023年4月、本社オフィスを台東区蔵前に移転しました。その背景や経緯について教えてください。
西本:まず総務的な視点で言うと、竣工から50年ほど経過した社屋ばかりで老朽化が目立っていました。そこで同じ場所で建て替えるか、それとも移転するかといったところから検討を始め、2019年に本社移転プロジェクトが正式にスタートしました。
もう一つの課題として、社員の働きがいの低下がありました。先ほどお話しした社内ベンチャー提案プログラムをはじめ、実は2012年頃から社員の挑戦やイノベーションを推進するような取り組みが活発化していました。新たな挑戦は社員の気持ちを高ぶらせて、元気にさせる面もあります。このような社員の挑戦を支援する体制を整えつつ、オフィス移転を機に人事制度やデジタル化等と連携してさまざまな環境を整備し、働きがいを高めようというのもプロジェクト目標に加わりました。
当初、プロジェクト専任メンバーは私を含めて4人でしたが、総務経験者は一人もいませんでした。ライオングループのシナジーを結集して、その良さを生かすべく多様な人間が多様な理想を持ち寄ってオフィスを作ることが狙いだったからです。
——プロジェクトを進める中でどのような苦労がありましたか?
西本:4年先に向けて何かを仕上げていくのは非常に難しい上に、4年の間にメンバー交代がありました。合意形成して「こうやっていこう」と決めてきたものが、新メンバーの思いや知見を組み込めば練り直しが必要になるのも当然です。メンバー同士の意見のぶつかり合いは健全なことですが、調整は本当に大変でした。
そんな状況でも結局は現場で乗り越えていかねばなりません。その際に重要だったのはプロジェクトのコンセプトとポリシーにこだわり、メンバー全員ですり合わせを続けたことだと思います。全員の意見が一致するのはなかなか難しいけれど、コンセプトやポリシーがあったおかげで、まったく違う着地になってしまう事態は避けられました。
フロアを使い分ける社員たち
——オフィスのデザインに関して、どのような点にこだわりましたか?
西本:デザインは2019年の年末にコンペティションの案内を出して、最終的に2社を選出しました。本社オフィスは特殊フロアと執務フロアに分かれていて、特殊フロアは株式会社インターオフィスさんに、執務フロアは株式会社イトーキさんにお願いしました。一つのオフィス内に2社それぞれの個性あるデザインが共存していることが、自然と社員の使い方にバリエーションを生むことになったと思います。
執務フロアは、色合いは変えながらも、ある程度同じフォーマットで作っていますが、特殊フロアは場所によって機能も雰囲気も大きく異なります。フロアが変わった瞬間にまったく違うところに来た印象を持っていただくと思います。
社員はこのことをあまり知らないのですが、実際、特殊フロアが得意な社員と、不得意な社員が明確にいますね。例えば、レイアウトを自由に変更できる4階の「共創フロア」で仕事するという選択をしない社員はいるし、その逆もいます。また、作業内容に応じていくつかのフロアを使い分けるような社員も少なくありません。「今日はこの仕事だからここだ」とパターン化されているはずです。
——そのほか、他社のオフィスにはないユニークさなどはありますか?
西本:本社オフィスのコンセプトに「自ら選ぶ」「つながる」「ワクワクする」という3つを掲げています。ワクワクというのは、ただ楽しいだけのオフィスではなくて、冒頭にお話ししたように、社員の習慣に結び付くようなものにしたいという考えに基づきます。さらに、ただ見ればわかるものではなくて、誰かが利用しているのを見た時に初めて「あ!」って気付くようなものにしたい。そのためのいろいろな仕掛けを用意しています。
習慣に結び付ける大きな軸は「健康」「多様性」「サステナビリティ」です。健康については、やはりライオンのオフィスは他社と比べて配慮が違うよねと、後々感じてもらえるようにしています。例えば、歯みがき専用台が90台あるのですが、これは世の中に出荷されている台数の中でも大きなシェアになります。ライオンの社員なら当然歯みがきをするだろうと、わざわざ説明しなくてもありがたみを感じてもらえるものだと思います。
もう一つ、「GENKIアクションルーム」という部屋があって、そこにジム器具を置いています。ジム器具は、ラグビー部が主に利用しているのですが、せっかくだからと社員にトレーニングを教えるような企画を始めました。すると若手、ベテラン、男女問わずたくさんの参加者が集まり一緒にトレーニングするようになりました。その部屋自体を知らなかった社員が通りかかって「うちの会社、トレーニングをしている人がこんなにも多いんだ」と驚き、他の社員に話すようなこともあります。いつしか社員の健康習慣レベルが、自分たち自身の知らない間に高まっている状況になっています。
多様性については、一つに、育児しながらの勤務に違和感のないオフィスにすることを目指しました。親子ルームなどは自由に選んで利用できるのですが、あるとき社長が女性社員から「子どもを連れてきてもタブレット端末ばかり触っている」という話を聞き、ガラス一面にクレヨンで落書きできるようにしました。さらには社員用のライブラリーに子ども向けの本も置かれるようになりました。このように、子どもにとっても居心地の良いオフィスになりつつあるのです。
サステナビリティの観点では、カフェテリアのトレーを歯ブラシのリサイクル素材で作っていたり、植木鉢の中にリサイクルペレットが入っていたりしています。社員自身が自然と「いいね」と感じて人に自慢できるようになると良いなと考えていました。例えば、カフェテリアで来客した取引先と一緒に昼食をとるとなった時に、「このトレーは、使用済みのハブラシから作られているんですよ!」と言えると、自分がライオンで働くことへの誇りも感じてもらえるのではないかと。
いろいろなオフィスの仕掛けについては、押しつけがましくならないようにプロジェクト側からはあまり説明していませんが、気付いたら社員がさまざまな機能などを「いいね」と感じて、自ら使ったり広めたりしている姿は嬉しいですね。
——オフィス移転による具体的な成果は何でしょうか?
西本:一つは社員が習慣を変える体験を実際にしていることです。例えば、健康でいえば、オフィス内での歩数が2倍になったとか、昼歯みがきの実施率が増えたという成果も現れています。
もう一つ、社内ベンチャーの提案や社外とのコラボレーション等の活性化も挙げられます。そもそも以前は場所がなく、どこかの会議室の区画を間借りするような状況でしたから。社内ベンチャーの居場所が自然と増えているのはオフィス移転の成果です。実際、休日ハックのメンバーは「自分たちはこのオフィスのおかげで成長している」と言ってくれました。新規事業やインキュベーションが生まれやすくなり、かつ事業成長していることは、きっと他の社員の刺激になっているはずです。
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取材のウラ側
長い年月をかけてついに新しいオフィスが完成したとき、プロジェクトメンバーであれば通常、他の社員にその機能性や使い勝手などを得意げに喧伝して回るのではないだろうか。それは決して否定されることではなく、オフィス構築に奮闘した者の当然の権利である。けれども、西本さんをはじめライオンのプロジェクトメンバーはそれをしない。社員一人一人が自ら体験し、その良さに気付くことに重きを置いたのである。さらに、後日、同社のオフィスが第37回日経ニューオフィス賞の全国推進賞を受賞したことを知った。それでも自慢気に語ることは一切しない。改めて同社の自立性の高さを窺い知ることができた。
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