人事総務第二部 インクルージョン&カルチャー推進室の武居菜央さん

単なるオフィス移転ではない、働き方そのものの変革を目指す

――2020年5月に新本社へ移転されました。その背景・経緯は?

武居:旧本社ビルの老朽化が主な移転理由です。ただ、私たちは単にオフィスを移すことだけを目指したわけではありません。部門や組織の壁を超えたコラボレーションを促進し、そこから新たな価値創造を生み出す。そうした働き方の変革を目的として、移転プロジェクトを進めてきました。

 

社員が業務内容や目的に応じて最適な働き方や働く場所を選択しながら、社内外の多様な人材との「知的化学反応」を通じて価値創造につなげる。それを実現するために定義したのが、新しい職場体験のあり方である「Work-X(Workplace Experience)」です。

 

Work-Xは当社独自の造語で、オフィスのコンセプトを定義するだけのものではありません。移転という大きな機会を利用しながら、多様な組織や部門を越えて新たな価値を生み出していく働き方、カルチャー、オフィス環境を総合的に捉える考え方です。当社では、社員一人ひとりが専門性を持つプロフェッショナルとして主体的に行動し、多様な人材との協業を通じて新たな価値を生み出すことを重視しています。そうした考え方のもと、働き方や働く場所についても社員自身が目的に応じて選択できる環境づくりを進めてきました。

広々とした開放感あふれる三井物産のエントランス。一面の大きな窓からは、緑豊かな風景を一望できる
大切なゲストを迎えるための、品格が漂う来客用会議室エリア

――オフィス移転プロジェクト自体は、かなり前から進めていたのですか?

武居:おっしゃる通りです。プロジェクト自体は、2011年ごろに隣接していたビルを取得したところから始まっています。2014年から移転までの間は仮住まいのビルで過ごし、コロナ禍の緊急事態宣言下という状況で移転日を迎えることになりました。

 

ただ、コロナ禍以前から紙の書類を3分の1まで削減するペーパーレス化や、フリーアドレス移行に向けたトライアル、それに伴う制度づくりを段階的に進めていたおかげで、移転のタイミングでは多少の試行錯誤もありましたが、結果的にスムーズに適応できたと感じています。

偶発的な対話が生まれる設計

――新たなオフィスの設計において、特にこだわった点を教えてください。

武居:最も象徴的なのは、各フロアに設置している「CAMP」というワークプレイスと、それらを貫く内階段です。単なる執務空間ではなく、社内外を含めた多様な人材がCAMPで出会い、コミュニケーションを取ることで新しい価値を生み出す。それを促進する場として位置付けています。

16階から28階、全13フロアをひとつに結ぶ内階段。上下階へ自由に移動でき、社員同士の偶発的な出会いやコラボレーションを日常的に創出

武居:従来のオフィスは、打ち合わせやディスカッションの場としては会議室がメインでした。それを、CAMPというオープンな場で日常業務に溶け込ませることで、自然な対話が生まれ、そこから新しいアイデアが生まれる環境づくりを目指しました。

 

CAMPはフロアごとにコンセプトが異なります。例えば、「Co-Work」はプロジェクトを加速させるために自由闊達な議論を行う場所ですし、DX推進を担うメンバーが常駐する「d.space」にはオープンなピッチエリアがあり社員が気軽にアイデアを発信したり、イベントに参加したりできる場となっています。それぞれ異なる役割を持つCAMPを内階段でつなぐことで、社員が自ら働く場所を選び、組織や専門性を越えた新たな出会いや協業が生まれる環境を目指しています。

――こうした新しい働き方は、すぐに定着するものなのでしょうか。

武居:ハード面、ソフト面の両方からの促しが必要だったと思います。小さな例で言うと、CAMPのコーヒーコーナーにはフロアごとに違う中身のものを置いています。「今日はオレンジジュースが飲みたいから、一つ下のフロアに行ってみよう」というように、物理的に人を動かす仕掛けを設けています。

 

また、当時の社長によるメッセージ発信や、各部門から代表者を選出し人事総務部と兼務してもらう「アンバサダー制度」を通じて、現場への啓蒙活動を継続してきました。

健康への配慮として、カロリーを表示
各階に本格的なコーヒーマシンを設置。フロアごとに異なる豆を取り揃えているため、お気に入りの一杯を求めて階を移動する社員も多く、交流のきっかけとなっている
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――フリーアドレスも導入されたそうですね。

武居:厳密には「グループアドレス制」を導入しています。ユニット(本部)ごとに大まかなエリアを定め、その中の運用は各本部に委ねる形です。そのほか、仕事の内容などによってはCAMPを活用します。社員一人ひとりが仕事の状況・内容に応じて、働き方・働く「場」を主体的に選び活用する「ABW(アクティビティ・ベースト・ワーキング)」を日々実践していますね。

――グループアドレス制に変えたことで、どのような成果がありましたか。

武居:以前のオフィスは、基本的に同じ部門の社員しかフロアにいないため、他部門の社員と接する機会が物理的に限られた環境でした。今は多くの社員が上下のフロアを移動していますし、社内外のさまざまな関係者もCAMPで打ち合わせができるため、社外の方が館内にいることが当たり前になりました。組織間の垣根はどんどん低くなっていると感じます。

 

実際、元々は接点のなかった部門とのコミュニケーションは格段に増えました。その結果、「他の部署ではこんな業務効率化が進んでいるらしい、うちにも取り入れられないか」といった会話が自然発生的に生まれるようになりました。

 

かつては化学品部門なら化学品部門でフロアや執務エリアが固まっていて、さらに本部ごとに扉で仕切られるという物理的な壁がありました。今は内階段で全部門がつながっており、物理的かつ心理的なハードルが下がったことで、コラボレーションが起こりやすい仕組みができ上がっていると思います。

短時間で効率的な打ち合わせを可能にする、スタンディングミーティングスペースを設置

「食べるだけ」ではない社員食堂

――社員食堂のリニューアルについても教えてください。

武居:地下1階にあった社員食堂は他フロアとのつながりを感じにくい独立した空間でした。社員食堂はもちろん食事をする場所ですが、それだけではもったいないと考え、新しい社員食堂はコミュニケーションを生む共創の場として位置付けようとしました。従って、打ち合わせや1on1、イベントにも活用できるよう、デザインや席の配置は開放的な雰囲気を採用しています。

 

もう一つの特徴、当社の事業に関連した内容をメニューに取り入れている点です。例えば、当社がオーストラリアで事業展開するシャークベイソルトを活用したコラボメニューを提供したことがあります。社員にとっては日々の食事を通じて自社事業を身近に感じる機会となり、「この商品はどんな事業なのか」と自然に興味を持つきっかけにもなっています。社員食堂は単なる食事の場ではなく、当社の事業や価値創造を体感できる場としての役割も果たしています。

 

現在の社員食堂のランチタイム喫食率は約30%強ですが、ランチ以外にも朝食や夕食の提供のほか、先ほど述べた1on1、社内ミーティングや懇親会などでの活用度は格段に上がっています。また、社有林の木材を使ったアートを設置し、健康を意識したデリメニューの充実など、ウェルビーイングを支える場としての機能も強化しています。

――社内イベントで盛り上がったものはありますか?

武居:業務時間後に不定期開催している「テーマ型Active Talk Hour」という社内ネットワーキングイベントが好評です。例えば、特定の国や地域を対象にした企画では、駐在経験のある社員や、興味のある社員がさまざまな部門から集まり、非常に盛況でした。そのほかにも、国際女性デーに開催したイベントにはここ数年は各年100名前後が参加したり、サステナビリティやキャリア、子育て、介護といったテーマで部門や世代を越えた交流が生まれたりと、運営側としての意義を実感しています。

ランチタイム以外の食堂は、1on1のコミュニケーションスペースとして活用。ドリンクやお菓子も用意されており、リラックスした対話が弾む

インクルージョン&カルチャー推進室に求められるものとは?

――武居さんが所属する「インクルージョン&カルチャー推進室」とはどのような組織なのでしょうか?

武居:2024年、ダイバーシティ経営企画室とWork-X室を統合し、インクルージョン&カルチャー推進室が発足しました。設立の背景には、多様な人材を集めるだけではなく、その多様性を組織の力や価値創造につなげることが重要だという考えがあります。三井物産では、多様なバックグラウンドや専門性を持つ社員が、組織や事業本部の枠を越えて協業し、新たな価値を生み出すことが重要だと考えており、その実現を加速することが当室のミッションです。

 

主な業務は、D&Iの推進、多様な人材が活躍できる人事制度の企画・推進、そしてWork-Xです。制度、カルチャー、働く環境のそれぞれの側面から、社員一人ひとりの活躍と、組織や専門性を越えた協業を後押ししています。

 

これまでの具体的な施策としては、国際女性デーに合わせた全社イベントの開催や、働く女性の健康課題やキャリアをテーマにした外部専門家による講演会などを企画しました。また、イントラネットで社員の多様なロールモデルを発信し、一つの型にはまらないキャリアパスを提示することにも力を入れています。

――多くの社員が長く勤められるよう、ライフステージが変化しても活躍し続けるために、どういった支援体制を用意しているのですか?

武居:ハード面では、搾乳室を兼ねた休憩スペースを設けているほか、本店診療所には婦人科もあり、女性特有の健康課題に関するサポート体制を整えています。また、共働き世代の増加を踏まえ、提携保育園の設置や、保育料や家事代行費の補助など、独自の制度も整備しています。ソフト面では、全社員向けのプレコンセプションケア研修、各種セミナーや休暇制度、健康支援施策などを通じて、社員が自身の健康を維持しながらキャリアを継続できるよう支援しています。

 

さまざまな取り組みの中で、私が携わり、具体的な形となったのが、社員食堂で夕食を購入し、自宅に持ち帰るというサービスです。仕事と家庭の両立において多くの社員が日々感じている家事負担、特に「家族の食事を作ること」の大変さに着目し、2025年9月にトライアルを開始、同年10月から本格導入しました。現在は、食材と調味料がセットになったミールキットを販売しており、日常的に利用するヘビーユーザーも出ています。

若手の挑戦を後押しする企業文化

――最後に、三井物産で活躍している社員の特徴をお聞かせください。

武居:当社のミッションは「世界中の未来をつくる」であり、その根底にあるのが、Valuesで掲げている4つの価値観、すなわち、「変革を行動で」「多様性を力に」「個から成長を」「真摯に誠実に」です。これらを大切にしながら、それぞれの個性を持って活躍している社員が多いと感じます。

 

加えて、社内には「挑戦と創造」や「人が仕事をつくり、仕事が人を磨く」といった言葉が浸透しており、挑戦を後押しする制度や文化、土壌があります。信じて任せてもらえる風土があるからこそ、若手社員のやり甲斐につながり、若いうちから活躍できる環境が用意されていると考えています。

総合受付にある大型デジタルサイネージは、「三井物産のアイデンティティと世界観」を演出するための大型映像ディスプレイ

――ありがとうございました。

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取材のウラ側

今回の取材で最も感銘を受けたのは、三井物産が追求する「ワークプレイス改革」の徹底した本気度です。単におしゃれなオフィスを構築するのではなく、グループアドレスや内階段、進化系社員食堂といった空間設計のすべてが「経営戦略に基づく価値創造」と地続きで計算されている点に圧倒されました。社食でのテイクアウト事業など、社員の生の声から速やかに支援策を形にする柔軟性にも、同社が大切にする「人の力」への深い愛を感じました。

編集部が推したい福利厚生や支援制度
ワークインライフ支援制度(フレックスタイム&各種両立手当)

社員一人ひとりが生活上の責任を果たしながら最大限の力を発揮できるよう設計された包括的制度。 制限のないリモートワークや時差出勤に加え、法定を上回る育児・介護の費用補助や家事代行支援などを自由に組み合わせ可能です。

プレコンセプションケア研修・各種健康セミナー

将来の妊娠や健康的なキャリア形成を見据え、全社員や管理職向けに実施されるヘルスケア教育。 婦人科専門医による相談体制と併せ、ライフステージの変化に左右されず長期的なキャリアを描くためのヘルスリテラシー向上を後押しします。

自律的キャリア形成支援プログラム&公募制度

30代をはじめとするキャリアの分岐点に立つ社員に対し、自身の強みや将来像を再定義する機会を提供する制度。 社内公募や職種区分の見直し、ユニオンとの共創を通じた対話により、社内で多様なキャリアパスに主体的に挑戦できる環境が整えられています。