写真左から畠山さん、石川さん、根津さん

コロナ禍で急速に進んだ社会変化をチャンスに

自動車メーカーをはじめ、世界中に業界を問わず様々な顧客を抱えるニフコ。目まぐるしく動く世界の流れをキャッチアップし、自らがリードしていくために、様々な提案活動を行っている。

 

——事業内容について教えてください。

 

根津さん 当社は、国内外のあらゆる自動車メーカー向けに、課題解決型のアイデアからプロダクトまでを提供する独立系部品メーカーです。「環境」「安全」「快適」をキーワードに掲げ、プラスチックファスナーやドリンクホルダーなどの内外装製品を取り扱っています。近年では、年々厳しくなる環境規制に適合した燃料タンク周りの製品や、EV(電動自動車)向け製品、ADAS(先進運転支援システム)関連製品の開発にも力を入れています。

ニフコ技術開発センター(通称:NTEC)は、国内東西にある技術開発拠点のひとつ

クルマの組み立てに関わる部品から、走る・曲がる・止まるといった機能に関する基幹部品まで多種多様に取り扱うほか、自動車部品以外にも、家電向けにはダンパーと呼ばれる、ゆっくりとフタが開くための部品や、住宅設備メーカー向けのドアクローザー、ファッション・スポーツ分野向けのバックルなども提供しています。また、グループ企業には高級ベッドの「シモンズ」があり、こちらも高い顧客評価をいただいています。

 

——ニフコのビジネス上の強みや、近年特に力を入れていることは何でしょうか?

 

根津さん 独立系メーカーとして、世界中にたくさんのお客さまが存在しているのが強みの一つです。また、独立系であるがゆえに、どんなメーカー、業界にも通用する技術力やスキル、知識がなくてはなりません。例えば、海外では環境に対する意識が高まっており、再生材やバイオプラスチックなどの活用が日増しに求められているため、それらにも対応をはじめています。

 

自動車業界以外では、2019年ごろから他業種や自治体と協同で「緩やかな見守り事業」の実証実験などを行っています。国内では高齢化が進み、認知症による行方不明者が年々増加、社会問題となっています。この事業は、普段から身に着ける習慣がある靴や杖などにセンサーを埋め込んだ当社製品を取り付け、無線&電源レスで高齢者を「見守る」という取り組みです。自動車だけでなく、それ以外の分野でも、社会の困りごとを解決していきたいという思いがあります。

プロダクトギャラリーには、多種多様な製品を展示
ギャラリー中央のオブジェ。クルマ1台に多数のニフコ製品が使用されているのが分かる

——それはニフコのビジョンである「変化を創り出し、未来を切り拓く」や、パーパスとしている「小さな気づきと技術をつなぎ、 心地よい生活と持続可能な社会を創造する」にも通じることですね。これらの企業理念がつくられた背景や、込められた想いなどお聞かせください。

 

根津さん VUCA(将来を予測するのが困難な状態)と呼ばれる時代に突入したことに加えて、新型コロナウイルス感染症がパンデミックの様相を呈し、社会環境は一足飛びに5〜10年進化した状態になりました。この非常に激しい世の中の変化をチャンスととらえ、前向きに行動しないと未来はないと考えています。ニフコのビジョンには、社会の変化に追いついていくのではなく、自らが先頭に立って変化を創り出す人材、組織、会社になりたい、という思いが込められています。

 

パーパスに関しては、世の中の変化に常にアンテナを張り、誰もが見過ごしてしまう小さな気づきを積み重ねることで、人と暮らしに寄り添った提案をし、社会課題を解決していきたいと考えています。それを通じて、人と社会に貢献する価値を創造していく、それが私たちの存在意義だと考えています。

技術者の発想力を刺激する斬新な形の会議室

——こうしたメッセージは、コロナ禍を意識されたものなのか、あるいは、コロナ禍は関係なく、変化に対応しなければならないという危機感が元々あったからなのでしょうか?

 

根津さん ミッションやビジョン、バリューは、創業から51年目を迎えた2018年度につくられました。既に、100年に一度と言われる「自動車大変革時代」が叫ばれていたため、コロナ禍以前から、社員一人ひとりの意識や思考をアップデートして、自律と自走を目指すべきだという考えがありました。そこにコロナ禍が加わったことで、取り組みを加速させているところです。

NTECは第27回日経ニューオフィス賞でニューオフィス推進賞を受賞

越境プログラムのひとつ「他社留学」を始めた理由

——ニフコで働く技術者に必要なマインドセットは何でしょうか?

 

根津さん 様々な気づきを得るための観察力や洞察力が重要です。それとコミュニケーション力ですね。今後は異業種とのビジネス競争も増えていくはずです。競争力を磨くためのスキルは社内だけでは身に付けられないため、社外に出て行き、いろいろな人の思考や価値観に触れてもらいたいです。

 

——そういう意味では、「他社留学」という制度を設けていますね。他社留学はどのような経緯で始まったのでしょうか?

 

根津さん 「他社留学」は、会社に在籍しながら、ベンチャー企業に留学するというユニークな人材育成制度です。外に出て行かないと意識や思考が変わらないという問題意識があり、2019年にまず私が体験したのがきっかけです。技術者をベンチャー企業に送り込むにしても、まずは自分がやってみないとわからないことが多いため、越境プログラムに参加して、IT企業に半年間留学しました。いわば、他社留学0期生ですね。

 

——なぜIT企業だったのですか?

 

根津さん 思考や価値観を変えるには異業種で、自分の強みが最も生かせないところに行ってみようと思い、ITベンチャー企業を選びました。留学先は、社員が30人程度のベンチャー企業で、男女比率は半々、社長以外は私よりも年下でした。いくつか事業の柱がある中で、私は複業・副業やコミュニケーションを活性化するプラットフォームの開発に従事しました。

 

——他社留学によって価値観はどのように変わりましたか?

 

根津さん 例えば、仕事のやり方について。大企業は与えられる仕事が多く、時間軸もある程度長いです。一方、ベンチャー企業は、スピードも早く、資金も限られているので、仕事は自分でつくり出さないといけません。仕事に関する感覚や時間に対する価値観がまるで違います。とにかく自律、自走しないとやっていけないのです。会議もそう。大企業はダラダラやるところも少なくありませんが、ベンチャー企業は目標に向かってきっちり無駄なく取り組みます。

 

ITベンチャー企業で働いて、未知の経験や学びの機会を得るとともに、人脈の大切さを実感しました。そこで翌年、社内で正式に他社留学の公募をかけた結果、6名が応募してくれました。そのうちの1名が石川さんです。

休憩時、石川さんと談笑する若手社員の皆さん

自己開示と相互理解に努める

他社留学1期生として、7カ月間のベンチャー企業への留学で経験を積んだエンジニアの石川さんは、その成果をどう社内に還元していったのだろうか。

 

——石川さんのニフコでの業務内容と、他社留学に手を挙げた理由を教えてください。

 

石川さん 私は工学部出身で、入社以来、技術畑を歩んできました。2020年度までは、自動車に搭載される内外装部品全般の設計を担当していました。2021年度からは組織が変わり、現在はADAS領域の部品をメインに設計しています。

 

他社留学の応募条件は非常にシンプルで、「新しいことを学んで、自分を変えたい人」。そこに興味を持ちました。公募が始まる前は、実務経験が何年以上、等級がどれくらいという条件をイメージしていたのですが、本当にそれだけだったので、これはやるべきだとすぐに応募しました。

 

留学先については、根津さんと同じで、自分のスキルが通用しなさそうな会社に挑んでみたいという気持ちが第一にありました。それと、新しい働き方についても学びたかった。その2点を伝えたところ、㈱フロンティアコンサルティングに決まりました。

 

——なぜ働き方に興味があったのですか?

 

石川さん 近年、世の中では働き方改革が叫ばれていて、テレワークに加えてワーケーションやABWといった新しい働き方やスタイルを耳にするようになりました。それらをニフコに取り入れられたら面白そうだなと思い、まずは新しいワークスタイルについて知識を深めたいと考えたからです。

 

2020年8月末から翌年3月まで㈱フロンティアコンサルティングに在籍して、ウェブメディアの執筆業務に携わりました。まずはオフィス設計や働き方の基礎知識を学び、その経験を基に、記事のタネとなるコンセプトを練り上げていきました。後半の3カ月間は、リサーチや執筆、校正といった作業に取り組みました。その成果は、「大企業によく見られる『他責』問題。事例をもとに解決策を探る」という記事にまとめています。

 

——他責思考をテーマに選んだ意図は?

 

石川さん ニフコに限らず、大企業で仕事をしていると部署間の壁を感じることがあったり、現状維持に走りチャレンジが生まれにくいことがあったりすると思います。いわゆる大企業病ですね。これらについていろいろと思案を巡らせたところ、この要因は「他責」ではないかと気づき、考察しようとなったわけです。

 

私が留学した同社では、部署の違いを感じさせないほど人は行き来しているし、自由闊達に議論もしていました。そこに壁はなく、目的に向かって全社員の思いが一つになっていると感じました。

 

それにまつわる一つのエピソードがあります。現場研修の一環で、まもなく竣工のオフィスへ訪れたとき、プロジェクトに関わった営業、デザイナー、プロジェクトマネジャーなどが熱く語り合っていました。耳を傾けると、皆で苦労を共有しつつ、でき上がった成果物に対する喜びを分かち合っているのです。うらやましいと思いましたし、ものづくりの理想がそこにはありました。

 

——学んだことや経験をどのように社内に浸透させていったのでしょうか?

 

石川さん ニフコに戻ってすぐの2021年4月に新組織が立ち上がり、自分が関わるメンバーがガラリと変わりました。いかに新しい組織の雰囲気を良くして、業務を円滑に進めていくかが勝負だったので、メンバーのマインドづくりに意識を置いて、この1年は活動してきました。

 

最初に取り組んだのは、自己開示と相互理解です。まず私はこういう人ですよと周りの人に伝えることで、メンバーも心を開いてくれるようになりました。次に、小さくても何かアクションを起こすことを心掛けました。具体的には、勉強会を実施しました。ただの勉強会ではなく、メンバーの一人がテストを作成し、抜き打ちに近い形で、ミーティングの時に全員でやってみるというものです。これを2週間の間隔で、出題者も当番制で回しました。テストをつくることで自分の知識習得にもなるし、回答する側もどんな問題が出るのかという楽しみが生まれます。新組織ができてからずっと継続しています。

 

もう一つは、1on1ミーティングの有効性を紹介したところ、ぜひそれをやってみようと、グループ長が取り入れてくれたことです。これも習慣化しています。

 

自分だけでなく、同じ想いを共有できる仲間を増やしたいというのを自身のミッションにしていました。それによって皆がハッピーになれるのではと思ったからです。事実、雰囲気的にはよくなって、皆楽しんで仕事をしています。

「他社留学」経験者同士の結びつきは強い

——他社留学をされた仲間の5名には、どういった変化がありましたか?

 

根津さん 基本的には石川さんと同じです。様々な人の価値観に触れて、意識や思考が変化することで、外から見るニフコの良さに気づいたり、組織がこうなればいいのにと感じてもらえたりしました。当初は、自社のビジョンについて深く突き詰めて考えたことがある人はいなかったと思いますが、次第に、会社をより良くしたいという意識に変わってきました。同じ視座で話せるメンバーができたので、ここから輪を広げていきたいです。

 

既に今年度の他社留学も始まっていて、4名が参加しています。加えて、3カ月間の複業留学制度も立ち上げ、こちらには5名が参加しています。時代は変化するし、参加者の意識も変容します。時代の変化に合わせて、育成プログラムも常に変化させていけば良いと考えています。

 

——他にもユニークな人材育成、研修制度はありますか?

 

畠山さん 2009年度にスタートした「海外トレーニー制度」という、海外拠点で1年間研修を行う取り組みがあります。
現地の業務を学び、語学学校にも通うことでグローバル感覚を養うプログラムです。会社からの指名制ですが、毎年10名程度が選ばれて、米国、英国、ポーランドなどへ赴いています。

価値観の違いを楽しめる人材を

——技術者の人材育成など、今後の展望についてお聞かせください。

 

根津さん 私たちのミッションに、「ニフコは、生み出したアイデアと育てる技術で、社会の期待を感動にかえるクリエイティブカンパニーです。」というのがあります。顧客から様々な課題をいただいて仕事をするため、元々、顕在的なニーズの課題解決力には優れていました。しかし、VUCAの時代には、顧客から言われずとも自らが課題を発見することが大切になってきます。そうした、潜在ニーズを見つける観察眼が必要になります。

 

あとは、興味関心から生まれる気づきを大切にする思考。諦めずに考え抜く思考やマインドも必要です。今後の共創社会に対応できるコミュニケーション力についても、個々の変化と成長を通じて、組織のアップデートをしていければと思います。そうした「気づき力」を身につける学びの場として、他社留学、複業留学、産学共同研究、各種ワークショップなどの「越境」プログラムを設けています。変化も成長も含めて、楽しまないとやっていけないし、続かないと思います。何事もジブンゴトに捉えて、自分自身が変化し、自走する人がどんどん出てきてくれれば、嬉しいですね。

畠山さん これからは、自律的で主体的な行動がより求められてきます。今までの研修では、資格等級の役割定義に基づき受講対象を設定していましたが、今後は自身が必要なタイミングで受講してもらえるように受講対象を広げていこうと考えています。一人ひとりの力を高めて、組織全体を強化していきたいです。

 

求める人材については、自分の興味関心ごとを追求していくだけではなく、アンテナを高く張り、色々な情報をキャッチしながら様々な価値観や考え方に触れその違いを楽しめる方にぜひ来ていただきたいです。そして、ジブンゴトとして主体的に業務や課題に取り組んでいける方とぜひ一緒に仕事をしていきたいですね。

NTEC外観

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取材のウラ側

グローバルに事業を展開する大手自動車部品メーカーでありながらも、その地位にあぐらをかかず、生き残るために常に変化し続けようとする姿勢が印象的だった。また、その一環として取り組んでいる他社留学の応募条件を「新しいことを学んで、自分を変えたい人」とシンプルにしている点もユニークだ。そこには、自分で考え、自らの意思で行動しようというメッセージが込められている。これに共感して一緒にニフコの将来を考え創っていきたいという想いの人材が連鎖していけば、これからのニフコの未来は更に明るいものとなるだろう。