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インタビューを受けてくださった、人事・広報担当の中神美佳さん(写真上)と開発担当の堀尾宗平さん(写真下)。 ©インターステラテクノロジズ株式会社

リーズナブルで、便利なロケットを提供する

「誰もが宇宙に手が届く未来をつくる」。そんな未来像をビジョンに掲げるISTは、北海道の大樹町で小型ロケットの開発・製造、打ち上げまでを一貫して行っている。

 

「誰もが宇宙に手が届く未来をつくる」。そんな未来像をビジョンに掲げるISTは、北海道の大樹町で小型ロケットの開発・製造、打ち上げまでを一貫して行っている。

 

ーー事業内容について教えてください。

 

中神美佳さん(以下、中神さん) 当社は北海道の大樹町に本社を置く、ロケット開発のスタートアップ企業です。本社に隣接する工場で、観測ロケット「MOMO」の製造と2023年度の打ち上げをめざす超小型人工衛星打ち上げロケット「ZERO」の開発を行っています。ロケットの射場・実験場は、本社から車で15分ほどの宇宙港「北海道スペースポート」のなかにあります。千葉県浦安市にも支社と工場があり、昨年末には室蘭工業大学さんとの共同研究をさらに促進するため、大学内に研究所を開設しました。

 

これまで日本国内のロケット開発は、国の主導で行われ、一般の方にはあまり縁のないものとされてきました。しかし、私たちは限られた人たちで行われていた宇宙事業を、もっと身近なものにしたいと考えています。ロケットという手段を用いて気軽に宇宙にアクセスできる、そんな世界を実現するために、低価格で便利なロケットをつくりたいと開発を進めています。最近では、今年の7月にTENGAロケット(MOMO6号機)とねじのロケット(MOMO7号機)の打ち上げに成功し、どちらも宇宙空間に到達しました。

 

堀尾宗平さん(以下、堀尾さん) 私たちは、ロケットを輸送手段の一つと捉えています。輸送用のトラックのようなイメージです。トラックが大きくなると、たくさんの荷物を載せられますが、行き先や出発のタイミングはほかの荷物と合わせなければいけませんよね。私たちが扱うのは、お客様に合わせて行き先もタイミングも選べる小型のチャーター便のようなイメージです。大型のロケットではなく、小回りのきくコンパクトなロケットです。

 

IoTの広がりなどにより、小型衛星の打ち上げに対するニーズはますます高まっています。私たちはそうした人工衛星を、宇宙へ向けて好きなときに運べるような、利便性の高い小型ロケットの開発に取り組んでいます。

 

ーー宇宙に届くロケットを開発する民間企業は、ほかにもあるのでしょうか?

 

中神さん 国内の民間企業が単独開発したロケットとして宇宙空間に到達しているのは、当社だけです。また、液体ロケットという技術が世界的に主流になってきていますが、液体ロケットですと、私たちは民間開発としては世界で4番目に打ち上げに成功しています。私たちより前に成功しているのは、電気自動車企業テスラの共同創設者であるイーロン・マスク氏が創業した「スペースX」、Amazon.comのジェフ・ベゾス氏が設立した「ブルー・オリジン」、そして「ロケット・ラボ」とすべて米国の企業です。その次に日本のISTなので、よいポジションをとれていると思います。

一気通貫のスピーディーな工程で、コストダウンを実現

ロケットを身近な輸送手段とするためには、徹底したコストダウンが肝となる。同社が打ち上げている「MOMO」と同等クラスの観測ロケットは、打ち上げに数億円が必要とされるが、同社ではそれより一桁少ない費用に抑えられているという。

 

ーー低価格なロケットを、というお話がありました。どのようにしてコストを抑えるのでしょうか?

 

中神さん 当社では自社工場を4つ所有しており、専用のロケット射場・実験場もあるため、ロケットの設計、製造、組み立て、打ち上げまでを一気通貫で手掛けることができています。それぞれの担当者が非常に近い距離でものづくりを行っていますし、できる限り内製していますので、かなり速いサイクルで工程が進みます。

 

堀尾さん 結果として製造にかかる時間を大きく短縮できるため、コスト削減につながっています。「MOMO」と同程度のロケットの打ち上げには通常数億円かかりますが、当社では製造費を含めて数千万円台に抑えられています。

 

ーースピード感が重要なのですね。

 

中神さん 社内の意思決定もすごくスピーディーです。大きな組織だと1週間くらいかかりそうな検討事項も、slackというコミュニケーションツールやクイックなオンライン会議を通してすぐに承認をとることができています。転職で入社した人は、そのスピード感に驚くこともあるようです。

 

ーー現在の内製率はどれくらいですか?

 

中神さん 50%以上です。ロケットの製造というと、ごく限られたメーカーによる特別な部品を使用するイメージがあるかもしれません。当社では多くの部品を内製していますし、ロケット部品の一つひとつを見直して、従来は数百のパーツで構成されているコンポーネントを数パーツで構成するなど部品点数も削減しています。それも、低価格なロケットを実現できている理由の一つです。

 

コストダウンですと、燃料もそうですね。MOMOでは液体燃料のエタノールを、現在開発中のZEROではメタン(LNG)という液体燃料を使用します。世界を見ても、ロケットには液体燃料を用いるのが主流ですし、メタンを燃料としたロケットの打ち上げ実績は、国内ではまだありません。どちらの燃料も安価で扱いやすいという特徴があり、燃料費そのものも抑えられますし、環境にもやさしい燃料です。

 

メタンは、家畜の糞尿からとれるバイオガスに多く含まれています。私たちが拠点を置く北海道大樹町は酪農の町なので、将来的には町内の家畜の糞尿からメタンを生成し、液化させて、ロケットの燃料を地産地消することも考えています。地域内の資源を有効活用した新たなエネルギーの地産地消モデルとなり、SDGsや国が進めるカーボンニュートラルへの貢献にもなります。

内製化を図りながらコストダウンを実現した、ねじのロケット(MOMO7号機)。 ©インターステラテクノロジズ株式会社

一人ひとりに裁量を委ねた、自由度の高い働き方

ロケットの開発・製造には、世界屈指の高度な技術力が必要となる。同社では、どのような人が活躍し、どういった働き方が実践されているのだろうか。

 

ーーもともとロケットの専門知識を持つ方が多いのでしょうか?

 

堀尾さん 大学で航空宇宙工学を学んだ人や、前職でロケットに携わっていた人もいますが、約8割は異業種からの転職です。多いのは自動車業界ですね。自動運転やハイブリッドエンジンの開発など、彼らの経験や知識から多くのことを学んでいます。ほかにも、電子機器メーカー出身の人や、造船・プラント関係出身の人など、多種多様です。

 

ーーあらゆる分野の専門家が集まっているのですね。

 

堀尾さん もともと宇宙産業に興味があって、インターンシップで来てそのまま入社した人や、アルバイトをしていて入社した人もいます。私自身、インターンを経て入社したのですが、現在も月に2~3人はインターンを受け入れています。

 

中神さん ここ1年半で人員が倍増し、現在は60名ほどの従業員が働いています。一気通貫で開発・製造していることもあり、「自分のロケットだ」という強い誇りを持って働くエンジニアが多いですね。分野別のチームも数人で構成されているので、責任もやりがいもありますし、チームをこえたコミュニケーションもとても活発です。

 

堀尾さん だからこそ、自分のことだけしていればいいという感覚では通用しません。誰かが困っていたら、「自分にできることがあれば言ってください」と自然に声をかけますし、特に打ち上げ前は団結力がすごいです。

 

開発・製造さらに打ち上げ運用のそれぞれで、エンジニアが能力を発揮するタイミングは異なります。自分の前後の工程だけではなく、全体工程に関わることができるというのは、ISTならではの魅力だと思います。打ち上げ前に現場から出る意見は次の設計に活かせますし、そもそも設計して終わり、製造して終わりではありません。打ち上げまで全員が責任を持って関わっています。

 

ーー打ち上げの前はかなり忙しくなるのでしょうか?

 

堀尾さん 忙しいですね。ただ、打ち上げ後は、年次有給休暇とは別にリフレッシュ休暇をとることができるんです。普段の働き方においても、個人のモチベーションを最大限に尊重するような体制が整っています。通院や子どもの用事、リフレッシュなど、出退勤の管理の裁量はそれぞれのモラルに委ねられていて、家庭とのバランスもとりやすく、私自身はすごく働きやすいと感じています。

 

ーー社内の交流は活発ですか?

 

中神さん コロナ禍以前は、みんなで集まってバーベキューをしたり、地元の方にいただいた大量の鮭をみんなで焼いて食べたりして楽しんでいました。拠点が複数あるため、リモートで開発を進めることには慣れています。会議は基本オンラインなので、支社とのやりとりもスムーズですし、在宅勤務でも問題なくコミュニケーションがとれています。slackには部活のチャンネルもあって、業務以外での交流の場になっています。

 

ーー社外との交流についてはいかがでしょうか?

 

中神さん 研究所のある室蘭工業大学さんのほか、JAXA(宇宙航空研究開発機構)さんとも共同研究を進めています。あと、当社には「助っ人エンジニア制度」という制度があり、企業や大学、研究機関などからエンジニアの出向を受け入れています。

 

現在はトヨタ自動車さんから2人、古河電気工業さんから1人出向されています。また、JAXAさんの「クロスアポイント制度」でも1人来られています。出向受け入れについては企業からの問い合わせも多く、今後も増えていく予定です。

 

専門家の方々やパートナーの方々と力を合わせてものづくりを行っているからこそ、コストダウンへの挑戦はもちろん、ロケットや打ち上げに対する高い信頼性を築くことができています。他業界から学ぶことはとても多いですし、働き方の選択肢の一つとして、助っ人エンジニア制度を広くご提案できればと考えています。

ロケットを未来社会の新たなインフラに

南と東が海に向かって開けており、年間を通じて天候が安定している大樹町は、ロケットの打ち上げにとても有利な場所だという。そんな大樹町を拠点に、今後どのような展開を描いているのだろうか。

北海道広尾郡大樹町にあるISTの本社。大樹町は航空・宇宙分野での実験や、飛行試験を積極的に誘致する町として知られている。 ©インターステラテクノロジズ株式会社

ーー最後に、今後の展望について教えてください。

 

中神さん 2期連続でMOMOの打ち上げに成功し、宇宙空間に到達したことで、MOMOの高い信頼性が実証されました。さらに量産体制を整えて、多くの方にMOMOを活用していただきたいと思っています。今後は、観測ロケットという科学的なミッションだけではなく、エンターテインメントやマーケティングなどにも活用範囲を広げていきたいですね。これまで宇宙やロケットにあまり縁のなかった企業にも、たくさん使っていただきたいです。

 

そして、2023年度にはZERO初号機の打ち上げが控えています。特にZEROにおいては、アジアや欧州といった海外を含む人工衛星事業への利用拡大をめざしています。今後は、ZEROとMOMOの両輪で運用していくことになりますし、ほぼ全職の採用を強化して仲間を増やしていきたいですね。

 

堀尾さん MOMOは、宇宙を身近な存在にするツールです。これからの社会における、新たなインフラになるのは間違いありませんし、射場もロケットも生活に欠かせないものになると思っています。

 

過去には、「気象衛星ひまわり」のおかげで気象データがとれたり、「みちびき(準天頂衛星)」やGPSデータがとれたりして、生活に必要な情報を得られるようになりました。そんなふうに私たちのロケットを通して、多くの人工衛星が打ち上がり、より便利で豊かな生活を実現できれば、めぐりめぐって社会全体に貢献できればいいですね。そんな未来をめざして、これからも日々の業務に真摯に取り組みたいと思います。

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取材のウラ側

2機連続の打ち上げに成功し、開発中の次世代機ZEROでは、国内で前例のないメタンを燃料にした液体燃料ロケットの打ち上げに挑むインターステラテクノロジズ。航空宇宙工学の専門家がそろっていると思いきや、意外にも従業員の8割が異業種出身とのこと。そこから生まれるシナジーが、同社の発展の要となっていると強く感じた。従業員一人ひとりが高いモチベーションを持ち、自身の専門領域にとらわれることなく学びつづけている。そして、社外との連携やコミュニケーションも活発に行い、さらなる技術力の向上とコストダウンを実現している。ロケットがインフラになるという新たな未来を描く同社の動きに、これからも注目していきたい。