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「科学技術の発展と地球貢献を実現する」ことを経営理念に掲げ、科学・テクノロジー領域を中心にビジネスを展開する株式会社リバネス。その歩みは、子どもたちに科学技術の魅力を伝える「出前実験教室」からスタートした。研究者のみを採用する同社では、全社員がそれぞれの研究経験やそこで培った考え方を活かし、多様なプロジェクトに取り組んでいる。 今回は、取締役CFOであり株式会社リバネスキャピタルの代表取締役も務める池上昌弘さんに、同社の組織づくりや働き方についてお話をうかがった。
目次
科学技術と企業をつなげる研究者を育成
研究者のみを採用し、社会課題の解決を理念に掲げるリバネス。社員は専門知識と経験を社会に還元するべく、研究者としての能力をいかんなく発揮している。
——社員全員が研究者とお聞きしました。そんなユニークな組織をつくることになった背景をお聞かせください。
当社は、2001年に理工系の大学院生が中心となり、「研究者であり続けたい」という想いを抱いて創業したベンチャー企業です。「科学技術の発展と地球貢献を実現する」ことをビジョンに掲げているのですが、その実現には専門分野に情熱的に取り組む研究者の力が欠かせません。
創業時から現在まで継続して取り組んでいることの一つに「出前実験教室」があるのですが、これも社員が研究者であるからこそできることだと思っています。
——「出前実験教室」とは?
若手の研究者が、未来を担う子どもたちにサイエンスとテクノロジーのおもしろさを伝える出張型の教室です。この教室では研究内容を子どもたちが理解できるよう説明することが求められるのですが、“わかりやすく分解して説明する力”は、社会と科学技術とをブリッジし、課題解決を目指す際にも重要となります。
このスキルは当社の根幹ですね。そのため、これを規定するための社内資格を設けています。「サイエンスブリッジコミュニケーター®︎」といって、科学技術をわかりやすく伝え、異分野の知識をつなぐことで世界を変える持続可能な仕組みを生み出す、プロデューサー的な役割です。
学びがあれば、失敗ではない
同社では、研究者としての情熱が個人の成長に結び付くと考えられている。そして、「サイエンスブリッジコミュニケーター®︎」の資格を取得してこそ、初めて“リバネス人”と呼べるのだという。
——「サイエンスブリッジコミュニケーター®︎」に必要とされるものはありますか?
「サイエンスブリッジコミュニケーター®︎」には、研究者としての柔軟な思考と情熱が求められます。当社では、研究や事業のプロジェクトを自由に立ち上げられるのですが、自由度が高い分やるべきことは多岐にわたるため、相当な覚悟がないとこの環境は楽しめません。
——やりたいことが明確であれば実現できる環境が整っている、と。
「これをやりたい!」と突き抜けているほうが、研究者としてはおもしろいですね。その好例が、今、弊社の第一線で活躍している養豚分野の研究者です。
彼は当社でインターンを経験した後、養豚を扱う会社に入ったんですが、「豚」への想いを抑えきれずに中途採用で戻ってきました。「豚を育てるところからお客様の口に入るまで、プロセスの全てが見える仕事をしたい!」と。「うちでは養豚を扱ってないけれど本当にいいの?」ってこちらも確認したりして(笑)
ちょうどその頃、沖縄の研究シーズを活用して産業創出までをマネジメントする人材育成事業の一環で、シークワーサーを使った商品開発アイデアを事業化するプロジェクトを進めていたんですね。彼はまずそこに行くことになりました。そこで、加工食品を製造する過程で出される食品のカスを豚のエサとして活用すれば、おいしい豚ができるのではないかというアイデアが出たんです。
——育てるより前の段階から豚に関わることになったんですね。実際に開発できたのでしょうか?
ええ、できました。ただ、開発の過程で豚の飼育に追われて全然計画通りに進まないとか、本当にいろんなことがありまして。その失敗談を、全社員の前でプレゼンしたことがあるくらいです(笑)
ただ、その瞬間瞬間は失敗なのかもしれませんが、彼は今では人材開発でリーダーシップを発揮して、後輩にもすごく慕われています。急に養豚を始めたことで、確かにたくさんの失敗を経験しました。けれど、時間軸を伸ばして考えると、トータルでは成功なんですよね。
失敗から学ぶ気付きは大きいですし、この方法ではうまくいかないことがわかるというのも、一つの立派な結果です。会社としては、社員がちゃんと失敗できて、その失敗を開示できる環境を用意することが大切だと思っています。
——失敗はあまり歓迎されないのでは、と考えてしまいます。
リバネスの文化として、失敗を咎めることはありません。もちろん、失敗から学びがなかったり、同じ失敗を繰り返したりする場合は別ですが、仮説をもってチャレンジすれば必ず学びはあると思っています。そうした考えのもと、とにかくやってみることを後押ししていますね。失敗から立ち上がるためにどうすればよいか、チームでディスカッションの場を設けるなどのサポートも行っています。
プロジェクトの成功はチームづくりにかかっている
リバネスでは、仕事中のつぶやきや雑談からプロジェクトが生まれることもあるという。プロジェクトを立ち上げるためのプロセスについて尋ねてみた。
——自由に研究や事業のプロジェクトを立ち上げられる、というお話がありましたが、ゴーサインが出るまでにはどのような判断があるのでしょうか?
プロジェクト化にあたっては、「社内で3人以上のチームをつくる」ことがルールです。もともとリバネスも3人の研究者で創業しています。3人だとディスカッションする際もバランスがいいですし、自分がおもしろいと思うことに最低でも社内で2人共感を集められるなら、事業として成り立つ可能性があるだろうという仮説を大事にしています。
——仲間を集めるためにも、「サイエンスブリッジコミュニケーター®︎」の説明力が必要となるわけですね。
そうです。説明が必要となる場面は、社内だけではありません。当社と組むと「おもしろい出会いがある」と言ってくださる企業は多いのですが、これも当社の社員が持つブリッジコミュニケーション力を象徴するものだと思います。
大企業の新規事業や自社技術の連携についてご相談を受けたとき、様々な研究者やベンチャー企業をご紹介していますが、「この研究領域とあの企業を掛け合わせるとおもしろいのでは?」と、異分野融合を意識しながらブリッジさせることも少なくありません。そうすることで新たな化学反応が生まれますし、お客様にはそうした視点をおもしろがっていただけていると考えています。誰も思いつかないような連携を生み出し、社会課題の解決につなげることが、サイエンスブリッジコミュニケーター®︎の醍醐味と言えるかもしれません。
社員が経営者になれるプロセスを社内で構築する
社会課題を解決に導くブリッジコミュニケーション力を育て、研究者の能力を社会に還元することを目指すリバネス。今後の展望をどのように描いているのだろうか。
——社員の方たちの成長にについてはどうお考えですか?
取引先開拓から請求書発行まで、社員一人ひとりに一連の仕事がこなせるようになってほしいと考えています。仕事の全プロセスを覚えることで、経営者に近い視点が身に付くからです。
いずれは様々な事業会社をつくってコングロマリット化し、その経営に成長した社員が関わってほしいと考えていますし、そうした経験はそこできっと生きてくるはずです。社名の由来となっている”Leave a Nest”に込めた、「すべての人々の巣立ちを応援する」というメッセージも、これによって実現できると思っています。
——経営者視点をもって取り組む研究者が増えていけば、さらなるイノベーションが期待できそうですね。
イノベーションを起こすためには、やはりブリッジコミュニケーションの力が要です。今後はこの力をより多くの学生や研究者、企業人材に活用していただきたいと思い、「リバネスユニバーシティー」を立ち上げることを決定しました。現在、来年以降の本格始動に向けて準備を進めているところです。
このように、これからはリバネス流の考え方や文化を、自社だけでなくもっと多くの組織にインストールしていきたいと考えています。異分野同士のコミュニケーションを促進し、新しい研究や事業を生み出すことで、“よりよい社会”の実現に貢献していきたいと思っています。
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取材のウラ側
研究者が研究室を飛び出し、企業を巻き込んで社会課題を解決する——。そんなリバネスの働き方は、研究者の新しいキャリア像だと感じた。同社主催の学生と企業をマッチングするイベント「キャリアディスカバリー」は、学生が企業に研究内容をプレゼンする貴重な機会になっているという。リバネスは、専門知識を生かしたい研究者にとって、その夢を叶える「巣」となるだけでなく、人間としても大きく成長できる魅力的な場所と言えるのではないだろうか。
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