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塩野義製薬株式会社
塩野義製薬は、大阪に本社を置く1878年創業の創薬型製薬企業です。「感染症」や「中枢神経系」領域の創薬に強みを持ち、高い自社創薬比率を特徴としています。現在は従来の医薬品提供にとどまらない「HaaS(Healthcare as a Service)企業」への変革を推進し、新たな価値創造に取り組んでいます。
Official Site「薬の街」と呼ばれる大阪市道修町(どしょうまち)。この地で創業した塩野義製薬は2025年11月、本社をJR大阪駅に近接する「グラングリーン大阪」に移転しました。それに伴い、分散していた4拠点のコーポレート機能を1カ所へ集約するという、オフィス改革としては同社史上最大規模のプロジェクトでした。取締役会での決議からわずか1年半というスピード感、「FACE」という新オフィスコンセプトに込められた思い、そして移転後に見え始めた変化とは。プロジェクトをけん引した同社執行役員 サステイナビリティ経営本部長の出口昌志さん、サステイナビリティ経営本部 コーポレートコミュニケーション部 PRグループの堀口磨里奈さん、プロモーションコンプライアンス室の小林純一さんに、本社移転の全貌を聞きました。
目次
変革のターニングポイントで決断
——まずは、創業以来ずっと本社を構えていた道修町から移転を決めた理由を教えてください。
出口:塩野義製薬は今、2030年に向けた中期経営計画「STS2030 Revision」の真っ只中で、大きな変革のターニングポイントにあります。これまで感染症治療薬を中心に事業を展開してきましたが、今後は感染症以外の領域への拡大や、グローバルへの事業展開など、さまざまな変革に取り組んでいきます。さらに、M&A(企業の合併・買収)やキャリア入社などによって新しいメンバーも続々と加わっている状況です。
こうした変革を推進するには、社内外のコミュニケーションのハブとなり、SHIONOGIグループ全体のイノベーションを生み出す、そんな強力なヘッドクォーターが必要だと考えました。そのために4拠点に分散していたコーポレート機能を一カ所に集約することにしました。その器として選んだのが「グラングリーン大阪」の新しい本社です。グループ全体では約5000人の従業員がいますが、そのうちの約1100人が新オフィスで働いています。
——プロジェクトの時系列を教えてください。いつ頃から計画が動き始めたのでしょうか?
出口:本社移転を取締役会で決議したのは2024年2月です。そこから場所選定、契約を経て、実際に内装工事が始まったのが2025年2月。そして2025年11月27日にオフィスを開業しました。
——1年半ほどですね。かなり短期間という印象を受けます。
出口:おっしゃる通りです。通常であれば3〜4年かけて進めるプロジェクトだと思います。スピードアップした要因はいくつかありますが、一つは移転場所が即決だったこと。そして、開業のタイミングを明確に設定したことです。当社の変革のステージを考えると、何年もかけてゆっくり進めるのではなく、なるべく早期に新オフィスが必要だというニーズがありました。
——場所選定が即決だったとのことですが、グラングリーン大阪の決め手は何だったのでしょうか。
出口:やはり、グローバル本社にふさわしいシンボリックな場所であるという点が最大の発信力になると考えました。「うめきた」という大阪最後の大規模再開発エリアの象徴的なタワーに入居できることは大きな魅力です。加えて、公共交通機関の利便性はもちろん、街全体が備える高度な防災機能や安心・安全への配慮も、選定における不可欠な要素でした。
20人体制の「気運醸成プロジェクト」が担ったもの
——オフィス移転に際して、お三方が携わった「気運醸成プロジェクト」とは、どのようなものだったのでしょうか。
出口:オフィス移転プロジェクト全体としては約50人が関わっていました。その中で、ハード面だけでなくソフト面もしっかり設計する必要があるということで、2024年7月ごろに気運醸成プロジェクトが立ち上がりました。
このプロジェクトは、若手メンバーも含めて約20人弱をアサインし、4つのサブチームを編成しました。1つ目は、新オフィスをどう運営するかというルールを策定する「ルール」チーム。2つ目は、オフィスをうまく稼働させるための諸々の設備を整える「デバイス」チーム。3つ目は、従業員の興味や意欲を喚起し、浸透させるためのイベントを企画・運営する「イベント」チーム。4つ目は、社内メンバーへの情報発信を担当する「情報浸透検討」チームです。
——これほど大規模なオフィス移転・改革は、塩野義製薬の長い歴史において初めてだったのでしょうか?
出口:そうですね。オフィス環境の改善やレイアウト変更などは今までも行っていました。ただ、ここまで大きく、ガラリと変わってしまうようなオフィス改革は当社史上初といっても過言ではありません。
——経験がない中でのプロジェクト推進は、さまざまな困難があったかと思います。
小林:私はルールチームのリーダーを務めていましたが、一番苦労したのは「ルールをどう決めていくか」でした。まったく新しいオフィスで、しかも4つの事業所でそれぞれ異なるルールで業務を行っていたメンバーが一つになる。まだできていない部屋、まだ見ぬ会議室で、どう働くかをイメージしづらい中、ルールを精緻化していく必要がありました。
また、20人ほどいるプロジェクトメンバーとも合意を取りながら進めていく難しさも実感しました。例えば、ある会議室の運用を予約制にするか、予約不要にするかだけでも、細かな配慮が必要でした。どのくらいの人数で、どういう時間帯で、どのように使われるか。それらをクリアにしながら、チームメンバーやプロジェクト全体と調整していくのは大変で、利便性を重視するのか、ルールの厳格性を重視するのか。そのバランスが非常に重要だと感じました。
堀口:私は社内情報浸透検討チームを担当しました。一番難しかったのは、単なる場所の移転ではないということをどう伝えるかでした。オフィスが変わって、働き方も変わって、会社も変わっていく。それをどう自分ごととして捉えてもらえるか。単純に「新しいオフィスに引っ越せてよかったね」ではなく、移転を機に皆でどう変わっていけるのか、一緒にオフィスを育てていく、自分たちも育っていくというメッセージをどう伝えるか。そこに苦労しました。
出口:プロジェクトリーダーとしての難しさも、まさにそこに尽きます。新しいオフィスでは、顔を突き合わせて働き、オープンなコミュニケーションの中からイノベーションや変化を起こしていく点が中核のコンセプトになります。移転を変革の機会として捉え、働き方やマインドを変えていくという意識を、従業員の皆さんに持ってもらうことが最大の課題でした。
「FACE」に込められたもの
——そうした新オフィスの目的を言語化したのが、「FACE」というコンセプトだと思います。詳しく教えてください。
出口:FACEという言葉からもお分かりのように、「顔」「向き合う」という意味が込められています。変革期にある当社にとって、物理的にも、そうでなくても、人と人が顔を突き合わせて話し合いをする、コミュニケーションを取る、いろいろな考えを持ち寄ってそこで新しいアイデアに昇華させていく。そこからイノベーションや変革が生まれてくると私たちは信じています。それを新しい働き方の中心に据えるべきだと考えて、FACEというコンセプトを作りました。
——それ以前の塩野義製薬では、部門を超えたコミュニケーションは活発だったのでしょうか。
出口:正直に言って、オープンなコミュニケーションは十分ではなかったと考えざるを得ません。中枢のコーポレート機能だけでも4拠点に分かれていましたし、私自身が旧本社で働いていた記憶からしても、同じフロアの中でのコミュニケーションはある程度オープンでしたが、階をまたぐとあまり交流がなかったです。
そういうことを打破していかなければならないという思いから、このコンセプトが生まれました。以前はできていなかったからこそ、今回の移転を機に実現しようとしたのです。
——そのコンセプトを体現するために、ハード面で特にこだわった点を教えてください。
出口:一番大きな仕掛けは、広大な3フロアを内階段でぶち抜いて、すべてが一つの大きなオフィス空間として自由に人が行き来できる環境を作ったことです。
小林:その内階段の周りを取り囲むように配置した「ワークコモンズ」という空間も大きな特徴です。ここは各大陸をイメージしていて、例えば和風テイストで小上がりもある「Asia」、都会的な雰囲気でスポットライトが印象的な 「North America」など、異なる雰囲気の自由な空間を用意しました。同僚と雑談をするために使ったり、上司と1on1で込み入った話を場として利用したり。コーヒーやロボットペット「LOVOT(らぼっと)」もあって、気軽にコミュニケーションができる空間になっています。既に従業員には人気で、常に人がいます。
堀口:会議室も大きく変わりました。壁に囲まれた会議室がだいぶ減り、代わりにソファー席やファミレスのような形の席などが増えました。これによってプチミーティングなど気軽にコミュニケーションが取りやすくなりました。会議室の壁もガラス張りで、心理的にもオープンになったと思います。
——移転してまだ3カ月ほどですが、どのような変化が見られていますか。
出口:成果を語るにはまだ早いかもしれませんが、最初の従業員アンケートでは約8割が「オープンなコミュニケーションへの変化を感じる」と回答しています。出社率も上がってきています。
今後は、オープンなディスカッションのためのエリアがどれくらい使われているか、逆に特定の場所に籠もって仕事をしすぎていないかなど、エリア利用の数値データも取っていく予定です。その結果を元により良いオフィス環境になるよう反映させていきたいと考えています。
同じ地域のスタートアップなどと連携も
——皆さんが個人的に感じている変化はありますか。
小林:会社に来て仕事をしたくなりました。快適なオフィスで働くのは気持ちがいいですし、内階段でつながった他部署の人にも気軽に話しかけに行けます。
特にコンプライアンス業務では、さまざまな部署との些細なコミュニケーションが重要なのですが、それが取りやすくなりました。チャットやメールを打つまでではないけれど、少し話したいという時に、すぐに直接赴ける。仕事が前に進みやすくなったと感じています。
堀口:コミュニケーションは確かに取りやすくなりました。今まで別のオフィスだったので、交流することがなかったであろう人と話す機会があるのはとても新鮮です。
社内イベントも増えました。例えば、移転に際してお供えしていたお神酒を従業員でいただくイベントを開催したのですが、想定より多くの従業員が来てくれてとてもにぎわいました。今まではオフィスでお酒を飲むなんてこともなかったですし、そういうことをやった時のリアクションは読めなかったのですが、実は皆が交流を楽しみにしてくれていたという発見がありました。
出口:ファミリー見学ツアーも好評でしたね。新しいオフィスを家族にも見てもらおうと、ある週末に実施しました。多くの家族に喜んでもらえたことが、従業員のモチベーションや誇りにもつながっていると感じます。
小林:私もスタッフとして参加していましたが、印象的だったのは、入社1年目の後輩が両親を連れてきて、誇らしげに「僕はこういうところで働いているんだよ」と紹介していた姿です。ご両親も本当に喜んでいて、こういうイベントをやってよかったと思いました。
——社外との交流という観点では、どのような取り組みがありますか。
堀口:同じオフィスタワーの入居企業7社で交流会を始めています。まだ特定の目的があるわけではなく、緩くつながりを作って、この先何か一緒にできたらいいなという感じで進めています。先日は、当社のオフィス見学会や懇親会を開催して、お互いのオフィス設計のこだわりや移転のノウハウなどを共有し合いました。
出口:業務に直結する部分としては、スタートアップやベンチャー企業との連携があります。当社はサイエンスをベースにした医薬品の開発・製造・販売を行っていますが、新しい技術のタネはベンチャーやアカデミアから生まれてきます。このうめきたエリアには、100社を超えるであろうスタートアップ企業や大阪大学などの分室オフィスが存在しています。当社もベンチャーキャピタルを立ち上げており、その部署がこの地域ネットワークの中に入って、意見交換や関係作りを始めています。
会社の魅力は「人」にあり
——人事制度についても教えてください。何かユニークなものはありますか?
小林:自己投資支援制度が充実していると思います。年間一人30万円の枠があり、英語学習、ビジネススキルアップ、資格取得など、多岐にわたるカリキュラムに対して補助が出ます。
金額自体も大きいですが、それ以上に重要なのは、この制度に込められたメッセージだと思うのです。「従業員の成長が会社の成長の礎であり、そのための支援を惜しまない」といったシンボリックな意味合いが、この30万円という数字に表れていると感じます。
——実際に活用されているのでしょうか。
小林:よく利用されていると思います。年々使える金額も少しずつ増えていますし、利用率のデータも右肩上がりです。同僚の間でも、「次はどんな研修を受けようか」「どの試験に挑戦しようか」という情報交換が日常的に行われています。
——最後に、塩野義製薬で働く魅力について教えてください。
出口:私が一番強く感じているのは、社会に提供しているものへの共感です。当社はインフルエンザ薬やCOVID-19の治療薬など、感染症治療薬を主力としています。他の会社では替えがきかない、当社だからこそ可能なことであり、これは世界に対する貢献だと実感しています。
堀口:私は長らくMR(医薬情報担当者)として医療現場を回る仕事をしていましたが、やはり人の命に関わる仕事だという点がモチベーションを維持する上で大きかったですね。加えて、塩野義製薬で良かったと思うのは、人に関する部分です。一緒に働く仲間は魅力的で、真面目で誠実な人が多いです。信頼し合って働けるという感覚があります。
また、会社自体が人を大事にしていると感じます。経営理念でも最終的に従業員の生活が良くなるべきだという内容が盛り込まれています。これは約70年前に策定された方針で、当時から従業員のことを考えてくれていた会社は珍しいと思いますが、それが今でもしっかりと受け継がれています。
小林:私が最も魅力に感じているのは「信頼」です。まず、社名が広く知られているという信頼感。そして、医薬品も長年のロングセラーから自社開発の新薬まで、コンスタントに患者さんに届け続けているという実績からくる信頼。
また、社内に目を向けると、信頼できる人が本当に多い。そうした人たちと共に働けているのは、この会社に入れてよかったと思うポイントです。それを自分もできる形で返していきたいと日々感じています。
——ありがとうございました。
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取材のウラ側
感染症領域で世界に貢献する責任を担う企業として、従業員の真摯な姿勢が強く印象に残りました。その強い使命感と自己研鑽を惜しまない姿勢を支えているのが、自己投資支援制度です。年間30万円の補助枠を設け、英語学習や資格取得、ビジネススキル向上を後押しする体制は、数ある企業取材の中でも特に充実していると感じました。従業員は成長に挑み、企業はそれを支える。その相乗効果こそが、SHIONOGIグループの未来を切り拓く原動力であると実感した取材でした。
編集部が推したい福利厚生や支援制度
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