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自らを「社会的役割を基盤としたお花屋さん(social flower shop)」と語る株式会社LORANS.(以下、ローランズ)。カフェを併設したフラワーショップの運営やフラワーギフトの制作、植栽の管理など、花や緑を軸とした事業を展開しながら、一般社団法人ローランズプラス(以下、ローランズプラス)との両輪で障がいや難病などと向き合う人の雇用を積極的に創出している。社会課題に深く切り込む現在の事業スタイルは、どのようにして育まれてきたのだろうか。代表取締役の福寿満希さんに、同社の事業内容やカルチャー、働き方についてお話をうかがった。
目次
事業を通じて雇用格差の課題解決をめざす
「排除なく、誰もが花咲く社会を作る」をミッションに掲げるローランズ。障がいや難病のほか、LGBTQ、シングル子育て家庭などのマイノリティ当事者の採用を積極的に行っている。
ーー事業内容について教えてください。
生花業を軸としながら、個人のお客様に向けたフラワーギフトやブライダル装花のほか、法人のお客様を対象とする観葉植物のレンタルや屋内外の緑化の企画などの事業を手掛けています。そうした事業を通じて、障がいや難病などを持つ方の採用も積極的に行っていて、65名いるスタッフのうち50名弱が障がい者等採用となっています。
ーー障がい者雇用に力を入れるようになったきっかけは何ですか?
学生時代に、特別支援学校教諭の免許を取得するため教育実習に行ったんです。そこではじめて障がいと向き合う子どもたちと接したのですが、みんな働くということにすごく夢を持っていて。ただ、その一方で当時の障がい者の就職率は低く、仕事を得るのが難しい現実も知りました。
そのときに、私のなかで働くことに対する価値観が大きく変わったのを覚えています。自分の「当たり前」が、誰かにとっては「夢」であること。そして、いつかそうした子どもたちを受け入れられる会社をつくりたいと考えたことが、今の事業につながっています。
ーー事業を続けるなかで大切にしていることはありますか?
本当に必要なものが、本当に必要な人に届くようなサービスを提供したいと思っています。そこで大切になるのが、事業性と社会性のバランスです。ただ事業をつくるだけではなく、その事業で社会の課題をどうやって解決していくかを考える。そういった価値観や共感性をとても大切にしています。
一人ひとりのペースに合わせた働き方を実現するために
「誰もが完璧にできることを前提としていない」ローランズでは、スタッフの小さな変化に気付けるようなチーム体制や、困ったことがあれば気軽に声を掛け合える雰囲気など、それぞれのペースに合わせた働き方を実現できる環境が整っているという。
ーー65名中50名弱が障がい者等の採用とのお話がありました。ほか15名はどういった方なのでしょうか?
主に事業チームの管理業務を担当しています。私は特別支援学校教諭の教員免許を持っていますが、小学校や幼稚園の教員免許であったり、介護福祉士の資格を持つ人もいたりしますね。全員が有資格者ではないのですが、それぞれがある程度福祉に関する知識を持っています。
ーー障がい等と向き合うスタッフに対して配慮されていることはありますか?
季節の移り変わりなど、環境によって心身のコンディションにアップダウンが出てくるスタッフも少なくありません。体調があまりよくないときに仕事をたくさん抱えると、そのまま悪化してしまうことがあるんですね。
ですので、事業チームの管理者が変化を見落とさないように、チームは5名程度の少人数制にして気を配りやすいようにしています。有資格者もいますし、急な体調変化が起きてしまった場合は病院に行くまでのケアはできる体制になっています。そして、専門的なアプローチが必要になったときにすぐ対応できるように、医療機関とも連携をとっています。
急に調子を崩して当日の仕事を休まざるを得ないこともありますが、そんなときは余裕があるチームに応援を頼みます。そうやってお互いにサポートし合って、業務に影響が出ないように助け合ってしています。
ーー皆さんで支え合う体制ができているのですね。
そもそも、できることが当たり前とされていないんです。例えば、わからないことがあれば周りに助けを求めますし、助けを求めやすい文化があるとスタッフも話しています。
配属に関しても本人の希望に合わせていますし、なにか問題が起こったときにはしっかり話を聞いたうえで社内でジョブチェンジができるようにしています。フラワーギフトの制作から食品サービス関連の業務、Webサイトの企画まで、合わせて10の事業を手掛けているので、ジョブチェンジは最大で9回できます。うまくいかなかったから会社を辞めるのではなく、本当に自分に合う仕事や環境を探しながら、最終的に長く続けられる場所が見つかればと考えています。
ーーほかにも、働きやすさを実現するために工夫されていることはありますか?
勤務の時間枠はある程度決まっているんですが、始業のタイミングを午前と午後に分けて、そのときの生活リズムに合わせて業務をスタートできるようにしています。
あとは、業務の工程でしょうか。どんな仕事も大体はシンプルな業務の組み合わせによってできるいると思っています。例えばカフェで、一つのフルーツサンドができあがるまでに10の工程があるとしたら、一人で全部やってしまうのではなく、3~4工程ずつ分担して進めるんです。一つひとつの業務における専門家をつくるイメージですね。そうやって細かく工程を分けることで負担の軽減にもつながりますし、専門家が複数人で完成させるので品質も向上します。
ーー御社での仕事を通じて、ポジティブな変化が生まれた方はいらっしゃいますか?
当社に来るまでは長くて3カ月しか仕事が続かなかったのに、もう5年以上働いているスタッフがいるんです。なぜだろうと考えたのですが、それは花や緑を扱う機会が多いからではないかな、と。
花や緑と触れ合うと幸福ホルモンと呼ばれるものが分泌されて、緊張や不安など、ネガティブな気持ちが抑えられるという研究結果もあるようです。当社で働く障がい枠スタッフの8割は精神障がいの当事者なのですが、日々美しいものに触れ、心を整えやすい環境のなかで仕事をすることが、ポジティブな効果を生んでいるのかもしれません。
支援“される”側から、支援“する”側に変えていきたい
ローランズでは、障がい者雇用の創出のほかにも、花の再資源化や子どもたちの食事支援など、社会貢献につながる様々な取り組みを実施。その活動の輪はグループ内にとどまらず、社外にも広がっている。
ーー本日はローランズ原宿店で取材を行っていますが、スタッフの皆さんがいきいきとお仕事をされている印象です。
働ける世代の障がい当事者のうち、仕事に就けていない人の割合は8割を超えるとも言われています。こうした方々は社会課題の対象者として、支援される側に回りがちです。私たちは事業を通じて、当事者が支援される側ではなく、支援する側に変わるお手伝いをしたいと考えています。
例えば、2018年から取り組んでいる「お花屋さんのこどもごはん」も、そうした取り組みの一つです。子育て世帯や子どもの支援団体と連携して、食事を必要とする子どもたちやそのご家族にお弁当とお花を提供しているのですが、調理などの運営業務は障がいや難病等のスタッフが担当しています。それによって、誰かをサポートすることの素晴らしさや、何かをしてもらうことのありがたさを改めて実感できますし、感謝の気持ちとか、物事の捉え方も変わってくると思うんです。
実際、自分がしてもらいたかったことを誰かにすることで、心が救われたというスタッフもいます。そういった話を聞くと、本当は自分も誰かに何かをしてあげたいけれど、それができない環境にあったんだなと改めて感じます。
ーー今年の3月、障がい者の法定雇用率が2.2%から2.3%に引き上げられました。障がい者雇用にどう取り組めばいいか悩む企業も少なくないかと思います。
私たちも、そうした企業の方たちの見学や相談をお受けしているのですが、そのなかで「雇用したいけれどできない状況」があることに気付きました。特に中小企業の場合、採用方法がわからない、業務管理者の確保が難しいといった理由で、企業単体で法定雇用率を達成するのが難しいんです。一方で、障がいの当事者には、働きたいけれど働く機会を得られない現状があります。
そこで、私たちのノウハウを共有しながら、そうした企業と共同で雇用を創出できないだろうかと考えるようになりました。ちょうどその頃、行政の方から「算定特例制度」を活用した仕組み作りに挑戦してみないかとご提案頂きました。
民間企業においては、企業単体で障がい者の雇用率を算定する方法のほかに、親会社と子会社で合算する方法や、組合をつくって合算する方法などの特例があります。けれど、制度の導入は少しハードルが高くて、なかなか活用されていなかったんですね。活用が広がるよう、そのための事例作りのご相談でした。
ーー考えておられたことと、行政からのご相談。両者のタイミングがちょうど重なったんですね。
算定特例制度を活用するため、2019年に「ウィズダイバーシティ有限責任事業組合」を設立して、組合として複数の企業とともに障がい者雇用を創出する「ウィズダイバーシティプロジェクト」を開始しました。先ほどお話しした「お花屋さんのこどもごはん」も、このプロジェクトの一環として、子ども支援を通じて障がい者雇用創出にも繋がります。
組合に加入する企業から集まったお仕事は障がい者雇用を行うローランズプラスで受託し、仕事量に合わせて新たな雇用を増やします。
――ウィズダイバーシティプロジェクトは、障がい者雇用の問題に取り組む企業にとって大きなヒントとなりそうです。最後に、今後の展望についてお聞かせください。
2022年の春頃に、フラワーアカデミーをスタートさせる予定です。と言うのも、現在、障がい者雇用枠で花の求人を出しているのですが、大変人気求人のため、花の制作経験のある方のみが採用に繋がることが多いです。もともと、未経験者OKのお花屋さんも少ないですし、経験を積む機会を得るのが難しい分野でもあります。
そうした背景から、お花の仕事がしたい障がい当事者を対象に、花の技術を取得しながら仕事を学ぶことができる職業訓練学校を開くことにしました。フラワーアカデミーで実務経験を積み重ね、資格を取得して、カリキュラム修了後にはお花屋さんへの就職と繋がるようサポートしたいと考えています。
ウィズダイバーシティプロジェクトに関しても、2年ほど運用するなかで、いろいろな課題を少しずつ解決できるようになってきました。この仕組みをさらにわかりやすく噛み砕いて、障がい者雇用に悩む全国の中小企業での活用が広がるようにしっかり整えていきたいです。
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取材のウラ側
「助けを求めやすい文化」という言葉がとても印象的な取材だった。障がいや難病などと向き合うスタッフと、管理業務を担うスタッフのあいだに垣根はなく、わからないことを聞きやすい環境があるのだという。小さな変化を見落とさない少人数のチーム編成、細分化された業務など、働きやすさにつながる様々な工夫が取り入れられている一方で、どちらかがサポートするのではなく、互いに助け合う社風が根付いているローランズ。試行錯誤を繰り返して築き上げてきた同社のノウハウは、日本国内の障がい者雇用を推し進めるエネルギーとなるに違いない。
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