安心・安全なガス供給を展開する、地域密着型企業

静岡県の東部エリアを中心に事業を展開している富士酸素工業。社員のうちほとんどが地元出身という共通点も手伝って、社内には世代を超えたにぎやかな雰囲気があるという。

 

——まずは事業内容について教えてください。

 

望月悠平さん(以下、望月さん) 静岡県の富士市に本社と高圧ガスの製造工場を置き、ガス事業を展開しています。従業員数は全部で約90名。そのうち60名ほどが本社勤務で、本社のほかに沼津支店、御殿場営業所があります。支店と営業所は車で30分ほどの近距離で、よく行き来していますね。首都圏在住の社員も3名おり、現在は在宅ワークで業務を行っています。ほとんどの社員は地元の人間です。

もともとは1922年、リヤカーの製作所からスタートしました。豊富な水資源を有する富士市には製紙工場が多かったため、リヤカー溶接の技術を活かして製紙工場の設備の修理や修繕を行っていたんです。そこから溶接に使用していたガスを扱うようになり、酸素、窒素、アルゴンなど取り扱いの種類を増やして、現在に至ります。

 

——具体的にはどのような業務を行っていますか?

 

甲田剛さん(以下、甲田さん) 営業と配送の仕事が中心で、法人のお客様と一般のお客様で部門が分かれています。法人のお客様はルートセールスが基本で、深く関わるお得意様が多いですね。一般のお客様はガスボンベの交換やメンテナンスがメインで、商品の取り扱い説明書を持参して説明したりすることもあります。

 

望月さん コロナ禍でテレワークをする会社が増えてきていますが、弊社は仕事の性質上、対面が多く、管理部門以外はテレワークの導入が難しい状況です。そのため、各自で対策をとりながら出社しています。

 

——来年で100周年を迎えられるとのこと。長くお勤めの方もいらっしゃるかと思いますが、世代間の交流についてはいかがですか?

 

甲田さん 30代を中心に、40代、50代と、世代を超えてワイワイしています。今は30代の社員が一番多いですね。社内にオフィシャルのフットサルサークルがあって、隔週で活動しているので、そこでもコミュニケーションが取れているようです。

 

——どんな方が活躍されていますか?

 

望月さん にぎやかな雰囲気が好きで、積極的に絡んでいける人にフィットする会社だと思います。業務面では、個人のお客様は修理対応が多いので、迅速に不安要素を取り除くことが大切です。法人のお客様の場合は、ガス以外に機械や材料も取り扱いますので、ニーズに沿った的確な提案力が求められます。現場の空気感を察知して、臨機応変に対応ができる人が活躍していますね。

 

また、コミュニケーション能力も大事な要素です。今はコロナ禍で控えていますが、ボンベの交換やメンテナンス時のお客様との会話も、仕事をする上での楽しみの一つなんですよ。

 

新社屋への移転がもたらした変化

 

2020年10月に新社屋へ移転し、働く場としての環境は大きくチェンジした。富士山が見える新たなワークプレイスは、社内にどのような変化を生み出したのだろうか。

移転した新社屋の様子。開放的な空間やMBWの導入によって、部署同士のコミュニケーションも活性化されたという。

——社屋を移転した理由についてお聞かせください。

 

望月さん 第一の目的はコミュニケーションの活性化です。以前も同じ敷地内ではありましたが、棟や階で各部門が分かれていました。そのため、部門を超えたコミュニケーションが生まれにくく、他部門の動きも見えにくいのが悩みだったんです。そこで、全社員がワンフロアで仕事できる環境にしたいと考えました。

 

——他部門の動きが見えることでどんな変化が生まれましたか?

 

望月さん ワンフロアになったことで、管理業務や事務など、違う部署で重複している業務が見えてきました。現在、そうした業務を集約・共有化する取り組みを進めています。共有化によって少しでも生産性を上げ、お客様に対するアプローチを最速化できればと考えています。

 

——移転と同時に、ぺーパーレス化にも取り組まれているとうかがいました。

 

望月さん 移転する前に社内にある書類を見直したのですが、誰が何のために保存してあるのかわからないものも多かったんです。そのあたりを中心に整理した結果、紙の書類を以前の約3割~4割にまで減らすことができています。

 

さらに、打ち合わせ用のモニターを多めに設置して、資料をモニターに映しながら話ができる環境を整えました。資料を出力して配布する必要がなくなり、部をまたいでの打ち合わせもスムーズになりましたね。

新社屋には食事スペースも用意されており、お昼どきは社員の皆さんが集まる。取材時は新型コロナウイルス感染対策のため、お昼休憩に時間差を設けた上で、一人ずつ昼食をとっていた。

老舗企業の文化をバージョンアップするために

——なぜ、このタイミングで新社屋へ移転されたのでしょうか。

 

望月さん 私が入社したのは6年前ですが、当時はまだ保守的な部分が多く残っていました。生産性の向上をねらって企画を提案しても、これまでこうしてきたからと従来の方法を優先されてしまうこともありました。もちろん、築き上げてきたものがあるからこそ成長できたのも事実です。

 

新たな制度やシステムは少しずつ導入していましたが、さらなる成長を目指すには、会社に根付いている部分を変える必要がありました。生半可なアップデートでは実現できないと気付いたのです。そこで、100周年のイベントの一環として、オフィスを土壌ごと変えたいと考えました。

 

——オフィスの場所自体を変えることをきっかけに、大きな変化につなげたい、と。

 

甲田さん そうです。変化を起こすためには、新社屋の建設と移転というバージョンアップが必要でした。旧社屋も老朽化していましたし、タイミングもよかったと思います。お客様が求めるものも変化していますし、オンラインでの打ち合わせなど日常の業務にも変化が起きています。少しでも先を歩んでいくためのバージョンアップですね。

 

望月さん 新社屋への移転によって、企業文化も1.0から2.0へと一気にバージョンアップしたイメージです。世の中の変化に合わせて、みんなが成長しやすいように方向性を整えることが私の仕事だと考えています。

 

——新しいオフィスへの移転で、象徴的な変化はありますか?

 

甲田さん ワンフロアになったことで、コミュニケーションが増えましたね。ミーティングスペースなどみんなが集まれる場所も多いので、気軽に打ち合わせができますし、社内全体の動きも把握しやすくなりました。

 

望月さん 業務のやり取りにも変化がありました。例えば、お客様からのお電話もその一つです。新オフィスではMBW(ムード・ベースド・ワーキング)を採用して固定席をなくしたので、これまでのような部門ごとの固定電話もなくなったんですね。

 

これからは誰でも電話をとって、すぐ担当者につなぐのではなく、最初のやり取りはできるようになろうと。業務の共有化にもつながる取り組みですし、みんなにチャレンジしてもらっているところです。

ニーズに基づくサービス展開で、地域インフラのハブを目指す

地域のインフラを支えるガス事業。

地域の子育て世代の支援や大規模災害時のオフィス解放など、地元に根付く企業として地域との関わりを大切にしているという。そこにはどんな思いがあるのだろうか。

 

——地域貢献にも力を入れておられるとうかがいました。

 

望月さん 静岡県には子育て世帯を支援する「しずおか子育て優待カード」事業がありまして、弊社も2017年より協賛店になっています。具体的には、ウォーターサーバー事業で扱うサーバーのレンタル料を3カ月無料にする、などですね。ミルクをつくるときに便利だと聞きましたので。

 

こうした取り組みを続ける中、今年の3月に「はぐくむFUJI オフィシャルサポーター認定企業」として認定をいただきました。今年の2月から富士市が始めたもので、地域や企業が一丸となって子育てを支援するための制度です。

 

——沼津市のプロサッカーチーム「アスルクラロ沼津」とも業務提携されていますね。

 

望月さん はい。チームの活動について、弊社のSNSで積極的に情報発信していますし、チームのサポーターズカードの運営も行っています。そのベースとなるのが、静岡県東部で展開されている「ふじっちCNカード」です。弊社も加盟していますので、対象サービスのご利用時にはポイントが貯まりますし、サポーターズカードのご利用でもポイントを貯められる仕組みになっています。

 

——一つひとつの活動に、地域との深いつながりを感じます。

 

望月さん もともとは、2016年の電力自由化がきっかけで、一般のお客様を対象にポイントサービスの導入を検討したことから始まりました。せっかくなら、地域オリジナルのポイントサービスを活用して地元を盛り上げたいと考えたのです。

 

アスルクラロ沼津も私たちの考えに共感してくれて、うまく連携することができました。今後もさらに地域の企業に声をかけて、連携の輪を広げていきたいですね。

 

甲田さん そのほか、新社屋にLPガス災害用バルクと発電機を設置して、大規模災害発生時の一次避難所の指定を受けています。地域の方々の避難所としてオフィスを使えないかと富士市に問い合わせたところ、他県からの応援スタッフの受け入れ場所が不足しているとのお話をうかがいまして。受け入れの拠点として、オフィスを開放することにしました。

 

——ライフラインを扱う企業ならではの取り組みですね。

 

望月さん そうですね。LPガスは災害に強いエネルギーと言われていますし、災害時にも強い会社でありたいという思いがあります。ウォーターサーバーや非常用発電機を取り扱っているのも、そのあたりを意識してのことです。

 

甲田さん 医療機関向けの医療用酸素や液体窒素なども扱っていますし、地域の拠点病院にも商品をお届けしています。ガスは生活に欠かせないものですし、今後もさらに、地域や自治体との連携を強化していきたいと考えています。

 

——ビジネスモデル自体が地域貢献につながっているのですね。

 

望月さん ガス事業というベースを持っていることが、弊社の強みだと考えています。長くビジネスを続けていますが、弊社の名前を知らないというお客様もまだまだおられます。まずは存在を知ってもらいたいですし、そのために発信力をさらに強化する必要がありますね。

 

地域の方々が何を必要としているのか、真のニーズに寄り添ったサービスを展開していくことが大切だと考えています。今後も自治体との連携を強化しつつ、地域のインフラにおいて、様々な企業やサービスをつなげる「ハブ」のような存在を目指していきたいです。

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取材のウラ側

東京一極集中が問題視される中、政府も積極的に地方創生を後押ししている。そうした背景もあり、地方における雇用の創出は今後さらに重要性を増していくだろう。富士酸素工業は、100周年を迎える老舗企業でありながら、変化に臆することなく新たな取り組みを積極的に進めている。そんな柔軟な姿勢にも魅力を感じた。地方を強みに、自治体と連携しながら地域に根ざしたサービスを提供していく。まさに地方創生につながるビジネスであり、変化する世の中に老舗企業がどう対応すればよいのか、その大きなヒントを得た取材であった。