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北海道を舞台に、2021年10月13~17日の5日間にわたって開催された「NoMaps CONFERENCE 2021」。クリエイティブな発想や技術によって、次の社会・未来をつくろうとする人たちのための交流の場だ。多くの展示、カンファレンス、イベントが集まるなか、注目を集めたHOWHERE主催のセッション、「北海道ではたらくこと、北海道にはたらくこと~コミュニティベースドビジネスのこれからを考える~」。登壇したのは、地元・北海道でひときわ先進的な取り組みを続けている、株式会社ファームノートホールディングスの小林晋也社長と、サツドラホールディングス株式会社の富山浩樹社長だ。株式会社フロンティアコンサルティング執行役員の稲田晋司氏をオペレーターに、議論が交わされた。
目次
登壇者
株式会社ファームノートホールディングス 代表取締役 小林晋也
サツドラホールディングス株式会社 代表取締役社長兼CEO 富山浩樹
オペレーター
株式会社フロンティアコンサルティング執行役員 稲田晋司
<セッションの概要および公開中のアーカイブ動画は、こちらからご覧いただけます。>
地域のヒト・モノ・コトをつなげる
稲田晋司さん(以下、稲田さん) 近年になり、SDGs、エシカル、サステナブルといった言葉がようやく一般的になりつつあります。企業は事業活動だけではなく、社会貢献にも力を入れることがさらに求められる時代となってきました。
そうした背景のなか、このセッションでは、「地域」とともに生き、働くとはどういうことか、そしてどのような企業活動を目指すべきか、北海道に根差す企業の経営者の方々にお話をうかがいたいと思います。
地域での企業活動には、社内や顧客以外に、地元のステークホルダーとのコミュニケーションも大変重要だと感じています。お二人が普段から気にかけていることや考えていること、またどのような視野を持って事業に取り組まれているかをお聞かせください。
富山浩樹さん(以下、富山さん) 私たちが手掛ける事業は様々ですが、メインは二つあります。一つがサツドラというドラッグストア事業。もう一つが、北海道共通のポイントカード「EZOCA(エゾカ)」を活用したマーケティング事業です。ほかに教育事業も手掛けるなど、守備範囲は広く、企業としてはこれらを束ねるホールディングスという形式をとっています。
ビジョンは「ドラッグストアビジネスから 地域コネクティッドビジネスへ」。この「地域コネクティッドビジネス」とは地域のあらゆるヒト・モノ・コトがつながり、社会課題解決を図りながらビジネスとしてしっかり発展していくよう、地域の新たな仕組みを創造するという、私たちの造語です。人、企業にコミットしていくと、一見バラバラでも必ず最後につながり、必然的に一つの「面」として広がっていくものと考えています。
稲田さん 御社のWebサイトを見ていると、地域コネクティッドビジネスを皮切りに、ライフコンシェルジュ構想や、健康プラットフォーム構想など、本当に様々な取り組みをされています。プロジェクトがたくさんあるなか、どのような優先順位で事業を推進されているのでしょうか?
富山さん 創業はドラッグストアからですし、健康プラットフォーム構想も健康領域での知見を生かそうと始めたものです。また、今ではリアル店舗も多く展開しているので、これも当社の大きな強みだと思っています。具体的には、店舗でお買い物をする方のトラフィックデータがとれる。「EZOCA」という北海道共通ポイントカードは、そのトラフィックデータを生かすべく開発した事業です。
サツドラには、誰かほかの人がその地域で必要な事業をやっていれば、その人たちと一緒に相乗効果を生み出そうという文化、姿勢があります。逆に、まだ誰も事業を興していない地域で、課題があると認識すれば、自分たちで事業を展開します。いずれにせよ、その誰かとつながるツールとしてEZOCAがある。今では多くの企業、店舗に提携していただき、一つの経済圏となっています。
「社会貢献」は特別なことではない
稲田さん 一方、ファームノートさんは、スマートフォンで簡単に牛群管理ができるアプリや、AIを通じて牛個体の行動データから牛の状態の見える化や異常検知をするセンサーを提供されている会社です。小林さんは、テクノロジーを通じて、牧場経営者が抱える課題の解決に取り組まれています。地域の交流、あるいは牧場経営者同士のコミュニケーションで気を付けておられることはありますか?
小林 晋也さん(以下、小林さん) 根本的な話になりますが、「生活」という言葉を大切にしています。読んで字のごとく、生体として活動することが「生活」です。つまり、生きるために活動するということだと思うのですが、そう考えると仕事も含めてすべて生活ということになります。 仕事をする、企業を経営する、サツドラで買い物をする、すべてが生活で、そこに区切りはありません。
僕が「生活」という言葉を大切にするのは、それが企業の使命に直結するからです。生活を営むのに、一人では不可能なことを複数人のチームで可能にするのが経営です。そうした視点で考えると、「社会貢献」というのは自然になされるべきものではないでしょうか。生活は、一人ひとりの助け合い、貢献がなければ成立しません。SDGsといった言葉を今さら使う必要もなく、自分が生活していくためには誰かの努力や誰かの協力なくしては不可能だと理解することが重要なのだと思います。
そう考えると、地域の方々であれ、牧場経営者の方々であれ、周りの方たちには敬意の念しかないですね。互いが互いを感じ合い、共感し合えばもうみんな仲間です。お客様も生産者もない。コミュニティに共通の価値観をあえてキーワードにするとすれば、ファームノートの場合は「酪農」です。
私たちは、地域をよくするために何かをするという考えではありません。根底にあるのは、ファームノートホールディングスというコミュニティで、お互いにどう協力し合えるか、ということだと思っています。「一緒にやるとしたらどんなご協力をしていただけますか?」「僕らはこういうことに協力できますよ」と、互いに社会をよくしていきたいと願う者同士が常に対話することが大切です。これは、もう人生観のようなものかもしれません。
富山さん 今までは「企業に属して働く」「お金を稼ぐ」という価値観が当たり前になり過ぎていたのかもしれません。コミュニティの定義は様々ですが、コミュニティベースドビジネスとは、何かに共感した人たちの集合体です。旧来の価値観もまだ根強い一方で、小林さんのように「今さらSDGsなんて」という人も増えてきている。価値観やプライオリティの高さが非常に明確なコミュニティがたくさんでき上がってきているように思います。そうしたなかで、世の中全体がサステナブルへ向けて勢いを増しているのも実感します。
小林さん 大きく物事を動かすだけでなく、自分たちの身近でどうしていこうかという、ローカルな流れがむしろ進んでいる感触があります。それは、心の豊かさに通じる気がします。
稲田さん 企業活動をするなかで、最近、「地元で何かできることはないか」と考えている人が多い気がします。採用活動でも変化を感じますか?
富山さん 「地域コネクティッド」を打ち出したのもありますが、ここ数年、当社に興味持って来ていただく層が変わってきました。働く場所を決めるときによく言われるのが、「どこで働くか」「誰と働くか」「何をするか」という3軸ですが、「何をするか」より「誰と」「どこで」のプライオリティがすごく上がっているように思います。
地域の仕事で「北海道出身ではないけど地域に根差した、地域に還元できるような仕事をしたい」という学生さんによく出会いますし、学生さんと同じ理由で本州から来る既卒の方が増えたのを感じます。北海道以外の地域を見てきたからこそ、という方が増えたように思います。
リアルの「場」が醸成する会社の価値観
稲田さん お二人は、ご自身の考えをどうやって社員の方々に浸透させているのでしょうか? 小林さんは社員の方々に向けて「ビジョナリーリーダーズ」という会を開いておられますが、そのほかにも何かされていますか?
小林さん 昔はミッション、ビジョン、バリューを浸透させなきゃと思っていましたが、今は逆に、浸透させる必要はないと思っています。なぜなら、すでにそこにあるものだから。共感するからこそ当社で働く、コミットが高い、ということです。
ところが社員数が増えると、そうも言っていられません。今、一番重要だと思うのが、「あなたは何をやりたいか」です。「会社はこういうことをやりたいんだけど、あなたたちは何をやりたい?」と。全社へのメッセージや個人にも直接問いかけ、意識して一人ひとりの考え方を引き出しています。
富山さん 以前、ファームノートの社員さんたちのBBQに参加させてもらいましたが、その場の雰囲気が醸し出す素朴さや真摯さのなかに、まさにファームノートらしさを肌で感じたんです。改めて素敵な会社だなと思いました。ソフトウェア事業を展開し、今は牧場という「場」をつくられていますが、こういう「場」のコミュニティの強さのようなものは感じますか?
小林さん 感じますね。やはり「ソフトウェア」の会社は「現場」がわからないし、逆に「現場」の会社は「ソフトウェア」がわからない。両方わかるとうまくいきます。
稲田さん 私たちはオフィスのワークプレイスをつくる会社です。一時期、コロナ禍で「場所」を減らす動きもありましたが、今はその力を再認識し、積極的に「場所」をつくる会社が増えています。
富山さん ビジョンの言語化も大切ですが、「場」で会社の価値観が共有されているのを感じています。サツドラも昨年本社を建て替えました。「EZOHUB SAPPORO」というシェアスペースをつくり、そこに地域の方々も集います。従業員に聞くと、そうした場ができて実際に使うことで、頭の中だけで理解していた「地域コネクティッドビジネス」という言葉やビジョンがさらに腑に落ちたと言います。
小林さん そういった経験は大事ですね。価値観やビジョンの話で言うと、私の場合、ファームノートを設立した8年前から発言を変えていません。有言実行の実績を一つひとつ積み重ね、信用してくれた人たちが、ファームノートというコミュニティに集まってくれました。これが本質だと思います。
富山さんも、「この地域のビジネスを通じて、北海道をよりよくしていく」とおっしゃっています。だから、ドラッグストアがカメラをやっても、EZOCAをやってもおかしくないわけです。言っていることとやっていることが本当に一致しているか。これは経営にとって、すごく重要なことだと思います。
富山さん おっしゃるとおり、とても重要だと思います。私は今、「えぞ財団」という「北海道のポテンシャルを上げる」ための経済コミュニティをつくっています。会社とは別活動で、始めて約1年です。そのあいだ、団員が約300名集まって、おかげさまで今も増えています。特に北海道の場合、「北海道愛」が強い人もすごくたくさんいるのですが、そういうコミュニティでも理念を掲げて、少しずつでも実行していくことが大事だと気付かされます。事業でもコミュニティでも、同じだと思いますね。
稲田さん 北海道に本社を持ち、北海道をベースに活動されていますが、お二人とも違う地域でも事業をされていますね。コミュニティの付き合い方など、地域に特色はありますか?
小林さん それは感じます。東京は人の営みが多い分、最新のものが集まるところ。スタートアップという文脈でも、やはり集積しているものは多いですね。当然、北海道とのギャップがあるわけです。でも、そんな東京と北海道を、自分がハブのようになって積極的につないでいく。そこで化学反応が起きて、おもしろいことが生まれる。そうした瞬間に立ち会うのは、とても楽しいですね。
北海道は、課題解決先進地域になる
稲田さん 今取り組まれていることを含めて、今後についてお聞かせください。
富山さん 今後は、社会や環境に対して、企業がどのように向き合うかがよりいっそう大切になってきます。ESGは、SDGsが本格的に出てきた流れのなかにありますが、投資を目的とした方向に企業の動きが加速しています。そこでサツドラのような会社がハブの役割を果たし、経済を動かせるのではと思っています。
実はEZOHUB SAPPOROに入っている企業も、半数は東京の企業です。もちろん、北海道の地元企業も入っています。 北海道の「中」と「外」をうまくつなぐモデルづくりができれば、新たな稼ぐ力が生まれます。そういった循環をつくっていきたいですね。
稲田さん 北海道は課題先進地域と言われますが、その北海道でつくられたビジネスが、これからの日本を救うかもしれませんね。
富山さん みんなで課題先進地域から、課題「解決」先進地域になろうと言っています。今の人口減少や高齢化は、今後世界的に発生する課題です。北海道はこうした課題が最初に顕在化する地域なので、先立として課題解決にあたることになります。
小林さん コミュニティベースドビジネスの観点で、今僕がとても大事にしているのは、「思いついたことを真剣にやる」ということです。なぜ思いつくのかというと、周りに恵まれた環境があるからです。環境とは、つまり、本社がある帯広や北海道、酪農やスタートアップ、経営者仲間たちのこと。そうしたコミュニティのなかで感じたことが、アイデアの源泉になります。
今、感じていることを「本当にそうなのか?」と確認しつつ、ビジネスとして世の中に表現することが大事かなと思っています。 つまり、「有言実行」という話に通じるわけです。先日、富山さんから地域通貨のお話をうかがい、素晴らしいと思いました。地域通貨と酪農が、近い将来、結びつくかもしれません。そうやって、いろんな世界が広がっていくのだと思います。
稲田さん 最後に、企業が地域で事業展開するにあたり、どこから始めればいいでしょうか? ぜひ、アドバイスをお願いします。
小林さん やりたいことをやり、その地域のなかで役割を果たしていくことが大切です。唯一言えるのは、自分の身近に数多くの機会があること、それに気付くことです。「自分の仕事はこれだから」と固執してしまっては、見えなくなります。これは「地域」に関係なく、何事にも言えることですね。
富山さん もちろん、東京に行けばいろんな経験ができると思います。そこで得た知識やスキルを地域に持って帰ってきたとき、一気に仕事が広がることがあります。北海道や地域はブルーオーシャンです。誰もやっていないことにチャレンジできるチャンスと環境があります。そういう意味で、東京と地域では、活躍の仕方が違ってくるかもしれませんね。
稲田さん ありがとうございます。お話をうかがって、やはり働く一人ひとりがどういったことをやりたいか、どういったことを実現していきたいか、しっかり考え抜くことが一番大事だと感じました。今日は貴重なお話をありがとうございました。