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株式会社良品計画
良品計画は、「無印良品」で生活用品や食品、衣料品等の企画・開発・製造・販売を行う企業です。近年は、ワークプレイス構築や、住まい全体のプロデュース・リノベーション提案、さらには、地域活性化を目指したキャンプ場の運営など、多岐にわたる事業を手掛けています。
Official Site「無印良品」や「Café&Meal MUJI」などを国内外で1300店舗以上も展開する良品計画は2024年2月、長年にわたって拠点を構えていた東京・池袋を離れ、飯田橋に本社オフィスを移転しました。同社の企業理念である「感じ良い暮らしと社会」の実現に向けて、自らのオフィスでも体現するための決断でした。今回は、一連のオフィス移転プロジェクトに深く関わった空間設計部の渡部奈保さん、磯野歩さんと、総務部の清宮章禎さん、赤羽雄気さんに舞台裏などを振り返っていただきました。
目次

——まずは渡部さんと磯野さんが所属する空間設計部について教えてください。
磯野:2021年に中期経営計画が作られ、会社の理念を改めて「感じ良い暮らしと社会」に据え置きました。元々、当社には空間に関わる部署として、無印良品の店舗を設計する店舗設計部や、住宅事業を展開するグループ会社の株式会社MUJI HOUSEがありました。ですが、家やインテリアに留まらず、まちや社会のスケールで暮らしのリノベーションに携わる中、「地域での暮らし方や、山林課題まで踏み込んだ、社会解決型の空間事業、設計事務所を立ち上げる」という指針を持って空間設計部が新たに生まれました。

渡部:事業内容は、基本的にBtoBの空間設計に関わるクライアントワークを中心とした業務を行っています。インテリアコーディネート、スタイリング、造作家具什器のデザイン、内装デザイン・基本設計といった通常の空間デザイン業務です。
また、空間設計に関わるプロジェクトの初期段階から関わることで、基本構想策定に向けてお客様と一緒に考えたり、ワークショップを企画したりしています。

——現在、特に注力している事業は何でしょうか?
渡部:1つ目が「ワークプレイス構築事業」です。働く場のデザイン提案を行っており、オフィスを中心としつつも、食堂やラウンジなどのリフレッシュ空間も含まれます。そのほか、福祉施設のリノベーション、木をふんだんに使った商業空間の提案など、さまざまな事例があります。
同事業のサービス領域には、空間デザインに加えて、働く環境をお客様と一緒に考える「意識醸成プログラム」や、オフィス防災の提案なども含まれニーズも高まっています。また、当社の商品を活かしたサービスとして、企業ロゴ入りユニフォームの製作や、無印良品のお菓子・ドリンクを提供する「一坪喫茶」という憩いの空間作り、アートセレクトなどもあります。
2つ目は「宿泊・滞在施設リノベーション事業」です。当社が近年展開している宿泊施設の空間デザインを担当しています。クライアントからの依頼により、無印良品の世界観を体感できる「MUJI room」というコンセプトでホテルの客室を設計することもあります。3つ目が「公共空間木質化事業」です。ここでは、子育て支援施設や駅、図書館など多岐にわたる公共施設において、自然素材の木を活用した空間デザインを手掛けています。


若手のチャレンジを後押し
——独自の世界観を大切にされているかと思いますが、良品計画の企業カルチャーや社風はどういったものでしょうか?
清宮:当社の企業カルチャーの根底には、無印良品の原点としての思想があります。無印良品は当時の過剰な消費社会へのアンチテーゼとして、低価格かつ品質の良い商品の提供を目指して誕生しました。現在は、その考えをさらに発展させ、当社の理念でもある「人と自然とモノの望ましい関係と心豊かな人間社会」を考えた商品 やサービスを世界中で提供したいという考えとなっています。さらに環境や地域、地球について常に考え、単なる利益追求ではなく、当社が社会に与える影響を考えながらビジネスを展開しています。
例えば、従来は商社を経由していた取引を内製化することで、商社を介在することで見えなくなっていた工場や産地とのコミュニケーションを取り戻し、中間マージンを減らすことで現地のパートナー工場の利益向上や地域の雇用創出、生活水準向上に寄与したいと考えもその理念に基づいたものといえると思います。

——社員の働きやすさについてはいかがでしょうか? どのような人事制度や人事施策がありますか?
清宮:まず、若手にチャンスを与え、責任あるポジションに早期にチャレンジしてもらうことを重視しています。当社では早ければ3年程度で店長に就任できます。各店舗は「個店経営」を標榜しており、店長は地域のために良品計画の社長代行として活動することが求められます。また、近年は若いうちから海外経験を積める機会も増やしています。
社内交流の活性化施策にも積極的に取り組んでいます。ビジネスモデル上、店舗と本部が分かれがちなため、本部から各地域にメンターとサポーターを任命し、店舗をサポートする制度を導入しました。メンターが現地を訪れて店舗のメンバーと交流したり、全国の店長が本部に集まって店長会議を開催したりすることで、組織全体の連携を強化しています。
さらに、本社では「MUJI BAL」という社内イベントを始めました。食品部による食事の提供やお酒によるカジュアルな空間を提供し、役職や部門を超えたコミュニケーションを促進しています。


——若手の挑戦に関して、空間設計部では具体的にどんなことがありますか?
渡部:一例を挙げると、有志のチームが宮崎県の山に研修に入り、林業の現場を体感した上で、それにまつわる課題解決や木材活用について考え、真摯に取り組んでいます。与えられた業務以外に自分たちがやりたいことにチャレンジできる環境を整えています。
人員増でミーティング場所も足りなかった
——2024年2月に池袋から飯田橋へ本社オフィスを移転しました。その背景や経緯について教えてください。
清宮:最大の理由は、従業員数の増加に対してオフィスが手狭になったことです。これまでもレイアウト変更などで対応してきましたが、スペース不足により執務環境が悪化し、従業員の心身の健康に悪影響を及ぼす懸念がありました。
移転理由のもう一つは、コミュニケーションの課題です。旧オフィスは8階建ての縦型ビルで、1フロアの面積がそれほど広くないため、部署間の交流が不足していました。例えば、販売と商品開発が別のフロアに分かれており、連携が取りにくい状況でした。同じフロアで部署間の対話が増えることで、より良い商品ができるという考えから、現在のようなコミュニケーションを活性化できる1フロアの場所が必要だったのです。


——恐らくそういった課題は以前から顕在化していたと思いますが、なぜこのタイミングでの移転だったのでしょうか?
清宮:以前は自社ビルだったので退去期限はありませんでしたが、コロナ禍の収束に伴い出社率が上がってきたとき、「この環境ではもう対応できない」という認識が強まったのが大きな要因です。お客様を大切にする会社が従業員を大切にできていないということは大きな問題と捉え、急ぎ経営層との議論を本格的に始めていきました。本社オフィス移転が正式に決まったのが2022年の年末です。
磯野:移転まで実質1年しかなかったため、かなり急ピッチでいろいろと決めていきました。この規模のオフィス移転を1年で完了させるのは異例のスピードですが、自社でオフィスを設計しているからこそ、プロジェクトを粘り強く進められたのは強みでした。



——プロジェクトの概要について教えてください。
清宮:まず、オフィス移転のコンセプトと移転後の働き方に重点を置き、経営層を含めた社内会議で議論しました。新しいオフィスへ移転するというだけでなく、この機に働き方もしっかりと見直そうという意図も含まれています。大きなコンセプトを決めた後、従業員の課題や意見を吸い上げ、オフィスレイアウトに落とし込み、物件見学、内装決定、日程調整と一気に進めました。
渡部:移転前のオフィスは、本部スタッフ約700人に対し、休憩室は40席しかなく、また、会議室も数が不足していました。そのため執務室内でデスク周辺に椅子を集めてミーティングをしていることも多くありました。オンライン会議の増加にも対応できておらず、エレベーターホールでPCを開いたり、本棚の間で会議に参加したりする社員の姿も日常的でした。
また、事業拡大に伴い商品サンプルが増え続け、収納場所が足りずに通路やミーティングスペースが物置化していました。さらに壁掛けの植物も管理しきれず枯れてしまうなど、「感じ良い暮らしと社会」をビジョンに掲げる会社としてお恥ずかしい状態でした。もちろん、自分たちの働く環境に違和感を持っていましたが、個人の力では改善困難な状況にまで達していました。
そこで「働き方推進室」というプロジェクトチームを立ち上げ、総務、空間設計部、経営企画などから集まったメンバーで課題整理や理想の働き方について議論しました。オフィス業界ではABW(Activity Based Working)が流行していますが、私たちは人員増加や事業変化を考慮し、必要なものをしっかり整備する方針を選びました。物に振り回されるオフィスから、「人が主役のはたらく場」という方向性で一致し、次のような形を目指しました。
一つは、多様な働き方の変化に柔軟に対応できる可変性のある空間。もう一つは、物理的にも心理的にも壁を作らない環境。そして最後は、「完成させないオフィス」というコンセプトの下、移転後も継続的に改善できる風土づくりです。


——そうしたコンセプトはどのくらいのスピード感で出来上がったのですか?
清宮:1カ月もかけていないと思います。コンセプト作りは紆余曲折ありましたが、会社や従業員のことを真剣に考えた議論だったため、最終的な集約はスムーズでした。また、先ほど出た3つのポイントにまとまった時点で、経営層も含めて納得感がありました。
渡部:2016年頃に自社ビルで大規模リノベーションを行なっており、その時に「完成させないオフィス」という言葉も生まれていました。
——コンセプトを固めて、いざ具現化していくわけですが、そこから先はどのような苦労がありましたか?
磯野:当社は衣料品、生活雑貨、食品という商品群を展開する複雑な事業形態です。働き方や必要なオフィス環境などが異なる3つの“会社”を一つにまとめながら設計しなければなりませんでした。
そこで愚直に各部署の担当者にヒアリングし、どのような場所が必要か、どのように働いているのかを徹底的に把握していきました。その結果、必要な機能の最大公約数として、「集中する」「集まって話す」「リフレッシュする」場という3要素に集約できました。
「人が主役」のオフィスになり、主体性が生まれた
——新しい本社オフィスの特徴は何でしょうか?
磯野:現在の本社オフィスはビルの1階、5階、7階に分かれています。1階はイベントスペース兼休憩スペース、5階と7階が執務エリアです。池袋の旧オフィスでは固定席でしたが、働き方改善のため、グループアドレス制のフリーアドレスを導入しました。部署ごとに座るエリアは決まっていますが、その中で自由に席を選ぶことができます。
執務エリアでは単純に長テーブルを並べるのではなく、8人の“島”を風車型に配置し、中央に丸テーブルを設けました。これにより、グループで仕事したいときは丸テーブルに集まるなど、日々の業務内容に応じて柔軟に対応できます。Web会議や電話用の個人ブースも5階に35室、7階に15室用意しました。電気を消して扉を開けている状態が空室を示し、いつでもドロップインで利用できます。
移転から1年が経過し、実態は変化しつつありますが、当初の考え方である「集中」「集まる」「リフレッシュ」の3要素を意識し、物の収納場所を明確にゾーニングすることで、壁のない風通しの良いオフィスを実現できたと考えています。


——具体的にどのような成果が表れていますか?
渡部:数値で見ると、以前のオフィスからさまざまな点で改善されています。例えば、コミュニティスペースを200席ほどの規模で設置、イベントや店長会議などを社内で開催できるようになりました。一人当たりの床面積やデスクサイズも大きくなり、作業効率の向上が見られます。
一方、空間設計部でローコストなデスクを新たに開発するなど、コスト削減も進めました。最も力を入れたのは収納の見直しです。固定席からフリーアドレスへの移行に伴い、個人収納を入口近くのロッカー1カ所のみとし、物量を5割も削減できました。
赤羽:ただし、この1年間で課題も見えてきました。当初は出社率70%を想定していましたが、現在は82%まで上がっており、座席が足りない状況です。当初1.5倍になった一人当たりの床面積も、現在は移転前と同じ水準に戻ってしまいました。

——社内コミュニケーションの活性化についてはいかがですか?
磯野:メインフロアである5階の中央に「オープンMUJI」という場所があり、そこに設置した本棚の活用が自発的に始まりました。各部署が所有していた本が並べられたり、最近は本以外のものも置かれたりしています。
具体的には、本棚の空きスペースを有効利用したいと考えたスタッフが「おゆずり良品をやりたい」と提案してくれたのです。自分では使わなくなった衣料品などを、「誰かに譲りたい」というメッセージと共に置いておくと、もらう人が「〇〇さん、ありがとうございました」といったコメントを返すような交流が生まれています。食品以外なら何でも良く、1週間もすれば品物が入れ替わる時もあるほど活発に利用されています。

渡部:無印良品店舗内で健康相談などができる「まちの保健室」の推進メンバーからオフィス環境改善の提案があり、体調不良者が休む部屋をよりリラックスできる空間にしようという具体的なアイデアが出ました。風通しの良いオフィス環境にしたことで新たな交流が生まれ、気になることがあれば皆が意見を出し合い、それを着実に改善していく風土が根付いてきたと感じています。
磯野:以前は多くの社員が「仕事をする場所」という受け身の姿勢でオフィスを使っていましたが、今は主体的に関わるようになり、良い点も悪い点も含めて意見が出るようになりました。これはまさしく「人が主役」になった証拠だと言えるのではないでしょうか。

——ありがとうございました。
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取材のウラ側
個人的に最も印象に残ったのが、「循環していくオフィスづくりを目指したい」という言葉でした。近年、オフィス回帰の動きが加速し、オフィス環境をアップグレードする企業が増えています。しかし、オフィス刷新に伴う大量の廃棄物発生は、業界における重要な課題となっています。
この課題に対し、同社は廃棄物を最小限に抑えたオフィス空間の実現を目指し、「作っては壊す」という従来の業界の常識を覆す「仕組み」づくりに取り組んでいます。具体的には、地域環境に配慮した自然素材(木材、鉄、土壁など)を積極的に活用した建築を推進しているのです。
今回のオフィス移転においても、その取り組みが具体的に見て取れました。自社のオフィス移転の際は、全てをリニューアルするのではなく、なるべく既存のものを活かす方向で進められています。また、オフィスのテーブルには、未利用材を再利用した木質ボードなどの素材を活用するなど、既存の資源を最大限に活かす姿勢に、改めて感銘を受けました。
それは単なるオフィス設計の枠を超え、持続可能な社会への深い洞察と、未来を見据えた責任ある企業としての哲学を感じさせるものでもありました。
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