今回お話を伺った坂本さん(写真左)、松尾さん(写真中央)、竹ノ谷さん(写真右)。高橋さんはオンラインにて参加いただいた。

自由闊達な文化を大切にする、マーケティングリサーチのリーディングカンパニー

——はじめに、インテージグループの事業について教えてください。

坂本さん(以下、敬称略):1960年、社会調査研究所として創業して以来、カスタムリサーチやパネル調査(調査対象を固定して継続的にデータ分析・収集を行う)、ITソリューションの提供を手がけてきました。現在は、国内に14社、海外はアジアを中心に9カ国に拠点があります。

 

近年は、大きく分けて「マーケティング支援(消費財・サービス)」「マーケティング支援(ヘルスケア)」「ビジネスインテリジェンス」の3領域で事業を展開しています。マーケティングリサーチを通じて生活者のニーズをとらえ、幅広い業種、業態を持つ企業のマーケティング活動やデータ活用をサポートしています。

自由にどこでも働ける場所を提供する広々とした開放感のあるフロア

——2020年頃からは、新型コロナウイルスの感染拡大により社会情勢が大きく変化しました。貴社の状況はいかがですか。

坂本:従来のマーケティングリサーチでは、対面でインタビューをすることも多くありました。対面でお会いすることが難しい状況の中、事業を止めないためにオンラインリサーチを取り入れるなどの工夫をしています。社員の働き方についても、2017年頃からリモートワークを推奨し、コアタイムのないフルフレックス勤務の導入を進めていたので、出社することなく業務を進められる体制がある程度整っていました。

——社内は、どんな雰囲気なのでしょう。

松尾さん(以下、敬称略):「自由闊達」であることを大切にしています。役職や年齢にかかわらず意見を言い合える文化を大事にしていて、誠実で真摯な人が多いと感じています。

 

高橋さん(以下、敬称略):私は昭和50年代に入社したのですが、当時から、社内の人を役職名で呼んだ記憶がありません。立場に関係なく率直な議論ができる雰囲気で「すごい会社に入ったな」と感じたことを覚えています。

セミオープンのミーティング用のテントでは「自由闊達」な議論が行われていた

——女性管理職の割合も、日本企業の平均値に比べかなり高いですね。

坂本:インテージグループの女性比率は約50%、女性管理職の割合は約25%です。条件に恵まれた一部の女性だけが活躍できるのではなく、性別に関係なく能力や努力が正当に評価され、気負うことなく働いている姿が印象的です。

自分の会社を自分たちの手で変える。働く時間と場所を自律的に選択するための取り組み

——リモートワークやフルフレックスを導入したというお話もありました。働きやすい環境を整えるための取り組みについて教えてください。

松尾:2017年に、働く時間や場所を自律的に選択できるよう、グループ横断でワークスタイルを考えるプロジェクトを立ち上げました。私たちの仕事は、データの先にあるものを分析し、顧客に価値を提供していく、高いプロフェッショナリティが求められるものです。だからこそ、ベストなパフォーマンスを発揮できる環境は、個人やチームによってそれぞれ違います。時間や場所の制約があるために十分なパフォーマンスを発揮できないことがあるならば、より柔軟な環境を目指していきたいと考えました。

——どのようにプロジェクトを進めたのでしょう。

松尾:経営陣や人事が主導することも重要ですが、むしろ自分たちの会社なのだから自分たちで良くしていくということが、価値を最大化し続けるプロフェッショナルとして自立し、コミットする仲間であるという事ではないかと思います。チームにとって一番いい環境とはどんなものか、一人ひとりが考える過程にこそ意味があるのではないでしょうか。具体的には、グループ会社の社員にアンケートをとり、結果をすべて共有しながら進めていきました。プロジェクトがスタートしてから2年ほどの間に、グループ各社が順次リモートワークや、コアタイムのないフルフレックス勤務を実現しています。

——リモートワークやフルフレックスを導入したことで、グループ内にはどのような変化がありましたか。

松尾:それぞれの会社が施策を行ってから1ヶ月後、3ヶ月後、半年後、1年後などのタイミングで「自身の働きがいは向上しましたか?」「チームとして、より働きやすくなりましたか?」など社員の実感を問うアンケートを行っています。数字の上でも、働きがいや働きやすさが向上したという結果が出ているのですが、それ以上に、アンケートに書き込まれたフリーコメントが印象に残っています。

カフェカウンターにはグリーンが配され、有機的な雰囲気を演出している

もちろん、平日の日中に病院へ行きやすくなったというようなコメントもあったのですが、一方で「この取り組みに何の意味があるの?」と率直な意見を寄せてくれた方もいました。どんなに議論を重ねた施策でも、全員が諸手を挙げて賛成することはありえません。アンケートの結果は、内容を問わずすべて公開しています。賛否両方の意見を知ることで、チームとしても強くなれると考えているからです。

カジュアルでオープンなコミュニケーションを演出する円卓テーブル

この取り組みによって、身近なチームのメンバーが働き方についてどう感じているか、お互いに共有するきっかけができたという手ごたえを感じています。

新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、グループ各社のオフィスをリニューアル

——2022年には、秋葉原のオフィスをリニューアルされたそうですね。

高橋:前段階として、2005年にオフィスを統合するプロジェクトがありました。以前のオフィスは西武線の沿線に集中していたのですが、お客様との距離を縮め、コミュニケーションを深めるため、世界的にも知名度の高い秋葉原に移転することになったのです。

秋葉原駅から近いこともありオフィスから電車を見ることが出来る

同時にフリーアドレス制を導入し、どこにいても仕事ができるよう、社員にノートパソコンとPHSを配布しました。当時、日本ではフリーアドレス制がほとんど知られていなかったので、フリーアドレスについて理解してもらうところからスタートしました。プロジェクトのキーワードとして掲げていたのが「自由と自律」。会社として働き方の自由を提供する一方、社員には自分を律することを求める、現在のワークスタイルにもつながる考え方だと思います。

竹ノ谷さん(以下、敬称略):最新の取り組みは、新型コロナウイルスの感染拡大により、オフィスに出社できなくなったところからスタートしています。出社率はもっとも低いときで数%にまで落ち込み、現在は部署によっても違いますが、平均3〜4割程度。そこで、グループ各社の経営陣が「オフィスを通じて会社への帰属意識を醸成したい」「リアルなコミュニケーションの重要性も知ってほしい」と考え、オフィスのリニューアルを考えるケースが多くなっているようです。時節柄、ソーシャルディスタンスを維持しながらコミュニケーションがとれるエリア、ソロワークができるエリアなどのニーズが高まっています。

あえて使い方を決めず、自由にレイアウトができる「コラボレーショングリッド」

シンプルでクリーンな印象のコラボレーショングリッドエントランス

松尾:中でもインテージ秋葉原ビル9階にある「コラボレーショングリッド」は、グループ内の先行事例として、ほかのオフィスよりも1年ほど早めに着手しました。もとはデスクが並ぶふつうのオフィスだったのですが、2021年末にいったんすべての什器を撤去して床を張り替え、徐々に整えて、2022年7月からはグループ内の誰もが使える場としてオープンしています。

竹ノ谷:コラボレーショングリッドは、仕切りがなく、自由にレイアウトができるオフィスで、みんなで使い方を決めてもらうというコンセプトで作られています。通常、オフィスをデザインするときには、まず什器など「上に乗せるもの」から考えるのですが、コラボレーショングリッドは「床」から作っています。

床面をグリッドと呼ばれる格子状の直線で区切り、グリッドの色を変えることでゆるやかにスペースを意識できるようにしています。家具メーカーの担当者も「床からオフィスをデザインすることはまずないです」と驚いていました。什器もあえて固定のものを減らし、2年ごとに交換するサブスクリプション方式を取り入れています。

床面を大きな正方形で区切り、色を変えることでスペースを意識できるようになっている

松尾:グリッドを採用している他社のオフィスも見学しましたが、エリアごとに意図した用途を意識させる用い方が多いように感じました。オフィスの仕切りや用途についての考え方は、リモートワークをする中でどうコミュニケーションをとるかという課題感にも通じるものがあると思うのです。

多種多様な椅子や机が配されており、そのほとんどがサブスクリプション方式を採用している

インテージグループでは新しいオフィスに「区画」を決めるのか、そもそもどういう使い方がいいのか、社員から広く意見を募りました。結果、多様な意見が上がったので、私たちは使い方を「決めない」ことにしたんです。フロアにはグリッドタイプのカーペットを敷き、机と椅子が点在していますが、特定の会社の執務スペースにはなっていません。オフィスという場をテーマに、どんな働き方ができるのかを社員に問いかけるきっかけになればと考えています。

——社員の皆さんは、コラボレーショングリッドをどう活用しているのでしょう。

坂本:気分を変えてソロワークをしたいときに使ったり、チームでミーティングをしたり、オンライン会議をしたりと、思い思いの使い方をしているようです。社員へのアンケートでは「開放的な気分になれた」「違う部署の人と久しぶりに出会い、会話が生まれた」という声もありました。

時間を区切ってメリハリを付けることを促す砂時計

竹ノ谷:カフェカウンターを用意し、コーヒーが提供できるようにしたことも、人が集まり会話をするきっかけになっていると思います。

チームMTGや同僚とのコミュニケーションを促すために一度のドリップで5杯分出てくるコーヒーメーカーを採用している

坂本:会議が終わった後、すぐに執務エリアへ戻って仕事を始めるのではなく、コーヒーを飲んで雑談をする姿なども見られるようになりました。

リアルなオフィスでコミュニケーションすることの意味を、あらためて問いかける

——オフィスをリニューアルする取り組みを通じ、働く場所について気づいたことがあれば教えてください。

竹ノ谷:若い世代にとっては、雑談を含め、オンラインでコミュニケーションをとることがごく当たり前になっています。「オフィスに行くことで何が得られるんですか?」と逆に質問されることもあるくらいです。正解はありませんが、コラボレーショングリッドのようにあえて用途を固定せず、コミュニケーションをとるための場所を提供していくことに意味があるのではないかと考えています。

坂本:「皆さんにとってオフィスとはどういう場所ですか?」という社内アンケートの質問に対し、「オフィスに行かないことの意味は聞いてくれないのですか?」という回答がありました。働く場所についても、100人いれば100通りの思いがあります。それぞれの思いをお互いに知っているということが大切なのではないでしょうか。

高橋:かつて当たり前だった価値観が、どんどん変わりつつあることを感じています。これからのオフィスは、それぞれの個人やチームの新たな「当たり前」を受けとめられる、大きな受け皿のようなものになっていくのではないかと思います。

松尾:ほぼすベてのメンバーが強制的に自宅で働かざるを得ない時期を経て、職種にもよりますが、家でも働けることがある程度証明されたと考えています。そんな中、あえてオフィスに行く意味とは何か。それぞれの個人やチームにとって、どんな状態が一番働きやすいのか。コラボレーショングリッドを通じ、グループ各社に対して投げかけができましたし、これからもメンバーと一緒に考え続けていきたいです。

——最後に、インテージグループの未来について、感じていることをお聞かせください。

松尾:インテージグループは、情報を企業成長につながる価値に変えるための方法を、さまざまな角度から提案していく会社です。グループ内に約30社の企業があり、それぞれの強みを発揮した事業を手がけています。自由闊達な雰囲気の中で、自律した個人が活躍できるカルチャーを長年培ってきました。私たちも、働く環境や場所についての取り組みを通じ、グループとして今後さらに大きな価値を作っていくことに寄与したいと考えています。

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取材のウラ側

「Know today, Power tomorrow 知る、つなぐ、未来を拓く」というグループビジョンのもと、日本のマーケティングリサーチ業界を牽引してきたインテージグループ。いち早くフリーアドレス制を導入し、新型コロナウイルスの感染拡大以前からリモートワークの推進に取り組むなど、ワークスタイルの柔軟性についても最先端を走り続けている。新たな制度やワークプレイスを構築する際にも、グループ会社のメンバーから意見を募り「みんなで考え、作っていく」プロセスを大切にする姿勢が印象的な取材だった。